おやすみ、僕の子猫ちゃん [ 1/1 ]


「今…なんと?」
「だーかーらー、猫耳つけて!」


期待に満ちた目で、猫耳と呼んだカチューシャに耳がついた代物を押し付けられる。


「…なに?ついに脳みそ溶けておかしくなったんですか」
「もー名っちのツンデレ♪」
「しばくぞ」
「猫耳つけてくれるなら我慢するッス」
「この変態ドMが!!」


えー!とぶぅたれる黄瀬くんは猫耳の耳の部分を触り、可愛さ倍増するのに…と呟いているが無視する。


「でもスゴいねー、ふわふわして本物みたい」


無意識に手をのばして耳を撫でると黄瀬くんがニンマリと笑った。


「興味、持ったッスか?」
「え、いや興味っていうか」
「まぁまぁ遠慮せず!」


つけろと言うわりに強制的にかぶせてはこないので何故かと聞くと「自分で納得してつけてることに萌える」と言われた。頭大丈夫か。


「じゃあオレが後ろ向いてる間につけてよ!」
「はっ!?いやつけない…」
「じゅーう、きゅーう、はーち、なーな…」
「…」


勝手に背を向けられ始まったカウントダウンに、つけなければいけない気がしてくる。

そっと上からカチューシャをはめて髪を整えた。


「ゼーロっ!」
「じ、じろじろ見るな!」


振り返った黄瀬くんは黙ったまま私をなめるように見回した。


「想像以上ッス…!」


たはーっと言いながら床をバシバシ叩く黄瀬くんに若干引きながら外そうと猫耳に手をかける。


「ああああああ外さないで!!」
「うぇっ!?」


タックルされ、そのまま床に倒れ込む。


「せめて晩御飯まではこのままにしといて!ね?ね?」
「わ、分かったから…重…い」


一緒に倒れて乗りかかかった黄瀬くんの背中を叩いてギブギブと声を絞り出した。

黄瀬くんは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑ってごろんと私の右に降りて、左肘をつきその手のひらに頭を乗せ私を見下ろす。まだ私に乗せたままの右手、右足が重くて身を捩って逃げようとしたらその手足でガッチリホールドされて黄瀬くんと密着してしまう。


「ちっ近…いから!」
「照れて赤くなる名っちかーわい。猫耳で更にかわいいいいいい!!」
「わっ」


すりすりと頬を合わせられてくすぐったくなる。


「ふぁ〜あ…なんか眠たくなってきたッス」
「はぁ?」


黄瀬くんは腕を伸ばしてアクビをし、その腕を枕にした。
さっきより位置が低いから余計近くに感じる。


「昼寝、しよっか」
「っ…!」


そう言った黄瀬くんがかっこ良くて思わず見とれた。


「ん、なんかついてる?」
「おおおおやすみ!」
「スルーしないでよー」


ツンツンと指先で頬を突かれたが寝たフリを決め込む。


「寝たフリバレバレですよー」

耳元で囁かれて肩が跳ねたがそのまま寝たフリを続けると、黄瀬くんがクスクス笑った声がした。と同時に、優しく髪を撫でられた。窓から差し込む日差しが心地よくて本当に眠ってしまいそう。

まどろみの中で微かに聞こえたのは―――










「おやすみ、僕の子猫ちゃん」



20120908 玄米
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