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「えと…赤司くんが聞いた戯言ってのが私がさっき涼太に話した事だとすると本当です…」
「「…!!」」
「都遥っちぃぃぃ…」


更にオーラの色が濃くなる二人は最早指名手配犯レベルの極悪な相貌で、かっ開かれた目から邪悪な気でも出てるんじゃないかと見紛う程だ。一方涼太は潤んだ瞳と握りしめた両拳をわなわなと震えさせていたが、がっくり膝を床に付けた後はひたすら嗚咽をもらしていた。なにこれ、もう普通の中学校じゃねぇよ…と思ったが2mを超える長身、ハーフコートから3Pを放つシューター、部員に驚かれる影の薄さ、そんな特徴を持つ男達が集まるここは元からまともじゃなかったと改めた。


「いつの間に付き合い始めたんだよ。まさか昨日の今日でもう…!?」
「あの人そんなガツガツしてる風には見えないのに…やっぱり男は狼なんスよ都遥っち!騙されちゃダメッス!」
「それだと涼太も狼ってことになるけど。てか付き合い始めたって誰と誰が」
「決まってんだろ、お前とあの男が…ちょっと待てこの感じ…」
「前もあったような…ねぇ都遥っち、確認なんスけど。腕まくらの後って…」
「後?そのまま寝ちゃったけど。朝起きたら辰也さんの腕しびれちゃってるかなって心配だったんだけど、上手いこと首のところにズレてたみたいで…え、皆?」
「「「………」」」


脱力がこちらまで伝わる雰囲気の変わりよう。そろって吐ききられた三人のため息にますます自分がどういう立場なのか疑問だが、毒素が抜けきった顔の三人を見る限り悪い展開ではないのだと信じたい。


「毎回毎回こうもヒヤヒヤさせられてちゃ、鈍感でもいいとか言ってらんねぇぞ」
「都遥っちってなんでこの事に対してだけ偏差値マイナスを凌駕してるんスか」
「仕方ない、コレが都遥だ」
「いやユーモア甚だしい戯言とか言って一番焦ってたの赤司っちじゃないスか」


どうやら一件落着だね、と笑顔で発言してみたら凄まじい目力で威圧されてぐうの音も出なかった。ちょっとしたユーモアじゃないですかユーモア…。和みかけた空気が再びビキリと固まって、私は素直に謝るしかなかった。ユーモアセンス磨いて出直しますと申し出たら、違うと一蹴され、私のセンス磨きの修行は見送りとなった。


「都遥、電話で言ってたよね?金髪美女の彼女が出来たら連絡してって」
「はい」
「残念だけどその願いは叶えられそうにないよ」
「えっなんでですか?」
「オレに彼女が出来る時は都遥もその場にいるから」
「…ん?どういうことですか?」
「さぁ、どういうことだろう」
「なんか辰也さんが赤司くんみたいな意地悪になってる気がします」
「…嬉しくないな。とにかく、これは次会う時までの宿題にしよう。考えといて」
「分かりました。絶対解いてみせます!」
「楽しみにしてる」


賑やかなだだっ広い空港のロビーのベンチに並んで座る。いつもお別れは寂しいけど、今回は二週間もずっと一緒だったから尚更寂しさが増す。泣いたりして辰也さんを困らせたくはないからと、気丈に振る舞おうとしているところに出された宿題は、上手く私の気を紛らわせてくれた。その後、ロサンゼルス行きの便のアナウンスが放送されたけど聞こえないフリをして暫く黙ってしまったのは、話し始めたらその流れで別れなければいけない気がしたから。辰也さんも何も言わなかったのは、同じように思ったからなのかな。忙しなく人が行き交い、ロビーはアナウンスやお客さんの声で溢れているはずなのに、自分の心音だけがやけにうるさく鼓膜を支配していた。沈黙が続いたが、いよいよアナウンスが最終案内を告げる。辰也さんがスーツケースの持ち手に力を入れ立ち上がったのに少し遅れて続いた。


