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幼稚園の時、毎週日曜日に開かれるバスケのクラブチームに入っていた。男女に関係なく参加出来て、それなりに強いと有名なチームだ。


「都遥っ8番マーク!」
「うんッ!」


キュッとバッシュのスキール音が響く。


「くっ」
「…ほ!」
「ぁっ!?」


私のDFに動きが鈍った隙をついて思いっきりボールをはたく。その先にいたのは―――


「たつやくんっ」
「ナイスパスっ都遥」
「たつやくんもないしゅー」


二人でハイタッチをする。そんなコートの私達を見ていた周りの大人たちはざわざわと騒ぎ出す。


「なんだあの二人は…まだ幼稚園児だろう!?」
「見たかあの男の子の機動力」
「それより女の子のDFが…」


様々な声が飛び交う中、私達はそんなことを全く気にせずコートを駆け巡った。


「いやー君たちスゴいね」
「ありがとーございますっ」


試合が終わって大人に囲まれるのも最早習慣になりつつあった。それが当たり前だと、自惚れていたんだ。物心がつくころにはたまたまテレビで見たバスケに心打たれていたらしく、両親に聞くと、人生で初めてねだった誕生日プレゼントはバスケットボールで、クリスマスはバッシュだったそうだ。自分でも筋金入りのバスケバカだと笑えてくる。辰也さんは1年先に小学校へ入学、お誘いがあったジュニアのクラブチームに入った。私も入りたかったけどそこは男子のみで、仕方なく別の女子クラブチームに入った。そこでも相変わらずちやほやされることに優越感を覚えながらバスケをしてたけど、そんな私に転機が訪れる。辰也さんのアメリカへの引っ越しだ。それまでずっと辰也さんにベッタリだった私は、辰也さん以外に仲の良い友達もおらず。私と辰也さんは特別なんだ。ほかの平凡なやつらとは違う。そう思って調子に乗って周りを見下していた私に優しくしてくれるチームメイトなんているはずがなかった。それでも、いつかまた辰也さんに会った時のためにと孤独に耐えてバスケを続けていた。練習やプライベートでは会話すらないが、試合ではエースとして頼ってもらえたし、エースとしての役割もこなしていた。はずだった。

気づいていた。だんだんと周りと自分の差が埋まっていくのを。大輝と出会ったのはその頃だ。たまたま見かけたストリートバスケのコートで大人を相手に自由にプレイする大輝の動きは、私が見てきたバスケとは全く違うモノに思えるほど独創的で、それでいて正確。こういう人を本当の天才と呼ぶんだと素直に思えた。どれだけ大輝のようなプレイをしようとしてみても、ガチガチにバスケの型にハマっていた私に出来るわけはなく。結局、いつか周りに追い抜かれていらない人間になるのが怖かった私は、突然クラブチームをやめた。

一切引き留められなかったのは、つまり、浮かれて舞い上がって勘違いしていたのは私一人だったということだろう。


「大好きなバスケだし、もちろん辞めたくなかったんですけど、プレッシャーに耐えられなかったんです。だから先輩はスゴいです」
「え…」


戸惑った声を漏らした先輩に、優しく微笑んだ。


「少し強いくらいだったクラブチームで才能もないのに調子に乗って、今まで自分が見下していた人たちに抜かれるなんて恥ずかしくてやってられない、って、私はチームを捨てたんです」


今考えたらチームよりプライドを取ったことの方が恥ずかしいんですけどね、と苦笑いで付け加えた。


「それに比べて先輩は、全中優勝常連校のココでレギュラーとして活躍して、言い方悪いけど年下に居場所奪われてもバスケを続けている。これはスゴい事ですよ!」
「そう…かな」
「そうですよ!…だから…」


昨日の事を思い出して、身が震える。


「ちょっと間がさしてあんなことをしてしまっても、仕方ないかな、って」
「桐原…」
「すいません、なんか長くなっちゃいましたけど要するに、キセキの世代なんかに負けずバスケを続けて欲しいって事です!私のように後悔して欲しくないんです」


先輩は涙を滲ませて何度もうわ言のように謝罪を繰り返していた。もう先輩に恐怖は感じなかった。


「あ、先輩」
「なんだ?」


先輩が落ち着いたところで、聞きたかったことを口にする。


「あの、ほんと申し訳ないんですけど…私がしたプレゼントって…?」
「あーそれは…」」


『突然すいません!私1年の桐原都遥って言うんですけど、さっきの試合のダブルクラッチ!いやその後の3Pもなかなか…とにかく輝いてました!』
『あ、ありがとう…』
『あれ、汗拭かないんですか?』
『タオル忘れてきてさ…もうびしょびしょ』
『じゃあ良かったらコレ、使って下さい!返さなくていいので』
『でも…』
『いいんです、熱い試合を見せて下さったお礼です!』


「あの時の!」


先輩の話を聞いて全てを思い出した。


「自分でもなんでそんなことにたどり着いたのか分かんないけど、なんか桐原まであいつらに取られたと思って」


また謝ろうとした先輩に、そのことは本当に忘れて下さいと言ったところで、扉がスパンッと音を立てて開いた。


「話は終わりだ」
「赤司くん!?」


首からタオルをかけた赤司くんが教官室へ入ってくる。


「都遥、監督が呼んでいる」
「あっはい、行きます!」


失礼します、と先輩に頭を下げてタタッと体育館に走り出した。


「村田先輩、本当にあなたなんですね」
「あ、あぁ…」
「部活後にお話があります」
「…分かった」




―――――


「都遥っち〜何もされなかったッスか?」
「ないない」
「どんな話したんだ?」
「昔の話を…ね」
「都遥っちの昔話オレも聞きたいッス!」
「…絶対言わない」
「先輩には言えてオレには言えない過去ってなんなんスか〜」


泣いて抱き着いてくる涼太を剥がしながら監督に話を聞きに行くと


「今日は部活終わる30分前にあがれ」
「…は?」


理由を尋ねてもはぐらかされた。意味が分からないけど、監督命令だし従うしかない。言われた通りに皆がまだ練習している間にあがらせてもらって、早めに帰宅した。


「それにしてもなんで私だけ?明日赤司くんに聞いてみるかー」



→あとがき


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