氷室 [ 2/2 ]


あの日、紫原くんの誕生日に私はプレゼントとしてまいう棒の詰め合わせを渡した。部活が終わるまで我慢出来ないと駄々をこねた紫原くんに、今日だけと約束してポケットにまいう棒を忍ばせ、休憩で体育館を出た時にひっそり食べていたのだ。


『(この味)好きー』
『私も(この味)好きー』
『じゃあ(味的な意味で)両想いだねー』
『あはは、(味的な意味で)そうだねー』


…確かに、会話だけ聞けばそういう風に聞こえなくもない。


「ってわけなんですけれども…」
「……」
「……」
「え、じゃあオレ…!」


“勘違い”だと気付いた先輩は手の甲で口元を隠していたけど、耳まで真っ赤で全く意味をなしていなかった。





―――――

「紫原くん、ナイス働きだったよ!でもどうやってバレないように氷室先輩のバッシュ壊したの?」
「力入れたらすぐ破れるようカッターで切れ目入れといた」
「策士だね」
「お互い様でしょ。紫原からのあだ名ちんとむろちん二人きりにさせたのも計算だったんだし」
「まあね、だってあの二人見てるともどかしくて」
「それはそうだけど。アンタむろちんのこと好きじゃなかったの?」
「私のはアイドル的な好き、likeだから問題ナシ」
「ふーん」

―――――





「ところで、名は何か用意してくれてないの?」
「ギクッ」
「…とても分かり易いリアクションで助かるよ」
「あ、ソフトキャンディです!地域限定の珍しい…」
「朝同じのをコンビニのレジ横で見た気がするけど」
「で、ですよねー」


私の手には“秋田限定きりたんぽ味”のソフトキャンディ。限定は嘘じゃないんだよ?ここが秋田なのが悪いんだよ、うん。ひとつ包みをあけて、口に放り込む。


「あの、プレゼントは後日必ず用意致しますので…」
「同じ10月で敦のは覚えててオレは忘れられるんだ、悲しいなぁ」
「ほんっと、すいません!紫原くんは数日前に脅迫まがいの誕生日宣言をされましてだから紫原くんのは例外というか紫原くんはまいう棒だから安上がりだし」
「まぁ、今年はこれで」
「え…んっ!」


顎を掴まれて先輩の顔が視界いっぱいに広がる。唇にふに、と柔らかい感触がして数秒。硬直している私からスッと顔を離して、先輩は自分の唇をぺろりと舐めた。そこで初めてさっき口に含んだばかりのソフトキャンディがなくなっていることに気付いた。










Happy Birthday Project!


(なかなか美味しいね、これ。名から貰ったからかな?)
(なっ、なななななにを…!!)
(それと、俺の前で他の男の名前何回も呼ばないで。次は許さないから)
(!)

20121030
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