花宮 [ 2/3 ]


「あ、姓さん」


約束通り校門で待っていると、緊張した声音で同じクラスの男子から声をかけられた。その人はクラスでもなかなか男女共に人気があって、持ち前のリーダーシップでクラスをまとめることも多々ある。加えて育ちもいいので、花宮くんが“仲良く”している一人だ。


「誰か待ってるの?」
「うん、これから真くんと映画館に行くんだ」
「そうか、………」
「どうかした?」
「あの、俺さ…」
「?うん」
「ずっと姓さんのことが好きだったんだ。姓さんが花宮と付き合ってるのも分かってるし二人が理想のカップルだって言われてるのも納得してる。でも、どうしてもこの気持ちだけは伝えたくて…」
「あ、えと…」


想定外だった。花宮くんの理想の彼女としての返答をいろいろ教えられてるけど、告白の返しは聞いてないよ。ここは無難に返すべきか、何か付け足すべきか。でも余計な事言うなって言われてるし…。


「何やってんだよ」
「は、花宮…!」


張り詰めた沈黙を破ったのは、用事が済んでここへ来た花宮くんだった。動揺している目の前のクラスメートはほっぽって、花宮くんは私との距離を詰める。


「んだよこの状況は」
「いや…つい今しがた告白を受けまして…」
「誰が許可したんだよ」
「は?」
「誰が告白受けるの許可したんだって聞いてんだよ」
「そんな無茶な…」
「待ってくれ花宮、姓さんは悪くない。オレが急に…」
「黙ってろ。オレはテメェみたいな真面目な坊っちゃん見てると虫酸が走んだよ、とっとと消えろ」
「なっ!?」


驚愕しているクラスメートをその場に置き去りにして、花宮くんは校外へ出ていった。呆気に取られてる彼に「ごめんね」とだけ謝って花宮くんの後を追いかける。


「いいの?あんなこと言って」
「黙れ。んなことより、何嬉しそうな面してんだよ」
「え?だって妬いてくれたのかな〜って」
「ふはっ!バッカじゃねぇの」
「だって今まで地道に作り上げてきた関係壊してまで助けてくれたし」
「…別に。あんな奴繋がってようがなかろうがさして困んねんだよ」
「そっか」


いかにも花宮くんらしい台詞だけど、アイツは使えるから嫌われるな、なんて私に言ったぐらいだったのにあっさり捨てるとは…私の方が大事だって自惚れてしまいますよ。


「お前男に媚びるようなことすんなよ」
「媚び?した事がないから何が媚なのか分からないけど」
「…さっきアイツに謝ってたろ」
「ああ…え、アレ媚びてたの?そんなつもりなかったけど…。それにあの場面で無言で立ち去ったら感じ悪い女にならないかな?」
「そんな事気にしてつるんでるから告白なんかされんだよ」
「えっでもそれじゃ花宮くんの理想の彼女じゃなくなっちゃうよ?」
「…両立しろ」
「ファッ!?無理だよ!ただでさえ花宮くんの言い付けどおりにするの難しいのに」
「とにかく好かれるな」
「…まさか…本気で妬いた?」
「はぁ!?んなわけねえだろバァカ!」


花宮くんは珍しくオーバーアクションで凄く嫌そうな顔をしたのは、もしや図星だから…?やたら「ブス」だの「殺す」だの言ってくるのが怪しい。朝からタイミングをずっと逃してたけど、今ならいけそうな気がする。


「真くん、誕生日おめでとう」
「お前名前で…っ!?」
「今日だけ、ね?」


眉を寄せた険しい顔を、肩を掴んで引き寄せ、頬に口付ける。直ぐに離れて顔を確認してみれば、ポカンと呆けた顔をして瞬きを繰り返していた。


「プレゼント代わりに今日のお弁当は好きな物ばかり入れておいたんだけど気付いた?」
「…知るか」
「顔、赤いよ?」
「あんまふざけてっと殺すぞ。あと、すんならこんくらいしねえとオレは驚かねえ」
「え…んっ!」


常時偉そうな花宮くんを驚かせてやったという優越感に浸っていたら、急に制服の襟を掴まれて乱暴に手繰り寄せられた。磁力でも働いたかのようにグンッと体が持っていかれ、次の瞬間には唇が重なっていた。ふっと離れた顔は勝ち誇っていて、さっきの赤くなった顔はどこへいったんだ。


「100年はえぇよ」


私の思考なんて全てお見通しと言わんばかりの台詞を吐いて、歩き出した花宮くんの後を追う。後ろから見上げたら耳が少しだけ赤くなってて、いくらIQが高くても体の紅潮までは調節出来ないらしい。

天の邪鬼、なんて可愛らしい言葉で片付けられるような性格ではないけれど、ちゃんと人並みに照れたりするんだなと微笑ましくなった。たったこれだけの事で彼の命令はなんでも聞こうと思えるのだから、私は相当な変わり者だろう。










Happy Birthday Project!


(何ニヤニヤしてんだ)
(可愛いなーと思って)
(何が)
(秘密!)

20120112 →あとがき
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