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学園祭の翌日、片付けや各報告書のまとめにあてられたその日、私と赤司くんは売り上げ集計を担当し、報告書を作成していた。


「えーっと…午前の売り上げがこれで午後は…えっ!?ななななにこれぇっ!!」


午後の担当をしていた子から預かったメモをぐしゃっと握って限界まで近付けて穴があくほど見つめた。


「どうした」
「ごごご午後の売り上げが…ごっ午前の売り上げの7倍なんですけど…!」


そりゃ午前より午後の方が時間も長いし、喫茶店に寄ろうとは思うかもしれない。けど何この7倍って…!私が担当した午前だってそこそこお客さん来てたし、頑張ったのに…なんかスゴい負けた気分…


「午後の売り上げが…それに何故か午後は男女比率がおかしいんだよね。1:9とかどうなってんの…」
「さぁな。午後の奴に聞いたらいいんじゃないか?」


手を休めずさらさらと書き込みを続ける赤司くんは当然、といった表情で全く動じない。午後の方が女の子多かったから男子集まるだろうって話だったのにな…そこに偶然午後の接客担当だった女子が通りかかったので理由を尋ねた。その子はちらっと赤司くんを見た後、私の腕を引き教室の角に移動してボリュームを落としコソコソと話し出した。


「“ご主人様赤司くん”都遥も聞いたでしょ」
「あ、あぁ…なんかよく分かんないけど、そんなことになってるらしいね」
「学校中に広まったその話を聞いて、赤司くんファンのみならず、シチュエーションに歓喜した女子が詰めかけてきたの」
「はぁ?でも赤司くん午後はいなかったのに」
「別にそれでも良かったみたい。本場で話を聞いて、想像して、キャーキャー騒いでた。もちろん私達店側の女子も一緒に」
「オイ」


ポンと肩にツッコミを入れたが意にも介さず話は続けられた。


「大変だったんだから!『二人は付き合ってるのか』とか『どこに行ったんだ』とか『詳しく説明して』とか言われて。ま、楽しんでたけど」
「オイ」
「まあ結果的に売り上げ優勝候補筆頭だった黄瀬くん、紫原くん、青峰くんの3人を抱えるクラスの“艶仁知”といい勝負だって噂だし、ほんとアンタラにはほんと感謝だよ!」
「私はなんもしてないけど…」
「優勝したら皆で焼肉でも食べて打ち上げしよ!じゃねっ」


元気に手をあげ自分の仕事に戻った彼女に手を振る。売り上げ総合優勝のクラスは準備金の免除という毎年決まったご褒美がある。今年はキセキの世代を3人も集めた最強クラスのおかげでどのクラスも楽しめればそれでいいよね、と諦めムードだった。そこに突如頭角を現した我がクラス。正直、メイド服や調理器具などの調達で雀の涙しか残らないであろうと予想されていたところにきての猛追。準備金免除となれば売り上げ金全てが懐に入るわけで、優勝を期待せずにはいられない!席に戻り私もせっせと作業を再開した。


「急に意欲的になったな。何を聞いてきたんだ」
「いやいやー正直昨日のアレはかなり恥ずかしかったけど、売り上げに貢献したと思えば我慢出来るなと!」
「当たり前だ。オレが意味もなくあんな馬鹿げたことをするわけがないだろう」
「…え、まさか…」
「全ては計算だ。統括の仕事の一貫として、売り上げを操作した、それだけだ」
「操…作…ハ、ハハ」





―――――


「と、いうワケです。ありえないよね、いろいろ」
「「「「「カッコイイ〜〜〜!!」」」」」
「…なんでもアリですか」


再びドリンクを手に取りズズッとすすった。周りのお客さんの痛い子を見る目に身を小さくする私を余所に皆は甲高い声を弾ませる。


「赤司くんってほんっとどこまでも見通してるよね〜他の男子とか幼稚園児に見えてくる。あの中学生とは思えない落ち着いた気品漂う立ち居振舞い!」
「それを言ったら緑間くんでしょ!それに見た目も中身もインテリなのに運動部なギャップとちょっと変わってるところもステキ」
「ギャップなら紫原くんだよ!体は超おっきいのに中身は完璧に子ども!バスケ以外なんも出来ないとか母性本能くすぐられるわー」
「母性本能くすぐるのはやっぱ黄瀬くん一択!いつも笑顔で天才なのにちょっとバカっぽいとことかバスケの時だけ見せる真剣な表情とかたまんない」
「バスケの時の表情は断トツ青峰くん!普段のやる気ない目からは想像出来ない野獣のような視線にいつも撃ち抜かれそうになるもん!要するに…」
「「「「「キセキの世代ってほんっとキセキだよね〜〜〜」」」」」
「テッちゃんはどうした!」


よくそんなペラペラと出てくるなと思いながら観客を決め込んでいたが、唐突に終わった話題に思わず声をあらげてしまった。


「“テッちゃん”って?」
「…黒子テツヤくん!」
「…誰だっけ?」
「はぁ?幻のシックスマンとして帝光バスケ部を支える影じゃない!」
「バスケはよく分かんないからな…」


さっきまでの興奮が嘘のように皆は静かに自分の脳内で“黒子テツヤ”なる人物を探す。


「あ、もしかしてこの前の試合いつの間にか出てひょこひょこしてた子?」
「ひょこひょこ!?どこ見てたの!あの試合テッちゃん大活躍だったじゃない!第3Q後半の赤司くんからのパスをそのまま大輝のアリウープにしたのとか鳥肌モンだったでしょ!?しかもその日全体的に判断も冴えまくってて動きも良かったしあの試合のMVP確実にテッちゃんだったのに!」
「あーハイハイ」
「また都遥のバスケ演説が始まった」
「自分達の話散々聞かせといてその反応とかマジか」


どこまでも不憫極まりないテッちゃんに涙が出そうになった。


「あ、一番大事なこと聞いてなかった」
「大事なこと?」


皆がそれを聞いてそうだそうだと頷いて、一斉ににんまりと目を細めと口角をあげた。


 


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