アイウォンチュー [ 1/1 ]


「“I need you”は確かに「あなたは私に必要だ」で正解だけど、ちょっとややこしくて…友達の間では“I rely on you”に似てて「あなたに頼っている」という意味にもなるの。あとは職場だと「あなたはこの仕事に必要だ」という意味で使うの。まあこの場合“I need you”より“we need you”の方が多いけど、オッケー?」
「…なんもオッケーじゃねぇよ」
「………」


私はボキッと、握っていたシャーペンを真っ二つにした。


「ちゃんとやってよ!大輝がテスト出来てなくて怒られるの何故か関係ない私なんだから!!」
「オレ怒られねぇから出来なくていーわ」
「こらああああああああ」


心の底からの叫びだった。バスケの時は目をキラキラ輝かせ、いかにも楽しくてたまりませんという笑顔と残像が見えるくらいのキレで動くのに、今の彼はどうだ。四肢はだらんと力が抜け、目は焦点が合わずボーっと空を見つめ、口は半開き。あげく落とした消しゴムを拾おうとした私のスカートをめくり


「白」


殴りてぇ。ああ殴りてぇ。


「だいたい英語なんか出来なくても生きてけるだろーがよ」
「将来NBAとか行った時絶対役に立つよ。これもバスケの内だと思えばいけるって」
「バカかお前。NBAに行くとしてもオレァバスケしに行くんだ。英語が出来なくてもバスケ出来りゃいんだよ」
「…」


バカはお前だ。

大輝と違って大人な私は口には出さない。だけど体は正直で、私の右手はもう何本目かも分からないシャーペンの残骸をまた増やした。


「…帰る」
「あ?なんでだよ」
「私は赤司くんに勉強を教えるように言われたの。でも教えようとしても本人はやる気ないし、その上怒られるなんて惨めすぎる」
「ヤル気はあるぞ」
「誰もそんな発言望んでないんだよ変態野郎」


筆記用具をまとめ、自分のカバンに雑に放り込む。勉強するために向かい合わせにくっつけていた机を元通りに直して、カバンをひっつかみ、目も合わせず横を通りすぎる。


「おい名、怒ったのか?」


腕を掴んで来た大きな手をふりほどいて、とこれ以上ないくらい見下した笑顔で座ったままの大輝を見下ろす。


「せいぜいスポーツ推薦でいい学校に行けるようにバスケお頑張りあそばせ」


ふんっ、と鼻を鳴らしてゴリラのようにズンズンとドアに向かって歩き出す。

だいたいなんで私が大輝に勉強なんか教えなきゃ行けないのよ。よく考えたら勉強出来なかろうがなんだろうが、学校側がこんな一流選手潰すわけないんだからほっときゃ良かったんだ。高校だって強豪から引く手あまただろうし、何も心配することなんてなかったんだよチクショー時間返せアホ峰。

壊さんばかりにぶち開けたドアの目の前を通った先生が「うわぁ!」と悲鳴をあげ落とした教材を、無言で拾い差し出した。先生が「す…すい、すいませんでしたあああああ」と真っ青な顔で怯え走り去ったのは、自分の怒りオーラが人外級だったからだとは気づかなかった。

廊下は走るな、いつもそういう先生の揺れる背中を見ていたら不意に後ろから重みを感じ、上を見上げると至近距離に大輝の顔があった。


「その…悪かった。ちゃんとやるから、さ…帰んなよ…」


それは、幼い子どもがおねだりをするみたいに甘えた声で。普段のガサツで乱暴な言動の多い彼からは想像し難い姿だった。悔しくもきゅんとさせられて全てを許してしまいそうになったが、どくどく早くなる鼓動にムチを打つ。


「そう言って前だって結局途中で寝ちゃったじゃん、もう信用しない。帰るから離して」
「今回はマジ、マジだからよ!」
「…じゃあ証拠見せて。さっき私が教えた英語言ってみて」


「ぐ…」と唸る声が聞こえて、必死に思い出そうとしているのか、眉間にシワを寄せ目をつむる大輝が可愛くて思わず笑ってしまった。


「思い出した!」


という彼の明るい声に我にかえって顔を引き締める。










「アイウォンチュー」


(意味は“お前が欲しい”)
(!!〜〜〜バッッッッッッッカじゃないの)
(あ?)
(さっきやったのは“I need you”で“あなたは私に必要だ”でしょ!)
(どっちも一緒じゃね?)
(…もう、さっさと終わらせて帰るよ)
(!…おう!)





20121006 玄米
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -