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「まず“今日も”ということはここ数日都遥の行動を把握していたということだ」


気持ち悪さに鳥肌がたった。涼太が無言で手を握って肩を抱き寄せた。


「加えて“都遥まで奪われて”から察すると、都遥の他に何かを奪ったことになるが、オレ達に恨みがあるならバスケ部員でレギュラーを奪ったと考えられる。それなら部活中に青峰の家に集まろうという話を聞いて公園で待ち伏せしていたのも頷ける」
「うん、奪われてはないけどね」
「なるほど、周りはオレ達が都遥っちを奪ったって思ってくれてるんスね」
「オイ、何喜んでんの」
「いやーある程度虫除け出来てるなって」
「虫除け?」
「都遥っちは分かんなくていっスよ」


へらへらと笑い出した涼太に大輝がチョップしたとこで、赤司くんが“話を戻すぞ”と言った。


「帝光のレギュラーの数なんて知れている。更に、都遥が覚えていないのなら今は二軍か三軍。つまり…」
「オレ達がレギュラーなる前にレギュラーで…」
「今は外されて二軍か三軍に落ちた奴…」
「「3年の村田先輩!!」」
「正解」


大輝と涼太が合わせて言った解答に、赤司くんが頷いた。


「村田先輩…?んー覚えてるような覚えてないような…」
「そいつが言ってたお前があげたモンってなんだったんだろうな」
「私も気になるし、明日学校で謝るついでに聞いてみるよ」
「「はぁ!?」」
「ぅえっな、なに?」
「お前こんな目に合ったのにそいつに自分から謝りに行くとかバカか!」
「ええっ」
「都遥っちお願いだからもっと危機感持って!」
「う、うん…?」
「絶対分かってないよこの子!」
「で、でも学校だよ?さすがに学校じゃ今日みたいなことはないでしょ…それに覚えてなかった私にも悪いところはあるわけだし…」


私の肩を掴んで「そういう問題じゃないッス…」と涙を流す涼太に戸惑っていると、赤司くんがため息をついた。


「会うことは許さない、と言いたいが、本当に村田先輩だと決定しているわけでもないし…10分だ」
「?」
「明日の始業式が終わってから部活が始まるまでの間の10分、体育教官室でのみ許す」


体育教官室とは、第4まである帝光の体育館や運動部の部室の鍵がある小さな職員室のようなところで、男子バスケ部一軍が使っている第1体育館の入り口近くにある。


「村田先輩にはオレが呼び出しをかけておく」
「わ、分かった…」


“良かったッスね”と笑った涼太に笑い返したところで、今まで全く会話に入って来なかった真ちゃんが涼太の首根っこを掴んだ。


「話も終わったことだしやるぞ、黄瀬」
「え、緑間っち、やだあああ」
「そうだ、宿題手伝いに来たんだった!」


ようやく本題を思い出し、急いでカバンを開けた。すると部屋の隅でまいう棒を食べていたあっくんがのし掛かってきた。


「むーハルちんなんか甘い匂いするねー」
「あっくんの鼻にはお菓子センサーでもついてんの!?」


あっくんはあぐらをかいた足の上に私を抱き抱えて頭や体に鼻をくっつけてスンスンと鼻を鳴らした。


「ちょっ紫原っち、都遥っちに近づきすぎっスよ!」
「お前はさっさと手を動かすのだよ!」
「わースマセンッス…!」


涼太にはーいと返事をしつつあっくんはやめなかったけど、最終的にカバンに行き着いて、ひょいっと掴みあげた。


「あ!」
「ここだーカバンから匂いするーこれは、チョコの匂い」
「あ、こら、勝手にカバン探るな!」


私がカバンを取ろうと立ち上がったらあっくんもスッと立ち上がって私がジャンプしても届かない位置で、カバンをごそごそして、ついにあの潰れてしまった包みを取り出した。


「なにこれ?」
「ダメ!」


あっくんが包みを目の前まで下げたと同時に、それを奪って体で隠した。私が出した大きな声に反応した皆の視線が集まる。


「あ、ごめん。なんでもないので皆さんはどうぞお勉強続けて下さいませ」


頭に疑問符が浮かんではいたが、皆それぞれ宿題に意識を戻した。気づかれなかった…セーーーフ…!私はあっくんの耳に顔を近づける。


「あっくんお願い、今見た包みのこと忘れて」
「えー」
「今度お菓子持ってくから」
「まかせて」


お菓子という単語を聞いてキリリと微笑んだあっくんとお互い親指を立てた。グッジョブ!だが、悪魔は存在していたのだ。


「ところで都遥、さっきの包みは何?見せてよ」
「…………」


恐る恐る振り返ると、赤司くんがニッコリ笑っていた。嗚呼、そうですよね。私みたいな下等な生物の考えなど赤司様にはお見通しですよね。私が観念してガックリと肩を落とすと、隣であっくんが


