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でもこうしていざ学園祭が始まってみると、やはり適任は赤司くんだと思い知らされる。注文内容などを含め、店内全てを把握している視野の広さ。冷静な状況判断、迅速かつ的確な指示。あの曲者揃いのキセキの世代をまとめ、伝統ある帝光バスケ部のキャプテンをしているだけはある。何を取っても完璧だ。


「都遥、ボーっとするな。レジ対応だ」
「あ、はいはい!」


数少ない女子の掛け持ち組の私は赤司くんの指示に従い、キッチンと接客をなんとかこなしていた。私の担当はお昼までで、それからは自由時間!バラエティ豊かな出し物の数々、どこに行こうかと今から楽しみすぎて顔がすぐ緩んでしまう。カランカラン、と教室のドアに取り付けた鈴が鳴って反射で振り返った。


「いらっしゃいませー!」
「おーやってるやってる」
「大輝!」
「…おまっ都遥?」


タタタッと迎えに行くと大輝が大げさに何度か目を上下させて私の全身を確認した。


「ふふ〜んっ今日はメイクもヘアアレンジもしてるから見違えるでしょ?」


くるりとフリフリのスカートを掴んで一回転する。


「っ…いっつもド素っぴんジャージだかんな。馬子にも衣装ってか」
「感想酷くない?それより大輝が諺を知ってたって方が驚いたけど」
「お前もたいがいひでーぞ」
「ご案内しまーす」


反論は聞かなかった事にして、営業スマイルで上半身と片手を傾けて店内に入るよう促した。そのまま空いてるテーブルに連れてきて椅子に座らせると赤司くんがやってきた。


「青峰、出し物はどうした」
「あ?サボっ…赤司!そういやお前らおんなじクラス…!」
「サボったんだ…」
「あ、いや」
「2番テーブルのお客様から統括の特別メニューのご注文いただきましたー」
「よし、青峰は明日からフットワーク3倍だ」
「!!!」
「ごゆっくり〜」


ガタガタと明日からの地獄を想像してうち震える大輝とその大輝の正面に座って頬杖をついて笑う赤司くんを残して仕事に戻った。


「素直に可愛いと言ってやればいいんじゃないのか?」
「あ?べ、別に思ってねーよっ!」
「アピールしない奴は意識すらしてもらえないんじゃないのか?」
「っ!」
「お前がそれでいいならオレは構わないが」


“都遥”と赤司くんの声がして、手招きをされたので大輝の注文が決まったのかと、営業マニュアルを実行した。


テーブルのそばで膝をつき、笑顔でお客様を見上げる。


「お待たせ致しましたご主人様、ご注文はお決まりですか?」
「なっ!?」


語尾の疑問符に合わせて小首を傾ける。大輝はガタンと椅子ごと身を引いて思いきりテーブルの裏に足をぶつけた。


「ってぇ!」
「ちょっ、大輝大丈…」
「都遥」
「へ?」


涙目で叫んだ大輝を心配して立ち上がろうとした瞬間、スッと手が伸びて顎を捕まれた。強引にそのままクイッと顔を動かされて自然に目線が動く。大輝に変わって視界に入ったのは大輝に見せた笑顔よりもっと裏がありそうな、それはそれは胡散臭い、笑顔と呼ぶには怖すぎる赤司くんの顔。


「いけない子だね?仮にもお客様を呼び捨てにするだなんて。…躾が足りなかったのかな、可愛いメイドさん?」


教室中に聞こえる音量でゆっくり紡がれたその言葉を、私達の行動を全員がフリーズして見ていた。もちろん、私もフリーズしている一人だ。赤司くんは顎から手を離して、無理矢理掴まれた顎のせいで変なバランスのまま宙に浮く手を取って自分の口許に引き寄せた。そしてそのまま手の甲に盛大なリップ音を立て口づけた。


「許してあげるのは今回だけだよ。次からは…」
「ひゃっ」


赤司くんは私の手を取ったまま立ち上がり、その手をグッとあげて私を立たせると腰に手を回し抱き寄せた。今にも触れそうな顔の位置に息が止まる。さっきまでの笑顔が嘘のように今度はキッと殺気ともとれる威圧感のある表情を見せ、低く低く囁いた。


「お仕置きだ」


世界の時が止まってしまったのかと思うほどの長い一瞬教室が静まり返って、そして


「ね、都遥?」
「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」」」


窓を割って吹き飛ばしそうな女子の大絶叫が、校内にこだました。


「なばばばばばんなんなんなななああああああああああ赤司くんんんんんんんん!!!なにをなささささいんれすかあああああああああ」
「都遥っ!おまっとりあえず落ち着けっ!そんで赤司は都遥離せっ!!」


腰に回されている赤司くんの手をベリッと剥がした大輝は私を自分の後ろに隠した。私は大輝の背中のセーターをグッと握る。未だ大絶叫が響く教室で赤司くんは何かをつぶやいていた。私には聞こえなかったけど、どうやら大輝と話しているようだった。


「とりあえずこれでオレは学校公認かな?」
「赤司ぃ…!」
「青峰、お前はどういう手段で都遥にアピールするのか楽しみで仕方ないよ」
「少なくともお前みてぇなやり方はしねぇよ!」
「ふ…そうか」


いつもの笑顔を浮かべた赤司くんが大輝からひょっこり顔を出して「ほげぇっ」と変な声を上げて体を硬直させてしまった。


「行くぞ、仕事は終わりだ」
「は、えっ行くってどこへ…」
「将棋部だ」
「え、あの、私さつきのクラスのクレープを食べに行こうと」
「将棋部だ」
「ですよね!」


スタスタと教室を出ていく赤司くんの背中は問答無用で着いてこいと言っている。


「ごめん大輝ー!お店のもの何でもツケで1個だけ食べていいから、またねー」
「あっおい!」


大輝に向かって手を合わせ、赤司くんを追いかけた。さっきの赤司くんの恥ずかしいセリフと行動は謎だけど、今は学園祭を回れることの方が大切で、胸が躍った。



20120919 玄米


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