君のハートに王手! [ 1/2 ]


「む…」
「どうしたんだ名、そんな難しい顔をして」
「うるさい、今話しかけないで!もうちょっとでいい手が…」
「僕に向かってそんな口が聞けるなんていい度胸してるね」
「ハッ!勝ってるからって調子乗らないでよね、勝利の女神がたった今私に降り立ったのだ!渾身の一手…これでどうだああああ!!!」
「はい王手」
「ぎゃあああああ」


私が叩きつけるように置いた駒を嘲笑うかのように、向かいに座るクラスメート、赤司征十郎はすかさずスッと盤に手を伸ばして駒を置いた。

…詰み…だと…!?


「ま、…」
「…」
「まい…り…」
「ほら、早く最後まで言いなよ」
「参りたくない!!」
「いや参れよ」
「やだあああ゛ぁあああぁぁあ゛ぁああ゛あぁあぁあ」
「喧しい」


バタバタ暴れる私に赤司くんは紙をヒラリと揺らして見せつけた。


「はい、読んで?」
「…」
「 読 め 」
「契約書、赤司征十郎と姓名両名は、この度の勝負にてついた勝敗に従い、敗者は一生勝者の下僕となることを誓ってやるよチクショー!ふざけんな!」
「最後の捏造はいらないけどまぁ良しとしよう。でこの勝負、どっちが勝ったのかな?」
「…赤司くん」
「くん?」
「…赤司様です!」
「よく出来ました。さぁ…」






“どんな命令をしようかな?”

頬杖をつき、片手で駒を弄ぶ赤司くんに顔がひきつり、背中にはなんだかよく分からない汗が大量に流れた。きっととんでもない命令を下される…!なんだ…?靴舐めろとか?それとも財布としてずっと付いて回ってお支払い担当とか!?…どれも嫌だ!泣きたい!!


「じゃあ…」


ゴクリと唾を飲み込んで次の言葉を待つ。
ええいどうせ逆らえないんだ!こうなったら全裸で靴でもなんでも舐めて財布になってやるよ!!
そんなヤケクソな妄想を繰り広げた脳内に届いた赤司くんの声は予想外のものだった。


「――――――」
「…………え?」
「キス、してよ」
「…………え?」


足を組んだ赤司くんは相変わらず頬杖をつきニヤニヤと笑っていて、只の椅子なのにそれが王様が使ってるような派手に装飾された赤い豪華なイスに見えた。幻覚が見えるなんてもうおしまいだ…。それより、赤司くんなんて言った…キスしろ?


「あ、あのーそれは靴でしょうか」
「…は?」
「ひぃぃ、ならあれですか!床ですか、床ですかね!」


急いで跪いた涙目の私に赤司くんは目を見開き、頬杖からズルッと顔を落とした。


「バカだバカだとは思ってたけどまさかここまでとはね…」
「えぇぇ…なら、えっとどこだ…あ!裏ですか!そうか靴の裏!そうだよね、赤司くんが靴の表にキスなんて生ぬるいことさせるはずないもんね!」
「…君、僕を悪魔かなんかと間違えてない?」
「とんでもない、きちんとその上の魔王様だと存じて上げております!」
「そんなに死にたいのか」
「なんで!?」


頭を抱える赤司くんはもうお手上げといった感じで、いつの間にか笑みも消え、疲れた表情をしている。だって、魔王より上ってないよね?閻魔大王?いや、新世界の神?とか考えてる間に赤司くんは目の前に来て、言葉を発する間もなく脇の下に手を入れて立たされ、ストンとイスに座らせられた。


「普通、キスって言ったらこれしかないだろ」


状況が掴めずにいると、脇の下にあった赤司くんの手は頭と顎に移って動けないように固定された後、目の前が赤司くんの顔でいっぱいになった。一瞬だけ暖かくなった唇からリップ音がしてそれが耳にずっとこびりついて、離れない。

ちゅって…今、ちゅって……ちゅっ!?


「…目くらいつぶりなよ。全開でする人初めて見た」


離れた赤司くんを見て、やっと脳内処理が追いついた。


「なっななっなにをしたああああああああ!!」
「キスだけど」
「うわああああ言わないでよ!!」
「名が聞いたんだろ」
「そ、そうだけど…ああぁ…」


ガックリとうなだれた私を横目で見ながら赤司くんはまた足を組んで座った。


「しろって命令だったのに僕からしてやったんだ、有り難く思え」
「…ァー…だ…のに…」
「?聞こえないよ」
「…ファーストキス…だったのに…!」
「!」


グッと拳を握り、顔をまっかにしてそう言うと赤司くんは一瞬驚いたのち、目を細めて小さく「…へぇ」と言って口角をあげた。でもいつもの何かを企んでる余裕の笑顔と違って、なんかこう…嬉しそう?


 
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -