君は太陽、僕は月 [ 1/1 ]


「テツヤくーーーん!でやっ」
「わっ」
「おっはよっ」
「おはようございます。今日も名さんは元気ですね」
「おうよ!元気モリモリで今日も飛ばしていくよー!」


前方に平均より少し小さめな背中を見つけ、水色の髪の毛に確信を持って後ろから飛び付いた。


「また歩きながら本読んでたの?危ないよ〜」
「今までぶつかったりしたことがないので大丈夫だと思います」
「えっそれ逆にすごいね。私は二つ以上の事同時に出来ないから尊敬。バスケの時も皆の位置きっちり把握してるし、視えてるんだろうね」


コート上にいる十人を全て把握し、ミスディレクションを使ってパスの中継をこなす彼、黒子テツヤくんは、普段から影が薄い…らしい。“らしい”というのは、私にはテツヤくんが普通の人と同じくはっきりと認識出来ているからだ。何故か、と聞かれても人を人として認識出来る理由などそこにいるからとしか言いようがない。

初めて彼を見たのは、高校の入学式。抱えきれないほどの部活勧誘のビラを押し付けられる私の横を水色の頭がスッと横切って目を奪われた。

追ってみると彼は本を片手に滑らかに人を避け進んでいく。最初は勧誘を無視しているだけかと思ったけど、無視しているのは勧誘している先輩側だ。まるでそこに何も存在してないみたいに扱われる彼にひどく興味を惹かれコソコソ着いていった。彼はあるブースで立ち止まる。男女一名ずつが座るそのブースで彼は何かを言ったようだが、男女は全く反応を示さない。それなのに表情一つ変えず机上の紙と鉛筆を取って何かを書きこんだ彼はスッとその場を後にした。


「あっ」


皆見えてないの?もしかして…幽霊!?とかバカな事を考えている内に見失って、私は彼が立ち止まっていたブースに足を運んだ。


「あの…」
「あら、もしかしてマネ希望?」
「いえ、今来てた男の子の書いた紙見せてもらいたんですけど…」
「え、今?誰か来てた?」


前髪をピンで留めた女の人が隣のメガネの男の人に聞いたがその人は首を横に振った。


「でも今確かに水色の髪の毛でこれくらいの背の男の子が…」
「?」


身振り手振りで説明してもピンときていない様子の二人に汗が吹き出る。やっぱ幽霊…!?フラッとして机に手をつくとくしゃっと独特な音がして、確認すると“男子バスケットボール部入部届”と書かれた紙だった。


「うそ、集め忘れ!?書いてもらったのは全部ここに置いてたはずなのに…」


私が凝視している紙を見て、記入済を置いてた場所と何度もキョロキョロしている女の人をよそに私は紙に書かれている、控えめな大きさのキレイな字を見つめた。


「1-B、黒子テツヤくん…!」


そこからはトントン拍子だった。私はその場で男バスマネをすることに決め、クラスを確認すると見事にBクラス。教室で見つけ、話しかけてテツヤくんに心底驚かれる。


「僕をあの人混みの中で見つけて追いかけてその上探しだすなんて…」


聞いた時は意味が分からなかったが、クラスでも部活でも一緒に過ごしてすぐ分かった。テツヤくんは空気のように自然にその場に溶け込んでしまう。

私はどちらかというとうるさい人間で、クラスで若干恐れられている火神くんにも平気でチョップとかしちゃうし、誰彼構わず話しかけちゃうし、授業中でも面白いと思ったらつい先生と道を逸れた雑談しちゃったりもする。そんな私と正反対のテツヤくん。

合宿の時たまたま二人きりになって、テツヤくんはポツポツと言葉を繋げた。


「僕は、姓さんが…羨ましいです」


眩しいものを見るような目線を送られた私は、少し恥ずかしくなって照れ笑いをした。


「私は黒子くんの方が羨ましいよ。気付かれないって事はそこにいて不自然じゃないってことでしょ?“酸素”なんて表現、黒子くんは嫌かもしれないけど、酸素がないと人は死んじゃうんだよ?黒子くんがいなかったら人類滅亡しちゃうかも。だから、生まれてきてくれてありがとう!」


ドカーンて、と手で爆発を表現しながら伝えると、黒子くんはプッと吹き出して肩を震わせた


「わー黒子くんが笑ってるとこ初めて見た。てかさすがに笑いすぎ!」
「…っ、す、すいません。そんな面白い返答がくるとは想像もつかなくて…っ」


暫く笑い続けるテツヤくんに「いいかげんにして」と言おうした私より先に、テツヤくんが言葉を発した。


「好きです、名さん」
「ふぇっ!?」


と変な声をあげた私をテツヤくんが抱き締めて、体にグッと力が入った。


「付き合って下さい」


耳元で透き通るほど透明な心地いい声が囁かれて、私はうわごとみたいに「ヨロシクオネガイシマス」と答えた。


「それにしても…なんでこんなにウスイって言われるのかな?」
「さぁ…」
「テツヤくんが言ったみたいに、火神くんって光が強い程テツヤくんという影が濃くなるならさ、私が隣にいることでなんとかテツヤくんを輝かせたり出来るないかな」
「そうですね、」










「君は太陽、僕は月」


(だとしたら、君がいなければ、輝くことができない)
(!)
(だから、ずっとそばにいてくれますか?)
(もちろん!…でも…)
(なんですか?)
(テツヤくんって何気にポエマーなとこあるよね)
(………)
(いだだだごめん!お願いだから無言で頬引っ張るのやめて!)



20121006 玄米
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