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「でね、そのクイズ研のスタンプラリーってペア出場らしいんだけど、男女で出場して優勝すると幸せなカップルになれるんだってさ。いやーさつきも恋する乙女になってしまったんだなーうんうん」


カレーを食べ終えて店を出た私はテッちゃんとさつきと別れ、また赤司くんと二人で校内を歩いていた。さつきにスタンプラリーのペアにテッちゃんを必死に誘っていた理由を聞いたら、私にだけこそっと耳打ちして教えてくれたのだ。


「都遥はいないのか?一緒に出たい人」
「え、私?」


うーんと空を見上げて考えてみる。


「バスケ部の3年生かな?」


赤司くんの眉がピクッと動いたけど、一瞬のことでそれが彼の僅かな動揺だったとは気づかなかった。


「…理由は?」
「優勝賞品レブロンのバッシュでしょ?絶対欲しい人も多いだろうし卒業祝いも兼ねてプレゼント出来たらいいなって!」
「…そうか。返答によっては今日一日都遥を拘束するところだった」
「拘束!?」


おおよそ中2の男子から出てくるとは思えない言葉を口にした赤司くんに頬がひきつってしまった。


「冗談だよ」


目が笑ってないいいいい!!恐怖に冷や汗が流れた。廊下を進んでいくと、一際キャーキャーと騒ぐ女子の塊の一角が見える。


「なんか…スゴいね…」
「よくこんなキーキー叫んでいられるな」
「いや猿じゃないんだから…」


とは言いつつも、途切れることなく放たれる悲鳴は聞いてる方が疲れてくる。それに多分あの輪の中心人物に気付かれるともっと疲れることになる。引き返そうか、と体を翻したら背中から声がした。


「都遥っち…?あーやっぱ都遥っちじゃないスかー!!」
「ぅわっ…やっぱ涼太か…」


予感的中。大勢の女の子に囲まれていたのは、フランス王朝にありそうな青年将校風の衣装を身に纏い、オールバックのような髪型にセットした涼太だった。華美に飾られた衣装をガシャガシャと揺らしながら、涼太は女の子を掻き分けてこちらへ走ってきた。そして私を抱き締めて頬擦りした。


「メイドさんな都遥っちも可愛いッスー!!」
「あーそれはどうも。涼太はなんなの、その格好」
「うち、縁日やってるんスよ!最初は喫茶店やるはずだったんだけど、飲食店の権利の抽選外れちゃって、縁日になったんス」
「…そっか。良かったね、お客さん…いっぱいで」


背中越しに見えた女子の一団は涼太のクラスの“艶仁知(えんにち)〜艶やかなる新しき愛と知性をあなたに〜”というツッコミどころ満載の出し物に行列を作るお客さんだったようで、目当ての涼太がいなくなったことにより静かになっていた。


「まあ、そうっスね。なんか物珍しさで、人が集まってるらしくて」
「物珍しさ…」


体を離して教室の方に振り返った涼太に歓声があがり、思わず苦笑した。涼太が私達のところに来てから、やたら視線の数が増えた。たぶん、いや間違いなく、それは並んでいる女子たちのものだ。


「あ、そうだ都遥っち。紫原っち見た方がいいっスよ、絶対!」
「あっくん?」


涼太は「呼んでくるっス」とまた叫び出した団体の中に消えていった。


「あっくんも衣装着てるのかな…どんなのだろ」
「そういえば、紫原に合うサイズの衣装がなくて探すのに苦労したと話していたのを聞いたな」
「確かに2m級の衣装なんてめったに聞かないもんね」
「あーハルちんと赤ちんだ〜」
「あっく…んんんんん!?」


教室のドアをくぐって出てきたあっくんは、レースをふんだんに使った重厚なドレスを身にまとっていた。


「あああああ、あっくん!?」
「紫原っち、アレやってよ」
「えー、うん、まあ、いいよー」


だるそうに返事をしたあっくんは片手は腰に、片手はビシッと私を指差した。


「ごはんがないなら、お菓子を食べればいいじゃなぁい!!…ってあれ、ハルちんメイドさんだー」
「う…うん、そうなんだけど…あぁもう何からツッコんだらいいの…!とりあえず…あっくん超イカしてるーーー!!」
「わー、ハルちんから来るなんて珍しいねー」


もふもふのドレスに突っ込んで、あっくんに抱きつくと、あっくんはお腹あたりにある私の頭をよしよしと撫でた。


「紫原っち!都遥っち離して!」
「えー別にオレなんもしてないけど。つか黄瀬ちん会う度ハルちんに抱きついてるじゃん」
「オレはいいの!!」
「許可した覚えはない」
「わぁっ」


あっくんに抱きつく私に更に抱きつこうとした涼太を赤司くんが私のまえに立ち塞がって阻止した。


「都遥、離さないと明日からの青峰のフットワーク付き合わせるぞ」
「すいませんっ!!!」
「…フットワークってなんスか?」


赤司くんの脅迫に素早くあっくんから飛び退いてビシッと直立した。涼太は私の反応に嫌な予感がしたのか、冷や汗を一筋頬に流して赤司くんに尋ねた。


「青峰は明日からフットワークが3倍になった、黄瀬もな」
「オレも!?なんでッスか!」
「オレの専属メイドに無断で触れた罰だ」
「専属メイド!?」
「初耳ですけど…」


赤司くんの冗談…かどうかは分かんないけど、こういう発言はどう受けとればいいのか、時々困る。


「言葉のまま受けとればいい」


とか言われそうなので言わないけど。


「…オレ戻ってるー」
「紫原、お前もだぞ」
「む…」


いつもマイペースなあっくんも赤司くんには逆らえないのか、反論もせずただ大きな背中を丸めながら店内に戻った。あっくん…ご愁傷様…。涼太は腕を組む赤司くんに重なるように少し後ろに立つ私達を見て「確かに、赤司っちが都遥っち従わせてるみたいに見えるっスね…」と感情が読み取れない複雑な表情でつぶやいた。


「…赤司っち」
「なんだ?」
「フットワーク3倍、やるッス。その代わり、クイズ研のスタンプラリー、都遥っちと出場させて欲しいッス」
「おーい、なんで私じゃなくて赤司くんに許可取ってんのー」


私の声を無視して二人は数秒間睨み合いを続けた。のち、赤司くんは、ふぅと大きくため息をつきスタンプラリーの受付会場である第2グラウンドを指す。


「受付時間までにお前以外に都遥のペア立候補がなければ出場を許す。もし現れればオレも含めてクジでもすることにしよう」
「ナチュラルに赤司っち入ってるんスけど!」


ああ、今更私の意志の確認はなしですか、なんて聞いても意味がないということだ。



20120920 玄米


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