高尾 [ 2/3 ]


思ったならなんで言ったんだか。
真剣な表情をして宣言したと思ったら、へらっといつもの雰囲気に戻る。「本気なのに」と口を尖らせる高尾くんがストールを私の首に巻いた。


「私はいいって」
「嘘つき、寒いくせに」


むに、と鼻を摘ままれ「こんなに冷たくなっちゃってさ」と笑われて、手を振り払った。普段子どもみたいにきゃっきゃ騒いでるくせに不意に全てを見抜いてるみたいに優しくされると、困る。…これが“あざと可愛い”の次に言われてた“ギャップ萌え”?よく分かんないけど。


「名ちゃん」
「…黙るって言ったのに」
「本当に嫌なんだったら、ちゃんと言ってくれていいから」
「え?」
「今まで名ちゃんの好意に甘えて強引なことしてきたけど、嫌がることはしたくないから」


泣きそうな顔で笑う高尾くんに、胸がズキンと痛んだ。
なんでそんな顔するの?まるで私が高尾くんをいじめてるみたいじゃないか。

いつだって本能のままに行動して、私のキツイ言葉を軽く受け流して、飄々として掴み所がなくて、これだけ人の事振り回しといて最終的に私に委ねるなんて…やり方が汚い。うんざりするほど高尾くん漬けの毎日を送らされて、今更高尾くんのいない生活に戻れないに決まってる。


「嫌じゃ…な、い」
「えっ」
「だからっ…!別に嫌じゃないから…」
「マジ…?ちょっ、マジ!?名ちゃん本当に嫌じゃないの!?」
「何回も言わせないで」
「やったーーー!!!マジかよマジかよマジかよぉ!よっしゃあ!」
「…そんなに嬉しい?」
「嬉しいに決まってんだろ!」


教室を飛び回る高尾くんは興奮を抑えきれないらしく、窓を開けグラウンドに向かって叫んだ。


「名ちゃんはオレのだかんなぁーーー!誰も手ぇ出すんじゃねぇぞーーー!!!」
「バッちょっ、何言ってんの!誰が誰のだって!?」
「え、名ちゃん俺と付き合ってくれるんでしょ?」
「はあ!?いつそんなことに」
「だって“嫌じゃない”って」
「それがなんで付き合うに繋がるの」


高尾くんの予想外の奇行に、性急に窓との間に割って入り冷たい風が流れ込む窓をピシャンと閉めた。ぐるりと体を反転させて顔の近さにハッとする。高尾くんは抜け出そうとした私の腕を掴み窓に押し付けた。


「ツンデレ名ちゃんの“嫌じゃない”は“好き”と同義っしょ?」


ほくそ笑み私を見下ろす高尾くんは、別人かと言いたくなるくらいいつもの爽やかな笑顔からかけ離れた悪い顔をしていて、鳥肌がたった。


「手…冷たい」
「あぁ、ワリー」


パッと掴んでいた腕を解放されて、さすると高尾くんの手の冷たさが自分手から伝わってきて、なんだか変な感じ。


「好きっつーのは否定しねーんだ?」
「…」
「好きだぜ、そういう嘘つけないとこ」


さっきは「嘘つき」って言ったのにとか、表情コロコロ変わるなとかいろいろ思ったけど、とにかくこの味わったことのない妙に甘ったるい空気をガラリと変える話題はないかと思考を巡らせても、一向にいい案が出てこない。どこを見ていいのか分からず、目をキョロキョロ泳がせていると高尾くんが突然天井に向かって「あ゛ーーー!」と声をあげた。驚いて見上げると喉仏が見えて、次にバッとおろされた顔と目があった。どうしたんだと思ってる内にぎゅっと抱きよせられて、私の頭はキャパオーバーもいいところだ。


「ダメだ、可愛すぎる…!やっぱ誕生日プレゼント欲しい!」
「消しかすあげたじゃん」
「え〜?まっさか〜!…嘘、アレ本気?」


…さすがにアレは酷いかと思い直したけど、あげれるようなモノなんて何もないし…あ。


「図書カードあるよ」
「だから、モノはいいって。あーもう潔く諦めてさ、オレに名ちゃんくれよ」
「あ、あげるったって…」


私に私のことが欲しいなんて言われても、はいどーぞと返事するわけにもいかず、困っている私を見かねた高尾くんが人差し指を自分の唇に当てて小首を傾げた。


「とりあえず…キス、させて?」


あぁ、やっと分かった。男の可愛い仕草なんて一生共感出来ないと思ってたけど、非常に攻撃力が高いことが判明した。ゆっくり近付く“あざと可愛い”高尾くんの顔に底知れない恥ずかしさを感じながら、小さく口を動かす。


「誕生日、おめでとう」


目を瞑る前に見えたのは、至極楽しそうににゆるめられた高尾くんの唇だった。










Happy Birthday Project!


(小首傾げるのって癖?)
(癖じゃねーけど、可愛いっしょ?)
(あざとい…!)

20121121 →あとがき
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テーマ「人外ファンタジー」
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