君の瞳に乾杯 [ 1/2 ]


「酷いと思うでしょ?」
「はい」
「まぁ私も悪いんだけどね」
「はい」
「わーあの女の子可愛いー!」
「はい」
「別れようか」
「いいえ」
「あっ、話聞いてたんだ」
「はい」


ロボットか、と。

口数が少ない彼だけど、返事はいつもはっきりはいかいいえ。必要最低限の事しか話さない。更にポーカーフェイスで、何を考えてるか分からないこともしばしば。好きだと告白した時も「はい、よろしくお願いします」と返されただけだった。それから一応お付き合いしているという形ではあるけれども、デートした訳でも手を繋いだ訳でもましてやキスなんて、ドラマの中だけの幻想なんじゃないかとすら思い始めてきている。


「名さん」
「ん?」
「冗談でもそういうこと言わないでください」
「え、ご、ごめん」
「はい」


それでも、最近喜怒哀楽はすこーしだけ感じ取れるようになった気がする。と言ってもほんとにすこーし。でも今怒ってたのははっきり分かった。冗談が苦手なことは知ってたのに、普段の調子でつい口走ってしまったことを後悔する。

なんだか気まずくて黙っている内に、ふと「好き」とかそういう事言われたことないな。と思った。私もあんま言うタイプじゃないし、まず甘い雰囲気なることがないからなくて当然っちゃ当然なんだけど。でも女の子としてはさ、たまにはキュンとしたいじゃないですか。ま、テッちゃんがデロデロに甘い事言うなんて想像も出来ないけど。


「心ここにあらずですね」
「ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
「僕といるの楽しくないですか?」
「え?珍しいね、テッちゃんがそんなこと言うなんて…」
「…」
「テッちゃん?」


大きな瞳が瞬きもせずに見つめられてドキッとする。それは私が初めて見た表情で、全く心情を掴みとることが出来なかった。不安を滲ませた私にテッちゃんはハッとして、すいませんと呟いた後ゆっくり目を伏せた。


「僕は面白い話とか出来ませんし、休日も部活ばかりで二人で出掛けることも出来ません。名さんはそれでもいいって言ってくれましたけど、僕は正直、こうしてたまにお話をするだけじゃ足りません」
「足り…?え、テッちゃん?」
「名さんに、もっと触れたいです」
「な、ななななな何言ってるの!?熱でもあるんじゃ…」


おでこに当てようとした手を掴まれて、反対の手で腰を抱き寄せられた。テッちゃんがテッちゃんじゃないみたい。目の前の彼は常にどこを見つめているのかも分からないふわふわとしたいつもの眼ではなく、なんだか危なっかしい獣のような眼をしていた。でもそれに胸がドキドキと高鳴って心地よく感じる。


「キス、していいですか?」
「じゃあ…甘い言葉くれたらいいよ」
「甘い言葉…」


「好きです」と言われるのを期待した私にかけられたのは、全く予期せぬ言葉であった。ツッコミを入れる間もなく降ってきたキスの雨を受け入れながら、じわじわと這い上がってきた面白さに負けて笑ってしまった。










「君の瞳に乾杯」


(チョイスおかしいでしょ)
(そうですか?)
(だってそれ食事とかの前に言うやつだよ)
(それなら間違ってないです)
(え?)
(名さんを美味しくいただいたので)
(…やっぱ熱あるんじゃ…)



→あとがき
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