降旗 [ 2/3 ]


「ぅ…、あ、えと…」


煮え切らない降旗くんに追い打ちをかける。


「好きです、付き合って下さい」
「う、ぉ!?」
「好きです!付き合って下さい!!」
「ちょっ姓っ!」
「好きです!!付き合ってくだ」
「わあああああ分かったっ分かったから!」


いよいよかと騒がしかったギャラリーが息を飲む。円状に囲まれたこの空間で突如クラスメイトから告白されるなんて、逆の立場だと考えると寒気がする。絶対いやだ。あまりの沈黙の長さに、しでかした本人がこんな事を考えているだなんて誰が想像し得るだろうか。複数の小さな期待の声にハッと意識を引き戻す。降旗くんは深呼吸をして、力強い目で私を見た。そして数分前の私のように深く息を吸う。


「俺も好きです!よろしくお願いします!!」


降旗くんの顔が真っ赤になるのと同時に玄関は今日一番の盛り上がりを記録した。拍手と祝福の声がまじりあってもう誰がなんていってるのか分からなかった。騒ぎを聞きつけた先生が飛んできて、皆慌てて散って行った。私はどさくさにまぎれて一人屋上へと足を向けた。遠くから授業開始の合図が聞こえた。それに被せて屋上のフェンスを掴んでめいっぱい叫んだ。


「緊っっっ張したああああああああああああああああっ!!」
「…姓でも緊張とかすんだな」
「わあっ!?」


一人だと思って油断していた。振り返ると気まずそうに頬をかく降旗くんがドアを背に立っていた。いったい今何が起きているんだ。どういう状況ですかこれは。


「姓が教室から離れてったから追いかけてきたんだけど…」


あれだけ思い切った事をしておいて、緊張してましたとか恥ずかしすぎる。しかも一番知られたくなかった人に簡単にバレてしまった…。沸き上がる羞恥心。顔を隠し暫く悶えたあと、ふと疑問が生じた。


「降旗くん、授業は?」
「オレ人生で初めてだ、サボリって。なんかこう…背徳感がスゴイな」


ああ、私のせいで降旗くんが優等生から道を踏み外してしまいました。どこかふっきれた顔をして、降旗くんはゴロンと寝ころんだ。空を眺める降旗くんに並びマネして寝ころぶ。


「降旗くん」
「ん?」
「本当に私のこと好きですか」
「は?なんでそんなこと聞くんだよ」
「…もしかしたらさっきのは周りの空気に押されて仕方なく口走っちゃっただけなのかなーとか、思わなくもなかったり」
「姓って行動大胆な割に繊細だよな」
「それほどでも〜」
「いや褒めてないけど」
「はは、は…?」


頭を挟んで筋肉質な両腕が伸びてきて、それは床に行き着いた。降旗くんが私を跨いで見下ろしている。その目はいつもと違って余裕を含み、口元は楽しそうに弧を描いていた。どちら様ですか。


「オレはバスケ部きってのヘタレだからさ、」


顔がぐんと近づいてちゅっと可愛い音がした。硬直してる私の髪をサラリと指に通して、降旗くんでいっぱいだった視界には青い空が広がった。


「名に嘘つく勇気すらないんだよね」
「…降旗くん、今のはどう考えてもヘタレの行動だとは思えません」
「そうか?」
「…」


あの場では言わなかったけど、開運おまじないには続きがある。コインと一緒に願いを書いた紙を一緒に入れるとそれが叶うらしい。もちろん入れた。

“降旗くんが私にだけ積極的になる”

叶ってしまった。
なるほど、そりゃああの緑間くんも盲信するわけだ。










Happy Birthday Project!


(プレゼントってことでその袋くれない?)
(いや、それだけは)
(いーじゃん。よっ…あれ、紙?)
(積極性があだに…!)

20121108 →あとがき
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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