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「あの〜制服に着替えてきてはいけませんでしょうか?」
「着替える必要性がない」
「いや…あの周りの目線が…」
「オレは気にならないが?」
「そりゃ見られ慣れてるあなたはそうでしょうね」
お祭り気分で浮かれていて気が付かなかったけど…急に着いてくるよう言われて教室を出てしまった私は、メイド服のままで…店内にいれば皆同じ服装なわけだし、決まりだからと割り切って恥ずかしいどころかむしろその状況を楽しめてすらいたのに、今は恥ずかしくて顔もあげられない。文化祭回るのにこんな格好してるとか、ただのテンションあがって調子のったコスプレイヤーじゃないか…!!それでなくても女子の目線集めまくりの赤司くんと一緒なのに…くそぅ。
「ここだ」
立ち止まった赤司くんに続いて止まり教室の張り紙を見ると“大将棋大会! 将棋部員に勝てたら豪華賞品あり! BY将棋部”と書かれていた。開けっ放しのドアから中を覗くと、なかなか賑わっていた。だがほとんどが父兄ばかりで、学生は将棋部員だけだった。赤司くんはその中になんの躊躇いもなく突っ込んでいき、空いた席に座った。私は教室に入れずにその様子をドアから見ていた。
「都遥、オレの後ろに立ってろ」
「う、うん」
男性しかいないこの空間に、メイド服の私が一人。全身に突き刺さってるよ…視線が…!ささっと赤司くんの後ろに立つ。それを確認した赤司くんは足を組んで片手で将棋の駒を弄んだ。
「さぁ、始めようか」
赤司くんの唇がニヤリと怪しく弧を描いた。
12:幸せなカップル
「あ、赤司くん…もうやめない?」
「何故だ」
「いや…だって…」
私はチラリと赤司くんの向かいに座って食い入るように盤を見つめる将棋部員を横目で見た。初めに戦ったのは将棋部員の1年生。その子をあっさり破った赤司くんは席を移動する。次は2年生。将棋が全然分からない私にも赤司くんが圧倒的な勝ち方をしていることだけは分かる。さっきから将棋部員が手を伸ばすのとほぼ同時に手を伸ばしパチッと音がしたと思った時には赤司くんはもう打ち終わっているのだ。どんどん席を移動した赤司くんはいよいよ将棋部部長と対戦。その頃には来ていた父兄が赤司くんと部長さんの盤を取り囲んでいた。危なげなく圧勝。
「これが部長の実力とはな。それで、次は何をもらえるんだ?」
青ざめる部長さんを見ているといたたまれなくなる。
「あっ、そういえば向こうに囲碁部!囲碁部あったよ」
「囲碁か…まぁ悪くないな」
この後赤司くんと、囲碁部、チェス部、オセロ部を回ったが、結果は私の口からは到底言葉に出来ない程一方的だったので割愛させて欲しい。どちらが一方的だったのかは想像にお任せする。
「はぁ…なんか赤司くんと回ってると疲れる…」
「そうか?」
「いいよね、本人は気楽で」
だんだんこの姿にも慣れ…着替えるのを諦めた頃、お腹がぐぅ〜と鳴った。
「そういえばそろそろお腹空いたなーって…あれ?おーい!」
「あ、都遥さん」
人でごった返す廊下の橋でチラチラと見えた水色の毛先に意識を集中させると見知った人物がいた。
「テッちゃん!やばいどうしよめちゃめちゃかっこいい!」
「都遥さんこそ、メイド服凄くお似合いです。普段でも可愛いのにお化粧や髪型で更に可愛く見えます」
「ぐはぁっ」
「都遥さん?」
「ちょっと…テッちゃんが直球な上、天使すぎてキュン死にしそうになりました」
「よく分かりませんが…すいません」
「むしろありがとうございます」
テッちゃんは燕尾服姿で、黒の生地に白い肌がよく映えて綺麗だった。燕尾服を汚さないようにそっとテッちゃんの首に手を回して抱き締めた。燕尾服に抱きつくメイド服。端から見たら相当異様な光景だろう。
「実は朝から疲れることばっかでねー癒しを求めてたんだけど、この学校一の癒しに出会えてほんと良かった」
原因は主に赤司くんなんだけど、とテッちゃんにだけ聞こえるように言うと、テッちゃんは私の背中を優しくさすりながら「心中、お察しします」と苦笑いを浮かべた。
「充電ー」
とすりすり抱きつく私を赤司くんが引っ張って、テッちゃんから離した。
「で?黒子、お前のクラスの出し物はなんだ」
「カレーです」
「カレー!?」
お腹が空いてる私は目を輝かせて復唱する。
「はい“エレガントdeカレー”です」
「…」
テッちゃんが指差した先にあるポスターには名前が派手に装飾されていた。
「て、店名は誰が…」
「僕です」
「い、いいセンスだね…ハハ…」
なんとか笑顔を崩さずそう告げると、テッちゃんがお礼を言って、それに合わせてまたお腹が鳴った。
「良かったら食べていきませんか?」
「食べます!」
テッちゃんはクスリと笑ってテーブルに案内してくれた。
「それにしても…なんでテッちゃんが客寄せ?」
「実は…仕事振り分けで名前を忘れられていて…忙しい仕事もないからって客寄せになりました。でも通る人に全然気付いてもらえなくて困ってます」
「これはまたテッちゃんらしい…」
なんとも寂しいエピソードを聞き終えて次に聞こえたのは廊下からの声。
「あっ、テツくぅ〜ん!」
「さつき!」
「都遥、それに赤司くんも!?」
テッちゃんを見つけたさつきは一目散に廊下からテッちゃんめがけて走ってきた。結局さつきもカレーを食べることになって、相席。更にここで今日のお仕事が終了したテッちゃんも加わって4人でテーブルを囲んだ。
「テッちゃんはこの後どうするの?」
「実は、クイズ研のスタンプラリー大会に出場しようと思ってます」
「んぐっ」
「さつき!?水っ水っ!」
テッちゃんからスタンプラリーの話題が出た瞬間に咳き込んださつきに慌てて水を渡した。
「テ、テテッテツくん誰と出るの!?」
「それがまだ決まってなくて…探してるんです」
「じゃあ私と出よう!ね、いいよね!お願い!!」
さつきの圧力に押されたテッちゃんが「よ…よろしくお願いします」と返し、さつきはテーブルの下で小さくガッツポーズをしていた。
「そんなに人気があるの?あのスタンプラリーって」
「結構な人数が出場するみたいですね。今年は優勝賞品がレブロン・ジェームズのバッシュらしいので、どうしても手に入れたいんです」
「でも珍しいね、テツくんがそんなにモノに執着するなんて」
「ちょっと…考えてることがあるんです」
「「へー」」
と私とさつきは口を揃えた。