君が隣にいれば他に何もいらない [ 2/2 ]


試合中、シュートを放ち即座に自陣のゴールへ翻した時、休憩だった高尾、青峰、火神のチームとベンチで楽しげに話している名が見えた。…不愉快極まりない。


「どうした緑間、眉間にシワ寄ってんぞ」
「なんでもありません」
「大方、名ちゃんが青峰らとなかよぉ喋っとるから気に入らんのやろ」
「…今吉さん」
「はいはい…今は試合中やからなー、集中するわ。日向も遠慮しとらんとえげつない滞空時間の3P放ってええんやで?」
「出来るか!」


着いていけないノリにため息をつき、眼鏡のブリッジをおしあげる。試合はあと5分。名もそろそろ拗ねそうだ、この試合が終わったら名が行きたがっていた店に行こう。


「今度はわろたな」
「笑いましたね」
「…笑ってません」


そう思っていたのに。


「高尾、名はどうした」
「は?名?誰それ」
「何を言っている。さっきまでここで話していただろう」
「いや、いたのはオレたち3人だけだぜ。なっ火神、青峰?」
「おう」
「んだよ、緑間。どうかしたのか?」


なんだこれは、どういうことだ。名が忘れられている?ほんの数分前までそこにいたのに?おかしい。そんな、ありえない。…そうか、分かったぞ。高尾達を使ってオレを嵌める気だな。オレが慌てる様を見て楽しもうという魂胆か。全く、よくこんなしょうもない事を思い付く。だが残念だったな、話を合わせてないであろう人に確認すれば一発だ、馬鹿め。


「今吉さん、日向さん。名、知ってますよね?」
「何言うとるんや緑間」
「お前大丈夫か」


やはりな。二人は名のことを認識している。


「そんな子知らんで」
「緑間が女の子の話するなんて…好きな子でも出来たか?」
「…」


まさか…いや、オレは騙されんぞ。こうなったら全員に確認してやる。


「黄瀬」
「誰スかそれ?」
「黒子」
「妹さんですか?」
「桜井」
「すすすすいません!」
「伊月さん」
「ハッ、緑間は夢を見ドリーマー」
「死んでください」
「えっ!?」
「木吉さん」
「お前ドリーマーなのか?」
「笠松さん」
「お、おお、おおお女の子!?し、ししししし知らねぇよ馬鹿!!オラァッ」
「いだぁっ!なんで蹴るんスか先輩ーっ」


ありえん。黄瀬はまだしも黒子が冗談を言うわけがない。他のメンバーにも嘘は感じられない。じゃあなんだ、本当に名はこの世から消えたとでも言うのか。なら何故オレだけ覚えている。バスケを優先した罰だとでも?ふざけるな。


「あ、おい真ちゃん!?どこ行くんだよ!」
「オレは街を走り回り、家かもしれんと思い帰ったがお前はどこにもいなかった。それどころか名が使っていたマグカップや歯ブラシ、毎巻欠かさず買っていたマンガ。名の物だけ何もかもなくなっていたのだよ。たった数時間で全てを移動させられるはずもない。次第に名のことが分からなくなってきてお前の顔がどんどん霞んで…そこで目が覚めた」


“お前を失うかもしれないという底知れぬ恐怖に、全身が凍ったと錯覚する程血の気が引いた。”

そう続けた真ちゃんの体温が背中から伝わる。真ちゃんは、自分が今無意識にデレたことに気付いているのだろうか。普段眉間を寄せてフンッ!ばかり言う真ちゃんは時たまこうして遠回しに私を好きだと伝えてくれる。このささやかな告白を告白と理解するのにだいぶかかったけど。


「良かったね、夢で」
「フンッ!別にいなかったとしても見つけ出してやるのだよ」
「でも、真ちゃんは私よりバスケ選んだんだね」


これでもかと冷めきった声でつぶやくと包まれていた手が固まった。返事がこないということは正に図星を突かれて困っているのだろう。口下手な真ちゃんは困るとすぐ黙る。何も“私と仕事、どっちが大事なのよ!”なんてヒステリックを起こすつもりはない。今も巻かれてる左手のテーピングを見ればバスケがどれだけ大切かなんてバカでも分かる。だから私はバスケに負けてる代わりに真ちゃんの困った顔で我慢してあげようと思うわけです。
笑いを堪えてるのを悟られないため、鼻まですっぽり布団を被り再度向き合う。また眉間に溝みたいなシワを作ってるのを想像したのに、私を見つめる顔は晴々としていた。


「名が消えるくらいなら、バスケをやめる」
「…え、は?」


予想外の宣言に、今度は私が固まった。


「それは…困るなぁ…」
「何故だ?オレは、」










「君が隣にいれば他に何もいらない」


(名は違うのか?)
(私は真ちゃんが怪我せずにバスケしてくれたらいいよ)
(フン…馬鹿め)
(あ、照れてる)
(照れてないのだよ!)



20121110 玄米
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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