夢の中でも抱きしめてやる [ 1/1 ]


「ある日突然勉強机から青いネコ型ロボットなんか飛び出して来たら失神するくらい驚くと思わない?」
「まぁ…そうだな」
「しかも未来から来たとか言うし。自分の孫だって名乗る子どもも一緒に連れてきて。信じられるわけないじゃない!まだ結婚出来る年ですらないのに急に知らない同い年くらいの子に『おばあちゃん』とか言われたらキレて顔面に飛び膝蹴りめり込ませちゃうよね」
「…そこまでしねぇ…」
「えっ」
「…えって…?」
「しちゃったよ…」
「…は?」
「飛び膝蹴り…」
「っはぁ!?」


学生の味方、ファミレス。私達はかれこれ3時間、ドリンクバーだけで居座り続けている。次から次へとどうでもいい話題が湧き出る私。大輝は眠いのか、机に頬杖をつきうつらうつらしていたけど、自分の彼女が飛び膝蹴りをしたと聞いて一気に覚醒した。


「…女が飛び膝蹴りって何してんだよ。んなこと出来る程運動神経良かったか?」
「むっ…失礼な。ヒュッと飛んでビタァァアアンですよ!もちろん夢だからだけどね!」
「おまっ…今時夢落ちって」
「現実に出来るわけないでしょ」


覚醒したばっかだったのに大輝くんは「アホらし…」と言って大きなあくびをすると、腕を枕にして本格的に寝始めてしまった。今日は試合前だからって桃井さんに無理矢理朝練に参加させられたって言ってたし、眠くなるのもしょうがないか。


「放課後の練習にもちゃんと出なよー」
「…んー…」
「…寝てるし」


おでこに軽くでこピンすると、短く唸って眉間にしわを寄せた。


「…ぉ…」
「…寝言?」


むにゃむにゃと発される言葉をなんとか聞き取ろうと耳を近づけた。


「…ぅるせぇ…青だぬき…」
「青…」
「名が蹴ったのはオレのせいじゃねぇだろ…」
「え、まさか大輝くんの夢に私が見たド」


しばらく聞いてみるとどうやら大輝くんは私に蹴られたあの青いロボットに責められているようだ。その場に私もいるらしく「お前が謝れよ!」と怒っていた。


「あ、あのーお客様…」
「へ」
「店内での睡眠はご遠慮願えませんでしょうか…」
「え、あっ、すいません!」


ドリンクバーだけで何時間も粘ったあげく寝出したらそら怒るよね。目だけ完全に笑ってないあの顔は忘れられない。大輝くんをたたき起こして急いで店を出た。


「名…あの青だぬき…めちゃくちゃ怒ってたぞ」
「えぇっなんて言ってた?」
「お前を助けるために来たのにいきなり飛び膝蹴りとは何事だ!だってよ」
「…ごめん」
「次会ったら謝っとけよな」
「いやそんな簡単に会えないでしょ」


非現実的な話をしていると、ファミレスから10分の私の家に着いた。左右を確認してから、ぎゅっと背中に手を回したら大輝くんも同じようにしてくれる。


「あああ本当に今日夢に出てきて怒られたらやだな」
「オレも出たら慰めてやるよ」
「守ってはくれないんだ」
「…じゃあサービス」
「え?」










「夢の中でも抱きしめてやる」


(結局慰めてるだけじゃん!)
(だって…飛び膝蹴りかます女なんか守る必要あんのか)
(あぁ、ないね)
(…お前またかますつもりだろ)
(最終手段ですよ!)
(オレに飛び火すんのだけはやめろよ)



20121020 玄米
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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