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「お姉さんはどうします?」


女子生徒はスタンプを持ち上げて思い出したように私を見た。


「今揃いました!ここにいる7人全員、私の“大好きな人”です!」


女子生徒は笑って全員にスタンプを押した。ほぼ同時にクリアした私達4ペアは第4ゲームが行われる多目的ホール前へとやってきた。


「第4ゲームは迷路です。じゃあ、いってらっしゃーい」


開かれた扉の向こうの景色に、飛び込もうと前のめりだった体からへたりと力が抜けた。


「ちょっと…」
「これ…」


私と同じ反応をしたのは隣にいたさつき。長年連れ添った私達はそっと目を合わせ、アイコンタクトを飛ばした。


「(これはアレだよね)」
「(やっぱり…俗に言う…)」
「「お化け屋敷ィ!?」」
「あー都遥もさつきもこういうのは昔からダメだったもんな」


耳に小指を突っ込んだ大輝に「おだまり!」と叫んでやりたかったがそれどころではなく、ただただ赤司くんの服の裾を掴むことで精一杯だった。


「大丈夫だ、最短距離で抜ければ直ぐ終わる。ジャケットはそうそうボタンが取れることはないだろうな?」


ふっと笑った赤司くんに遊園地へ行った時のように腕を差し出され「あれは流石にもうしません」と言って腕を回した。


「都遥っちが赤司っちの腕を…!」
「いいからてめぇはこっちだ」


大輝に引きずられ、涼太と大輝は暗闇に入っていった。「お互い、生きて出ようね」と言ったさつきもテッちゃんを追って入る。真ちゃんに「入らないの?」と聞いたら「お前達に着いていく」と返され、自分がラッキーパーソンとやらだったことを思い出した。


「じゃ、じゃあお願い!真ちゃんとあっくんで私囲んで!」
「なんでー」
「二人ともおっきいから周り全く見えなくなるでしょ!」


そして、前に真ちゃん、隣にあっくん、反対隣は腕を掴ませてくれてる赤司くん、という最強のフォーメーションが出来上がった。


「これが1―3ゾーン…!」
「一人足りないしそもそも全然違うのだよ!」


パニックで可笑しな発言を始めた私に真ちゃんの容赦ないツッコミが入る。でも、所詮は学園祭のお化け屋敷。ビクビクしてはいるけど、本格的なプロが務めるお化け屋敷を経験している私に死角はなかっ

ガタッ


「だあああああああああああ」
「桐原!?」
「都遥ちんうるさー」
「相変わらずだね」


…前言撤回。超怖いですホント調子のってましたごめんなさい…!!!赤司くんの指示に従い先頭の真ちゃんが進む。多目的ホールはそんなに大きくないはずなのに、なかなかゴールに着かない。

ガタッ


「わきゃううううううう」
「なにそれ、面白いねー」


今日何度目かの悲鳴をあげて気付いた。


「さっきから同じとこぐるぐるしてない!?」
「そうか?」
「だって、さっきの音つい数分前に聞いたのと一緒だった!」
「…へぇ、音だけで分かるのか。すごいスキルだな」
「こんなスキルいらないし!てか確信犯じゃない!」


赤司くんをキッと睨むと、一息ついて「仕方ない」と言った。


「緑間、次は左でその次は暖簾をくぐる」


その通りに進むと直ぐに出口に出た。どうやらあの暖簾を見つけない限り永遠にループする仕組みらしい。


「あ」


再び廊下に出た私達の前方に見えたのは肩を組み二度目の二人三脚をしている大輝&涼太。


「ちょっと赤司くん抜かれてるじゃん!」
「腕を貸し、道案内までしたのに随分な物言いだな」
「すいませんでした!今すぐバンド結びます!!」


目指すは最終ゴールの第2グラウンドだ。「ゴールまでは最初と同じように二人三脚で」とクイズ研の係に言われ、再度赤司くんと足をバンドで結んだ。


「よっし、完了!せーのっ」


いち、に、いち、に、と二人で声を合わせて足を交互に動かす。だが、普通に走っているのに近いスピードの大輝達からグングン離される。そのことに気を取られ、足がもつれ態勢を崩してしまった。近づく床にキュッと目を瞑る。が、衝撃の代わりにやって来たのは腹部への圧力。


「あ…れ?」
「ったく、危なっかしいな」


宙に浮いたような変な格好で横を見ると、赤司くんが私を脇に抱き抱えていた。


「ごっごごごごめん!」


全身に力を込めて立ち上がり、繋がっていた赤司くんの足を見るとバンドが擦れて赤くなっていた。


「赤司くん…!」
「かすっただけだ。都遥は?」
「私は大丈夫だけど…」


足から目線を離せないでいると、赤司くんは無理矢理私の目線をあげさせた。


「今はゴールすることだけ考えろ」
「…はい」


まっすぐに目を見られて恥ずかしくなって逸らすように首を縦に振った。


「と言ってもまぁ急ぐ必要はなさそうだが」
「どうして?」
「忘れたのか?第1ゲームを思い出せ」


忘れもしない。グラウンドに掘られた数々の落とし穴。


「何もないわけがない」


赤司くんとまたリズムを合わせ足を踏みいよいよ第2グラウンドまで来た。先頭だと思っていた大輝&涼太ペアの前になんとテッちゃん&さつきペアにいる。だが私達から離れすぎない位置にいた真ちゃん&あっくんも先頭の近くにいて、その3ペアに差はほとんどなかった。大輝&涼太ペアが笑顔でテッちゃん&さつきペアを抜いた瞬間―――

ドゴォォォォォォ!

前にいた6人が空に飛び上がった。正確には、巨大な網が6人を木と木の間に宙吊りにしたのだ。


「うわぁー…テッちゃんとさつき潰れてないかな…」


狭い網の中で必死にもがく6人を下から見つめながら進む。


「あっ都遥てめぇゴールすんな!」
「今すぐ棄権して下さいッス」
「へっへーレブロンは私のモノだー!!」
「そうじゃねぇー!」
「そうじゃないッスよー!」


と同時に叫んだ網の住人の下を潜って赤司くんと目を合わせ、ゴールテープを切った。


「ゴーーーーールッ!」
「「あ゛ああーーー!!」」


クイズ研の部長がマイクを通した声高々な宣伝をかき消しそうな大声で大輝と涼太が叫んだ。同時にパンッパンッとクラッカーが鳴らされ、紙吹雪が舞い散った。


「やったね赤司くん!」
「あぁ」


素っ気ない返事だったけど、赤司くんは少し嬉しそうに微笑んでいて。私の中学生活二度目の学園祭は、喜びと祝福の表彰台で幕を閉じた。



20120920 玄米


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