unexpected feature [ 1/2 ]


「お腹空いたなー。あ!マジバあるよ赤司くん!寄っていこう」
「いや、ファーストフードは」
「いえーい突入だー!」
「…はぁ」


拳を突き上げ、自動ドアを軽快な足取りで抜ける。赤司くんは全身から「話を聞かない奴は嫌いだ」オーラを放ち眉を下げながらも私の後を追ってきた。

赤司くんは幼い作りの顔なのに、表情は固いし視線はレーザービームが出せそうなくらい鋭い。言動も学生とは思えない無駄の無さで、時々…いや、常に同い年だということを忘れそうになる。重ねて、強豪バスケ部のキャプテン。よっぽどの用事がなければ部員はまず近寄らないし、その他の生徒だって右に同じ。皆から怖がられるお人である赤司くんだけど、意外と優しかったりする。甘い部分もあると言った方が正しいかもだけど。


「何にしよっかなー…あ、私はこの期間限定のグラコロマジバーガーで。赤司くんは?」
「いらな」
「彼にはホットコーヒーSで。あ、会計はまとめて私が払いますので一括でお願いします!」
「勝手に注文するな」


店員のお姉さんは笑顔でレジを操作して、明るい声で値段を告げた。はーい、と間延びした返事をしつつ自分の財布へと目線をやる。小銭を掴んでトレーへと手を伸ばすと、遮るように赤司くんがレジとの間に割り込んできた。


「1000円お預かり致します」
「あ、赤司くん!ダメだよ、私が誘ったんだから私が払うよ」
「こういうのは女性に出させるものではないと聞いたが」


違うのか?と首を傾げる赤司くんを怖がってる生徒が見たらどう思うんだろうか。きっと数秒固まって「お前誰だよ…」と口走ってしまうはすだ。なんせ私がそうだったから。


「じゃあせめてテーブルまで運びます!」
「それもさせてはいけない項目に入っているから却下だ。席を取っておいてくれるかな?」
「…はい」


適当に空いてるテーブルに座る。誰だよ赤司くんにそんなことを教えたのは…自分に問い掛けてみたものの答えは明白であった。そんな話が出来る仲で、そんな知識を持っているのは一人しかいない。


「黄瀬くんだ…」
「アイツがどうかしたのか?」
「なんでもなーい。ありがと」
「どういたしまして」


トレーを運んできた赤司くんに、こんな店員さんがいたらひっきりなしにお客さんがくるな、と得意の妄想を働かせてしまった。席についた赤司くんはコーヒーを取ってトレーを私の前へと滑らせた。その所作も綺麗で、トレーを押さえる傷ひとつない指先にまた別の妄想を膨らませかけた私は変態かもしれない。


「コレ毎年食べてるんだよね!今年もミッションコンプリート〜!」
「そんなに美味しいのか?」
「もちろん!あ、食べてみる?」
「だからこういう類いは」
「はい、どうぞ!」
「…」


包み紙を全て外す派の私はいつも通り丸裸にして、出来立てほかほかのバーガーを赤司くんに差し出す。鼻先のそれを暫し寄り目で見つめた赤司くんがおずおずとバーガーを掴んだので、手を離した。


「いただきます」
「召し上がれ、って赤司くんが払ったんだけどね!はは…」


ぼとっ。それは私が笑い声をあげたのとほぼ同じタイミングで、私が笑ったせいでこんなことになったのかと焦った。そんなわけがないのは、目の前で微動だにしない赤司くんを見れば一目瞭然だ。がぶりと私が注文したグラタンコロッケのバーガーにかぶりついたままの赤司くん。誰もが一度は体験があるであろう“後ろから具が飛び出しちゃう現象”赤司くんは見事にその現象を起こし、薄い衣から飛び出したグラタンで制服を汚していた。


「…ハッ!あ、あの…赤司くん大丈夫?」
「……ょ…ゃ………」
「え?」


制服のグラタンを見下ろしうつむく赤司くんが呟いた何かを聞き取ろうと身を乗り出す。


「…僕の制服を汚す奴はグラコロでもオヤコロだ…!」


今にも泣き出しそうな子どもみたいにぶるぶる震えながら言うものだから、思わず吹き出してしまった。だって、これはいくらなんでも反則すぎるでしょ!私の反応にムッとした赤司くんの制服を「はいはい、そうだねー」と半笑いで拭った。赤司くんが思いの外可愛い生き物だというのは、私だけの秘密だ。







unexpected feature


(美味しかった?)
(まぁ、悪くはない)
(来年は汚れてもいい服着てこなきゃね)
(…そうだな)

20121125 →あとがき
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