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「赤司君って?」


辰也さんの当然の疑問に、そういえば何も説明していなかったと思い出す。


「赤司征十郎くん。試合の後半でPGしてた赤い髪の子です!バスケ部のキャプテンで、変人の集まりのスタメンをうまくまとめてる頼れる存在なんです」
「彼か…」


辰也さんは空を見上げ、あの夏のストバスを振り返っているようだった。


「じゃああの黄色と青色の髪の子は?」
「黄色はSFの黄瀬涼太。今年の春からバスケ始めたばっかで経験値はないけど飲み込みの早さが異常に早いんです。青色はPFの青峰大輝。型に囚われないアンストッパブルスコアラー。辰也さんがアメリカ行ったあとすぐに知り合った子なんです」
「昔からからよくメールで出てきてたスゴい男の子って青峰君だったのか」
「はい、辰也さんがいなくなって一人ぼっちだった私の数少なかった友達の一人です」
「都遥…」
「あ、いえ別に暗くなるところじゃないんですよ!今はああやってお茶飲みに行ける友達もいますし、なんやかんやでバスケにまた関われるようになって…こんなに幸せでいいのかなってくらいですから!」


部活に行く度に、私はつくづくバスケが好きなんだと思い知らされる。


「…友達増やしたいって言うのは、今のこの友達がいる環境の楽しさに気付いちゃって、増えればもっと楽しいかも!なんて思ったのが原点だったりするんですが…多けりゃいいってものでもないですもんね」
「赤司君にはそう言わなかったのか?」


今みたいに理由を言えば何か変わったかもしれない。でも、言えなかった。


「皆には、話していないんです」


辰也さんは何も言わず、ただ隣を歩いてくれた。しばらくして、ねぇ、と声をかけられて顔をあげた。


「昔よく行ってたあの場所覚えてる?」
「もしかして…」
「久しぶりに行こうか」
「いいですね、行きましょう!」
「おーすごーい!」
「ここからの景色は変わってないね」


私達がやって来たのは、丘の上にある公園。夕方にここから見える町並みが大好きで、よく辰也さんと遊びに来ていた。


「懐かしいですね、ここにいるといつの間にか時間を忘れちゃってよく怒られたなー」
「都遥のお母さんすごかったね、フライ返し持って飛び出してきた時は驚いたよ」
「あれはもう忘れて下さい…」


ベンチに座り恥ずかしさに顔を隠した。遠くのスピーカーから、七つの子をBGMにそろそろお家に帰りましょうと放送が流れる。私は顔をあげ、夕日に染まる町と柵にもたれ町を見下ろす辰也さんを見て、思い出がフラッシュバックした。


「この前もこんな感じだったな…」
「この前?」
「つい最近学園祭があって…その日も町を見下ろしてたんです。丁度これくらいの時間に、あの6人と一緒に」
「…妬けるな」
「え…」


オレンジに染まる辰也さんはこちらに背中を向けたままで、表情が分からない。


「オレの方があの6人より付き合いが長いのに、どんどん都遥と思い出を作ってて…オレとの古い思い出なんてすぐに塗り潰されそうだ」


その声が酷く寂しそうで、胸を締め付けられた。

私達が初めて出会ったのは、私が生まれた日だ。親同士がとても仲が良くて、氷室夫婦はまだ赤ちゃんだった辰也さんを連れて病院まで来てくれた。それからずっと一緒に過ごして、まるで兄妹みたいに育っていたけど、急に引っ越しが決まってからはこうしてたまに帰ってきた時に会う程度になってしまって、正直、思い出なんて数えられるほどしかない。


「私が辰也さんとの思い出を忘れるわけないじゃないですか。それに、思い出ならこれからいっぱい作りましょうよ!」


人生まだまだこれからです!と言うと、辰也さんは振り返って「そうだね」と笑った。


「そろそろ帰ろうか」
「あ、はい」
「久しぶりだなー都遥の家」
「え」
「おばさんとおじさんに会えるのも久しぶりだ」
「えっえ…辰也さん?」


どういうことですか…、と聞いた私に辰也さんは


「後で分かるよ」


と笑顔で言って、戸惑う私の手を取り歩きだした。

なんで…こんなことになっているんだ…なんで…


「思い出、たくさん作ろうか」


…辰也さんと私の家で二人っきり?

丘の上で夕焼けのキレイな景色を楽しんだ私達が家に帰り、玄関を開けると、私の両親が立っていた。キャリーバッグと共に。


「都遥、丁度いいところに帰ってきたな。おっ辰也君も一緒だったのか、また一段と男前になって!」
「お久しぶりです、おじさんも相変わらずお元気そうですね」
「ちょ、ちょっと待ってよ!何これどういうこと!?どこ行く気!?」
「あら?お父さんから聞いてなかったの?アメリカに旅行に行くのよ」
「なんだ、オレはてっきりお前が言ってるもんだと思ってたんだが、違ったかハハハ!」
「やだもうお父さんがオレが話すって言ったんでしょ?酔っ払ってて覚えてないのね、ほんと困った人、ふふふ」
「ふふふ、じゃない!!アメリカ行くって何!?私なんの準備もしてないのに!」
「何言ってるんだ、お前は連れて行かないぞ」
「え」
「あなたは学校があるでしょ?だからこれから二週間、辰也君と二人でこの家で暮らすのよ」
「…は?」
「じゃあ辰也君、そそっかしくてうるさい娘だがよろしく頼むよ」
「はい、任せて下さい」
「都遥、いくら好きだからって辰也君を襲っちゃダメよ。合意ならいいけど」
「お母さん!?」
「いってきまーす」
「気をつけて、いってらっしゃい」


嵐が…去った。無情にも閉まったドア。


「……な、何がどうなってるの…」


青ざめた顔で頭を抱える私に辰也さんが「とりあえずリビングに行こうか」と優しく言った。


「事の発端は今回のオレの帰国なんだけど…都遥は姉妹校の留学制度って知ってる?」
「はい、あの交流を深めるために年に何人かがお互いの学校に短期間通うってやつですよね?」
「そう、実はオレが通ってる学校が帝光の姉妹校で、今回その制度を受けられることになって帰ってきたんだ」
「あの、じゃあ…もしかして…」
「明日から二週間、同じ帝光の生徒だよ」
「ま…マジですか…!」


とんでもないことになってしまった…!

普段でさえ、バスケ部の連中のせいでいろいろ大変なのに、そこに辰也さんまで加わったら…更にややこしくなる…!


「それでホームステイ先を探してたら都遥のおじさんがウチにおいでって勧めてくれたんだ。で、ならいっそオレたちも留学だ!ってオレがこっちにいる間、おじさん達はアメリカのオレの家で過ごすことになったらしい」
「なに考えてるんだあのバカ親父は!!」
「面白いよね」
「笑い事じゃないですよー…」


これから辰也さんと二人っきりで二週間もの生活。ちらっと辰也さんを見ると、にこっと微笑みを返されて顔が熱くなった。

あああ、やっぱ好き!



20120925 玄米


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