君を食べちゃいたい [ 1/1 ]
「むっくーん」
「あー紫原からのあだ名ちーん」
「昨日言ってたの持って来たよ!まいう棒ウメシソおかゆ味」
「すげー!ねー食べていい?食べていい?」
「どうぞー」
私は昨日ゲーセンのクレーンゲームで手に入れたまいう棒をむっくんこと紫原くんに渡した。
「どう?結構当たりじゃない?」
「おいしー!これいいねー。ゲーセンの景品だけじゃなくて、ちゃんと発売してくんないかなー」
「ねー絶対売れるよ!少なくとも今のホタテバター醤油味よりは売れる!」
「アレはダメだったー」
二人してサクサク、まいう棒を口に含む。“まいう棒新味批評会”これが私達の昼休みのお決まり行事になった。
「むっくんはまいう棒以外で好きな食べ物ある?」
「んーポテチとかチョコレートとかー」
「わぁーお。見事にお菓子ばっか」
そういえばお菓子食べてるとこばっか見るけど、ちゃんとご飯食べてるのかな?これだけすくすく育ってるんだから心配する必要ないんだろうけど。
「じゃあお菓子以外の食べ物だったら?」
「えー…んー…?」
まいう棒を食べる手は止めず、むっくんは「うーん」だとか「あー…」だとか曖昧に声ももらすばかりでちゃんとした答えがいっこうに帰って来ない。
「そんなに悩んでも見つからないって…逆に尊敬するよ」
「“食べ物”じゃなかったらあるけど…」
「“好きな食べた物”なのに“食べ物じゃなかったら”って…もう全く思考が追い付きません」
「えーダメ?」
「ダメとかじゃないけど…それって美味しいの?」
「食べたことないから分かんないし」
食べたことないって…益々分からない。
「…興味出てきたな。グルメなむっくんが気になるんなら私も食べてみたいかも」
「それは無理じゃない?」
「なんで?」
「だって自分じゃ自分食べれないでしょ?」
「………はい?」
口に運びかけたまいう棒を思わず机に落としてしまった。今なんて言った…?
「だからーオレ紫原からのあだ名ちんを食べてみたいんだよね」
「う、うぇぇええっ!?ババッバッババババカじゃないの」
「…むー…ちゃんと答えたのに何その言いぐさ」
むっと表情を強ばらせたむっくんは私が落としたまいう棒を拾ってパクリと食べた。
「あ、間接キスも紫原からのあだ名ちん食べちゃったことになるのかな?」
「はっ、なっなぁ!?!?」
「ははっ紫原からのあだ名ちん顔赤〜」
「〜〜〜〜〜っ」
声にならない声をあげ、わなわなと体が震える。
「でもキスするんならやっぱこっちの方がいいな」
「んむっ」
机から身を乗り出したむっくんの顔がグッと近づいてきて、大きな口で噛みつくみたいに私の唇に唇を重ねた。
「…あー…どうしよ。今すぐ」
「君を食べちゃいたい」
(なっ何考えてんの!?ここ学校だよ!?)
(学校じゃなかったらいいの?)
(!そういう問題じゃない!)
(えー)
20121004 玄米