「着いたら連絡するよ」
「気をつけていってらっしゃい!」
「いってらっしゃいか…いいね」


男性に対してどうなのかなとは思うけど、目を細めて笑った辰也さんはとても綺麗で、ガラス張りの向こうの雲に隠れていた夕陽が少しずつ顔を出し、その光が手伝って更に綺麗に見せていた。辰也さんをシルエットにするほどの眩しさに手で陰を作ったら、辰也さんはその手を引いて隙間なく私を抱き締めた。


「都遥も連れて行きたい」
「辰也さん?」
「でも今のオレには無理だから、きっと都遥にふさわしい男になって帰ってくる。待たせてばっかりで、ごめん」


私にふさわしいって、私がふさわしくなりたかったはずなのに、辰也さんがそれを言うなんておかしくないですか…?ぎゅっと圧迫を受けながらそう思ったけど、それを口に出せと脳が伝達する前にふっと体を離され、辰也さんの顔を近づいてきた。マネキンみたいに固まる私を他所に、辰也さんは私の顔を通りすぎて首へと吸い付いた。味わったことのない不思議な感覚がして呆けていると、辰也さんは上体を起こし、小首を傾げる。続いて妖艶な笑みを浮かべ私の首を覗き、唇を当てた部分をするりとなぞった。


「都遥、これは執着って意味なんだ。覚えといてね?」


辰也さんがくるりと反転して搭乗ゲートへと進む。私は追いかけることも何か叫ぶことも出来なくてただそこに立っていた。体が言うことを聞くようになったのは、辰也さんが完全に見えなくなってから。ふと首に指を当ててみるとまだ熱が残っている気がして、ぼふんと顔が熱くなる。その熱が冷めやらないまま、離陸した飛行機に向かって大きく手を振った。

宿題に執着の意味。やらなければならないことはいっぱいだ。





―――――


「は、お前そんなこと言ったのか?彼女出来たら紹介しろって?」
「うん、だって気になるでしょ。あのスーパーイケメンで紳士でいいところしかない辰也さんの彼女だよ?ハリウッド女優ぐらいじゃないと許さない!」
「自分でハードル上げやがった…」
「てかそれ…死刑宣告じゃないスか。都遥っちが酷すぎて鬼に見えてきた…」
「鬼って…涼太の方が酷くない?」
「都遥の方が酷い」
「都遥っちの方が酷い」
「繰り返さないでよ…」


紹介してもらうことがそんなにダメなことなのか。鬼とまで言われたらさすがにへこむ。個人のプライバシーに無理矢理踏み込むんじゃないよってことが言いたいのか?だとしたら普通にそう言えばいいじゃないですか、死刑宣告とか鬼とか酷いとか散々だなほんと。


「それより都遥、首の跡はどこでつけた」
「「は!?」」
「跡?」


赤司くんの指摘した場所をすかさず凝視した大輝と涼太は無視して手鏡で確認すると、赤いあざのようなものが出来ている。別に痒くも痛くもないし覚えがない。鏡を見つめ記憶を遡って一つ、思い当たる節を見つけた。


「そうだ。辰也さんを空港に見送りに行った時、首にキスされた!…あれ?でもなんで赤くなってるんだろ。虫に刺されてるって教えてくれたのかな」
「おまっ…おま…」
「都遥っち…」


あははと笑った私とは対照的に、大輝と涼太は項垂れた。でも赤司くんだけはじっと首を見つめていて、なんだかこそばゆい気分。ポリ、とそこに軽く爪を立てたと同時に赤司くんが迫ってきて肩を掴んだ。


「片方じゃバランスが悪い。オレがもう一方にもつけてやろう」
「つける…?」
「赤司っちズルいッスよ!オレも!」
「だったらオレもつける!」
「ちょっ!だからつけるって何!?」


吸血鬼が美女の首から血を吸うシーンを見たことがあるけど、それを彷彿とさせるように首に噛みつかれる。でも離れる時はゆっくりと優しくて、そのギャップみたいなのが、赤司くんらしいなと思った。


「都遥、これは所有物って意味なんだ。覚えといてね?」


…やっぱり二人は根本的な何かが似ているのかもしれない。





→あとがき


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