伊月 [ 3/3 ]


「オレら2年からは、寄せ書き入りのボールと特大の写真立てだ」
「うわ、本当に大きいな」


日向から渡されたそれは自室の20インチのTVを思わせるサイズで、オレが想像する“写真”を飾るには大きすぎた。


「いんだよ、こんくらいで。全国制覇した時の集合写真飾んだから!」
「中身は自前ってこった」
「はは、それならこれくらいじゃないとな。ありがとう」


額縁に収まる笑顔の集合写真を想像して、無意識に笑ってしまった。


「ボールもすごいな、全員一言ずつ書いてくれたのか…ん、なんだこの汚い字“全国制は!!”…なんで“は”だけ平仮名なんだ…火神」
「漢字分かんなかったんで、すません」
「火神ーだるまじゃないんだぞー目標書いてどうすんだ」
「お前と黒子はほんっと問題児な!」
「火神くんと一緒にしないで下さい」
「んだと黒子ぉ!」


むすっとする黒子の胸ぐらを掴んだ火神を土田がまぁまぁと諌めてなんとか落ち着かせた。



「そんな黒子は…“ダジャレは控えめでお願いします”か。これわざわざここに書くことか?」
「おー黒子、お前も同じ事書いたのか」
「日向先輩もですか?」
「え」


ボールをくるりと回して日向の文字を探すと“ダジャレ卒業しろ”と書かれていた。お前ら…それしかないのか…。口をきゅっと結んで謎の切なさにうち震えていると、とんでもないことが発覚した。




「あ、オレもだ」
「え、土田?」
「オレもー」
「え、コガ?」
「…………」
「水戸部までぇ!?」


スッと遠慮がちに手を挙げた水戸部はその場で崩れ落ちたオレにオロオロしていた。


「あ、せっ先輩!私は違いますよ!ちゃんとコメントらしいこと書きました!」
「慰められると逆にクるな…」


でも一応、と名のコメントを確認する。

“凄くセンスがあるし面白いし素晴らしいんですが、部活時、私語が少し減ると更に素晴らしくなると思います!”


……………


「結局ダジャレやめろってことじゃないか!!!」
「え、あの文章で分かるなんて…さすがです!」
「うんありがとう、褒められてる気が全くしない」
「伊月、名は私語って書いてるぞ?ダジャレじゃないかもしれないじゃないか」
「つい今しがた本人が認めたばっかだったろ!」
「木吉、お前もう帰れ」
「あれ?もしかしてオレ空気読めてない?」
「大丈夫だ、今だけじゃねぇから」


オレが木吉に抱くこの“もう黙ってろよ”という感情を皆がオレに抱いているのかと思うと、更に切なさが増した。

どんちゃん騒ぎ。飲めや歌えやの大騒ぎで、と言ってもお菓子にジュースだから酔っ払いじゃない分、ネジが外れたような奴はいないが、コガを中心に盛り上がる輪から抜けてベンチの端でジュースを飲むオレの隣に日向が座った。


「今日はありがとな」
「おぅ」
「写真立てに最高の1枚が入るように明日からまた頑張らないとな」
「そうだな。
…ところでお前、気づいてたのか?パーティーのこと」


サプライズで、と企画をしていた人に言っていいのか…と迷ったが、嘘をつく道理もなく、正直に答えた。


「…まぁな」
「やっぱな。いつ気付いた?」
「部室見えた時かな。普段先にあがる場合部室の鍵は帰る時体育館に残ってるやつに渡して帰るだろ。部室は電気が消えてるのに日向は鍵を届けに来てない。間違えて持って帰ったかとも思ったが、ドアのぶ捻ったら鍵自体かかってないし」
「…オレか」


はぁ、と自嘲気味にため息をついた日向を元気づける意味で背中をポンと叩いた。


「まぁそれに疑問を抱かない名もおかしかったし、それ以前に名はずっとそわそわしてたからな」
「…確かに。オレがまだ練習いた時から落ち着かねぇでウロウロ歩き回ってたしな」
「完全なサプライズではなかったにしてもここまでやってくれるとは思ってなかったし、嬉しかったのは事実だから」
「…そうか」


二人して騒ぐ皆に目をやると、コガがコップをマイクみたいに口の前に構えて元気に手を挙げた。


「はーい!ではそろそろお開きの時間が近づいて参りましたので、本日の主役、伊月俊様よりご挨拶をいただきましょーう!」


わーと沸いて拍手が起こる。オレが手招きしたコガの隣に立つと、コガはレポーターの真似をしてオレの口元にコップを寄せた。


「皆、今日はありがとう。オレのためにこんな盛大なパーティーを開いてくれたのは初めてで正直戸惑ってます」


オレが照れて笑うと、皆も笑った。


「オレにとって最大のプレゼントは、皆と一緒にバスケで汗を流して上を目指していけることです。苦しいことも嬉しいことも、全部全員で共有出来る、そんなチームでプレイ出来ることを誇りに思います。これからも、よろしくな」


言う前より大きな拍手が起こって、コガが泣きながら抱きついてきた。


「うおおおお伊月ー!オレ感動したよー!!こちらこそよろしくなぁぁぁ」
「コガ、分かったからとりあえず離してくれ」
「伊月先輩ぃぃ私も感動じまじだぁぁぁ。どこまでも先輩達に着いていぎまずがら留年じでぐだざい゛ぃぃぃ」
「名も泣いてるのか?てか無茶言うな!」


「それはいいですね」と悪ノリした黒子に名が「黒子くんもああ言ってるし決定!」と全く強制力のない決定を下され、笑い飛ばした。


「…ん?」
「伊月先輩?」


なんかあと一歩なんだが…ハッ!!


「決定を蹴ってやった…キタコレ!!」
「「「「…」」」」
「…あれ?」


ああ、バスケの神様。誠凛高校バスケ部は今日も平和です。










Happy Birthday Project!


(伊月、片付けとかよろしく)
(お先に失礼します)
(えっオレ主役なのに!?)

20121023
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