俺色に染まれよ [ 1/4 ]


「なんでオレが…あの腹黒メガネにでもやらせろよ」
「大輝じゃないとダメなの!お願い!ね?それに、拒否権はないはずだけど」
「…一回だけだぞ」
「あざーす」


準備していた携帯のボイスレコーダーの録音ボタンを押す。俗に言うキュー出しの要領で三秒前からカウントし、最後は声に出さず天に向けていた指先を大輝に振って同時に爛々とした目で見つめる。私からビームのような目線を受けた大輝はなんともダルそうにそれを受け流して、照れているのか後ろ頭をかいた後小さく“あー”と呻いてメモを強く握り直した。


「“俺様の美技に…酔いな!”」
「…はい!サイコーの一本いただきましたァ!」
「オレの気分はサイテーだけどなァ!」


ガルルルル…と尻尾を立てて怒り狂う猛犬の如く不機嫌オーラを撒き散らす大輝はやってられっか!とメモを叩き付けた。私はそれをさも当然のように慣れた動作で拾い上げ、室内であるから汚れなどは着かないのだけれどついついパンッと払ってしまった。

“慣れた動作”なのは本当に慣れたからで、何故慣れたかは何度もこの行為を繰り返したからと言う他ない。更に言うと大輝が猛犬よろしくやっているのに私のこの茶番に付き合っているのは、大輝の先輩である今吉さんから何でも言うことを聞くようにとお達しが出ているからである。


「そんな態度取ってい〜のかなぁ〜青峰くんよ〜?そんなんだと今吉さんにいい報告は出来なさそうだな〜」
「…くっ」


ホ〜ッホッホッホと高飛車に笑ってみせると大輝は悔しそうに眉を寄せた。散々バスケ部の皆に迷惑かけて威張り散らしてるから罰が当たったんだザマァミロ!今日の私は大輝に関わる全ての人間の中で一番大輝を動かせると自負出来るね!


「クソッ…!なんで足折ったくれぇでこんな辱しめを受けなきゃなんねんだよ」
「足折ったくれぇで…?お前さん、どうやら自分の立場が分かってねぇようだなぁ…」
「なっ!悪かった、悪かったって!」


携帯のディスプレイに今吉さんの電話番号を出してあとワンプッシュで通話出来るんだぞアピールをすれば大輝はその大きな体を縮ませて謝ってくる。

足は折れていてもね、指は動くんだよ。よーく覚えておくといい。そう言ってにっこり微笑んだ私に返ってきたのはめったに敬語を使わない大輝の心のこもってない“スイマセンデシタ”だった。





―――――


「よぉ、名ー」
「おっす、大輝ー」


たまたま昼休みにすれ違った校舎の階段。上から降りてきた大輝と、食堂でデザートを調達して下から登ってきた私はお互い軽く手を挙げて挨拶をした。そのまま階段の中腹で適当に会話を交わしてすれ違うつもりが、大輝の一言で一転する。


「何持ってんだ?」
「え、食堂で買ったプリン…」
「お、あの1日限定10個のか」
「…なんとなく展開読めるから先に言っとくけど、絶対あげないからね!」
「くれ」
「貴様聞いてたか人の話をーっ!!」
「いいじゃねぇか、一口」
「大輝の一口は殺人的なんだよ、この前だってそう言ってパン全部食べたでしょ!」
「アレは残り少なかったろ」
「新品未開封じゃボケェ!」


プリンから全く離されない目は、肉食動物が獲物を狩る時みたいにギラギラしていて恐ろしいくらいだ。シュッシュッとプリンに向かって伸びる逞しい腕を華麗に避けるが、なんたって大輝の動きは俊敏すぎてそう長い時間耐えられるもんじゃない。さっさと教室に逃げ帰って仕舞おうと上の段に足をかけた時だった。


「あ、コラ待てっ…」
「んぐっ!?」
「え…おっ、わ!!」


それは本当に一瞬の出来事で、気が付いた時には全身を強烈な痛みが支配していた。

なんだろうあの倒立前転に失敗してマットに背中から落ちた時の息が止まるくらい苦しいアレ。とにかくあの肺を握りつぶされたみたいな圧迫感が真っ先にきて他の事を考える余裕がなかった。

息を整ってきて思い出したのは背を向けて階段を上がりかけた私の制服の首根っこを、大輝が後ろから引っ張って足が滑ったこと。そして体が浮いて、今に至る。


「ってー…おい名大丈夫、か…」
「げほっ、まぁ…なんとか…大輝?」


隣でむくりと起き上がった大輝は目を丸くして一点を見つめていた。この期に及んでまだプリン見てんのかコイツは!と大輝の視線を追った先には私の足で。


「おま…これ…」
「ふ、ふぎゃああああああああああああ」


私の右足首は、どれだけ柔らかくても向くはずのない方に折れていた。人間の本能(?)って凄いよね。これは痛いんだって認識した瞬間引き裂かれたと間違う程の激痛が襲って、さっきまでの全身を打ち付けた痛みはどこかに飛んでいったんだから。


 
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