伊月 [ 1/3 ]


「…っし、そろそろ上がるか」
「はい、日向先輩お疲れ様です」


全体練習後の個人練習。毎日全員残って下校時間ギリギリまでやってるのに、何故か今日はオレと日向、マネージャーである名のみ。まぁ体育館を広く使えるのはいいが…備え付けの時計に目をやると少し時間は早かったが、オレだけ残って戸締まり担当の名を遅くまで残すのも悪いと思い、切り上げることにした。


「じゃあオレも…」
「伊月先輩!!!」
「どうした、名?」
「ちょっとフォーメーションとかのことでお話が…」
「なら、カントクに聞いた方が的確な答えが返ってくると思うぞ」
「いや、あの、伊月先輩じゃないと分からないっていうか…そう!PGが重要なお話なんです!だからお願いします!!」
「分かった…」
「ありがとうございます!」
「…じゃ、オレはあがるわ。おつかれー」


必死に懇願する名に違和感を感じつつ、体育館を出る日向にオレも軽く挨拶を飛ばした。
その際、日向が振り返ったがどうやらその目線はオレではなく、隣の名に向けられたようだ。目だけを動かして名を見ると、しっかりと日向を見返して本当に小さく首を縦に振った。…なんだ?オレの違和感は大きくなるばかりだ。


「ほーなるほど、それで木吉先輩はCとPGを組み合わせた新しい道を見つけたわけですか」
「あぁ、そこまで辿り着くのは簡単じゃなかったが…って話があったんじゃないのか?」
「たまにはいいじゃないですか!先輩達のこんな貴重なお話聞けるなんてめったにないですから」
「日向も木吉も自分から進んで話すタイプじゃないからなぁ」
「伊月先輩もですよ」


気づいてなかったんですか、とでも続きそうな表情の名に苦笑し、オレは頬をかいた。


「時々思うんです。私はリコ先輩みたいになんでも出来ないし、運動神経も良くないから手伝えないし…役に立ってるのかなって」
「名…」
「だから精神面で頼ってもらえるような存在になれたらな、って考えたんですけど…黒子くんも火神くんも抱えるタイプだし、先輩達は皆しっかりしてるから私なんか頼らなくても自分で解決策見つけちゃうし」


名は笑いながら話そうとはしているが、だんだん笑顔が薄れていく。自分でその状況を感じ取ったのか、ハッとしてまた明るい笑顔を浮かべた。


「なーんて、逆に私が先輩にこんなこと言っちゃってどうすんだって話ですよね!」
「オレは名が居てくれて助かってるけどな」
「…え」
「いつも全力でオレ達のために動いてくれて、練習がしんどくても名が笑って『お疲れ様です!』って言ってくれるだけで疲れが吹っ飛ぶよ」
「そ、そんな…」
「皆恥ずかしくて言えないけど、名に感謝してる。それに名が料理出来るおかげで合宿でも安心して練習出来たしな」
「いや、まぁアレは自分が死なない為でもあったというかなんと言いますか…」


カントクの料理を思い出したのか、顔を青くした名にハハハ、と笑うと「リコ先輩には内緒ですよ!」と口止めされた。


ブブブ…とジャージのポケットが震えて、名は素早い動作で携帯を取り出しオレを警戒するようにチラリと一瞬見て、すぐに携帯に目線を戻した。メールだったようで、左から右に何度か目を動かし、携帯をポケットにしまった名は、ニヤニヤと笑っていた。


「そろそろ帰りましょう!」
「は?PGがどうのの話は?」
「あーはい、それはまた今度とかで。とにかく今すぐ帰りましょう!」


さっきまでダラダラと喋ってた奴が何を言ってるんだか、とは口に出さず、背中を押され体育館を出た。


「ん"んっゴホン!あー伊月先輩もうすぐ部室ですね!!」
「何分かりきったこと叫んでるんだよ…」
「いや、あの、すいません…」
「?変な奴だな」


わざとらしく咳き込んで叫んだかと思えば、頬をほんのり赤く染めしおらしく謝る。


「部室の電気消えてるな、日向もう帰ったのか」


窓はカーテンが閉められ、中は確認出来ないが真っ暗で静かなそこは人の気配を感じさせない。


「…………」
「ど、どうかしました?」
「いや…」


部室のドアのぶを捻ったまま動かないオレを見て名が慌てて声をかけた。ドアを動かさないように手元に気を配りながら名を見ると、頭にハテナがたくさん浮かんでいるのが手にとるように伝わった。一呼吸おいてオレは扉を開けた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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