君のハートに王手! [ 2/2 ]


「じゃあ良かったね、記念すべきファーストキスが僕と出来て」
「ファーストキスはロマンチックに夜景の見えるレストランで相手のキザなセリフにふふっやだもうとか笑いながら乾杯してからしたかったの!」
「…………」
「黙るなあああ!恥ずかしいでしょ!」
「あぁごめん、今時そんな殊勝な考えの生き物が生きていたという事実に驚愕しただけだから」
「更に恥ずかしくなったわ!」


真顔で考える素振りをして、黙ったかと思えばそう言い返され、必死な自分がバカらしくなる。なんで言ってしまったんだ私は…


「相手は?」
「は?」
「そのキザなセリフをはいてくれる相手は誰を想像してたの?」
「そりゃあ…」


あれ?ちょっと待って…なんで…


「誰…だったの?」


喋りかけたまま止まっている私をまっすぐ見つめて、赤司くんは私の髪を指でくるりとねじった。なんでこの人の顔が浮かんだんだろう。今まで意識もしたことなかったし、ただこうやって学校で会って、将棋が出来る女子は珍しいからって誘われた時にたまに打ってただけで…


なんで、レストランでキザなセリフをはいてたのは赤司くんなんだろう。


「あ…と、その…忘れた!」
「さっきまであんなに熱弁してたのに?」
「ポ、ポーンって飛んでったの!」
「…そう、質問を変えよう。“僕”と出来て良かったね、と言ったのにそれは否定せずシチュエーションにこだわった理由は何かな?」
「そ、れは」


また言葉に詰まる。

返答に困っていると赤司くんは髪をくるくるしていた指を解いて口を挟むように私の両頬を掴んだ。


「長い」
「ず、ずびばべん…!」
「ったく…」


笑顔のまま額に青筋を浮かべた赤司くんは頬から手を話してまた頬杖をついた。

赤司くんはこの態勢が楽なのかな?


「ま、いいよ。妄想の相手が僕だなんて本人に言うの恥ずかしいだろうしね」
「僕って…なんで分かったの!?」
「やはり僕だったか」
「しまったーーー!!」


はめられた!完全に!!


「“僕と”を否定しなかった時に既に確信はあったけど」
「そ、そんなの分かんないでしょ!他の人かもしれないじゃない!」
「仮に他の人だったとしても、名の妄想は一生叶わなかったよ」
「どうして」
「だって名、これから一生僕の下僕なんだろ?僕は僕の下僕が他人とそんなことをするのは許さない」
「あ、下僕の話まだ続いてたんだ…」


机の端に置かれた紙を横目で見る。そもそも、赤司くんの口車に乗せられて軽い気持ちで名前を書いてしまったのが運のツキ。こういうのってノリで今日はやるけど、次の日には笑ってそんなこともあったねーみたいな感じになるんじゃないの!?


「何を言っているんだ、始まったばかりなのに」
「くっ…」


この天帝赤司様がそんな意味のないアソビの約束をわざわざ紙に書いてまでするわけがない!その時点で気づくべきだった…!


「ちなみに、妄想のキザなセリフって何?」
「いいでしょ…別に」
「下僕のくせに生意気だね」
「…〜〜〜〜って言ってました」


不貞腐れ全身で羞恥心を噛み締めて叫ぶと赤司くんは、ははは、と笑った。


「あああああもうダメだお母さんんんん名はお嫁に行けませんんんんん!!!」


両手で顔を覆って机に伏せた。恥ずかしい…恥ずかし死にする!!!


「心配ないよ、下僕の面倒は最後まできっちり見るから」
「…赤司様、それは違う意味でお嫁に行けないので心配なくないです」
「僕と結婚すればいいだけの話だろ?」
「…はい?」
「僕と結婚す」
「いやいやいやいや聞こえてます!」


それじゃあ何が問題なんだ、とでも言いたげな赤司くんの顔の前に突っ伏したまま片手を出して制止を促す。赤司くんはその手を取って机におろした。


「注文の多い下僕だな…じゃあ名の夢を一つ叶えてやろう、その代わりもう文句は言うな」
「わー!そんな脅迫に近いやり方で夢叶えてくれる人初めて!」


最早展開がおかしすぎて顔を上げる気力すらない。あれ、目の前が霞んできたぞ。てか、夢叶えてくれる…って私の夢なんか話したっけ?


「名、顔をあげて」
「無理で…」
「僕の言うことは?」
「ぜったーーーい!!」


メリメリと頭を掴まれたので、気力で起き上がった。


「名…」
「は、はい!」


真剣な赤司くんの表情にドキリとした。










「君のハートに王手!」


(っ…あっははははははは)
(…名、)
(…あ、ごめ)
(いい覚悟だ)
(ごめっ…ぎゃああああ)



20120910 玄米
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