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「都遥さーん」
「亮ちゃんやっほー!」
「ちゃんはやめて下さいよ、オレ男なんすから」
「ごめん、ついくせで…亮くんね、亮くん!」
「うっす」


亮くんはひとつ下の男の子。辰也さんがこっちに住んでた時所属してたミニバスチームの後輩である。辰也さんのプレイを見てバスケを始めた子で、まるでどこかの色黒とモデルのような関係だ。亮くんとは小学校は別だったけど辰也さんにくっついてる内に仲良くなった。


「辰也さんの事、あんま驚かないんだね」
「え、だって何ヶ月も前に聞いてたし。都遥さんと一緒ならここにも来るだろうとは思ってたんで」
「…亮くんまで知ってるのに…」
「何の話っすか?」
「なんでもない」


口を尖らせた私に亮くんは訳が分からないといった様子で「はぁ」と曖昧に返事をした。


「今日は部活ないんすか?」
「辰也さんここに連れてきたくて休みもらったんだ」
「…相変わらず愛し愛されって感じっすね、二人とも」
「年下のクセに愛を語るとは生意気な…」
「それより、どっすか?オレと1on1」
「話をすり替えるな!嬉しいんだけどパスしとく」
「えーなんで」
「んーまぁ、いろいろあるのさ」


バスッとボールがネットをくぐる音がして、見ると今のゴールで1on1の決着がついたらしい。


「どうでした?」
「うん、アップに丁度良かったかな」
「くそーっ生意気言いやがって!都遥が連れてくるのは亮に辰也に出来るヤツばっかだな」
「だってー賭けバスケだって言ったら皆嫌がるんだもーん」
「日本だと賭け事は悪いイメージが強いからね」


元々、あまり広めたくないと思ってるからこの人なら、と思う人にしか教えてないんだけど。


「辰也さん!次はオレと勝負しましょう!」
「亮か、いいよ。アップ済ませるからちょっと待って」
「おいおいなんだよそのオレとの扱いの差!」
「まぁまぁタケさん」


タケさんに続いて、亮くんと勝負を始めた辰也さんをボーッと見ながら邪魔にならない場所に腰をおろした。


「なんだ、また独りで考え事か?」


よっこいせ、と私の隣にどかっと胡座をかいたのはタケさん。


「いえ、あの頃とは違って、今は仲間がたくさん出来ました。だから独りじゃないですよ」
「………そうかー、都遥の仲間か…いつか紹介してくれよ」
「…いつか」
「あぁ、いつかでいい」
「はい」





―――――


「亮上手くなったなぁ」
「勝ったのにそれ言うとか嫌みにしか聞こえないっすよ!」
「ははは、本気なんだけどな」


それから何度か1on1やチームゲームをしたが、辰也さんは全勝。突然の大型ルーキーの登場に、皆驚き、喜んでいるようだった。夜の7時を過ぎたところで「そろそろ学生は帰れよー」というタケさんに従い、帰路についた。


「明日からは部活があるので私は行けないですけど、受け付けで来た時間と名前を記入すれば入れます。帰りの時間も書く決まりなんで帰る時忘れないで下さいね」
「うん、了解」
「あ、ちなみに賭けバスケで負けた場合は扉の横の箱にお金を入れて下さい」


入り口扉の横の壁、ポストくらいの高さにカラーテープで雑把に貼り付けられた透明の箱だ。


「そういえば賭けバスケなのに相手に払わないのか?」
「あれ、タケさんが駄菓子屋で買ったソースかつが入ってたプラスチックの箱なんですけど」
「は?」
「今日の辰也さんの賭けの分も実は全部あそこにいってます」
「あれが使用料に繋がるってこと?」
「正解です」
「でもタケさんも払ってたような…」
「表向きは使用料です。ここにはお金欲しさで来てる人はいないですからね。タケさん強いし、めったに負けることがないから皆はタケさんも払ってること気付いてないんです。それでタケさんが払う理由、この前こっそり聞いたんですよ…」


私が口を手で覆い背伸びをすると、辰也さんがくいっと耳を寄せてくれた。


「あの箱が一杯になったら皆で盛大にバーベキューするらしいです。それが次の夢だって」
「へぇ、タケさん、ほんとにいい人なんだな」
「はい!」
「あとソースかつの箱だなんて…庶民派なのかなんなのか謎な人だね」
「はい…ほんとに…」


二人して苦笑いを浮かべた。

体育館建てちゃう豪快さに、たまたまあったソースかつの箱にお金を入れる適当さ。かけ離れてるようで、でもそれらが同時に存在するあの人に、私は救われたんだ。



20121002 玄米


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