「あ〜あ、バレちゃった。けどオレが言った訳じゃないよね?」
「…ちゃんとお菓子作っていきます」
「わーい」


なんでこうもこの方々といると気苦労が絶えないのだろう…テッちゃん尊敬するよ…早く見せてとせがむ赤司くんにため息をついて、包みを持って立ち上がったのだった。


「「「チョコケーキ?」」」
「だったもの…です」


私が包みを持って勉強している机に行くと、なんだなんだと涼太と大輝が寄ってきた。


「もみ合ってる間に押し潰しちゃったみたいで…大輝、ごめんね」
「あ?オレに作ってきたのか?」
「うん」
「ええええええなんで青峰っちだけになんスか!?オレは!?」
「だって…」


壁にかかるカレンダーを指差した。


「今日、大輝の誕生日だよ」
「おーすっかり忘れてた」
「そういえば昨年そんな話をしたような…」


涼太が顎に手をあてながらカレンダーを見やる。


「また今度作りなおしてくるからさ、今年の分はちょっと遅れちゃうけど…」
「待った」


包みをカバンに戻そうした腕を大輝が掴んで包みを取った。


「これオレのなんだよな」
「ま…まぁ…」
「じゃあ食っていいよな」
「うん、って…え!?でもそれ潰れてるから作り直すって!」
「今日じゃなきゃ意味ねんだよ。それに見た目はワリーけど、味は一緒だろ!」
「あぁ!…さっきまで忘れてたくせに」


パラッと包みをほどいて指でちぎって口に放り込んで“うまっ”と言った大輝を見て涼太が一口…と手を伸ばしたが、大輝がパシンとはたき落とした。


「いたっ」
「これはオレのなんだよ!」
「青峰、オレにもくれないか」
「ほらよ」
「なんで赤司っちにはあげてるんスか!」
「そんな潰れたもの取り合ってケンカしないでよ…」


若干引き気味にやめるよう促すと涼太がぷー頬を膨らませながらズイッと顔を寄せた。


「だいたいなんで青峰っちの誕生日にだけケーキなんスか!オレの時にはなんもなかったのに」
「昔から大輝の誕生日はケーキだったし…てか涼太もう終わってたんだ…知らなかった、ごめん」
「知らな…かった…」


涼太の口から魂が抜けていったような気がした。が、きっと幻だ。


「あ、7月7日だから真ちゃんも終わってるよね、誕生日」
「何故知っている」
「前言ってたじゃん。誕生日の日におは朝は毎年七夕特集だからその日は占いの時間が遅れるから家を出るのが遅くなるって」
「そうだったか?」
「緑間っちは覚えてるのにオレは…」


未だ灰みたいになっている涼太は若干うっとうしい。


「涼太いつなの?」
「6月18日ッス!」


…急に元気になるのもうっとうしいな。


「てか私があげなくても、どうせファンの子がいっぱいくれるんでしょ?」
「それとこれとは別ッスよ!」
「あーさいですか」


めんどくさくなって適当に返事をして考える。確かに大輝だけ祝うってのも不公平だよね…


「じゃあさ、約束のあっくんの分と今日の大輝の分、それから終わっちゃった真ちゃんと涼太の分合わせてケーキ作って来るからさ、それを分けあうってことで手を打ちませんか!」


挙手してそう告げるとあっくんと涼太はワンホール食べたいと言ったけど、食べれないよりましかと納得してくれた。


「よし、決ーまり!」
「じゃないよ、都遥」
「はぇ?」
「僕の分、忘れてるよ」
「で、でも赤司くん誕生日12月じゃ…」
「ん?」
「よーしどうせならテッちゃんの分も合わせて6人分ってことでいーよねハハハハハ!」
「いいんですか」
「うんもう少食のテッちゃん一人増えたところで変わらないよ!」


この6人が満足出来る大きさのホールケーキ…材料どんだけいるんだろう…


「あ、大事なこと言ってないや」
「オレもッス」
「僕も言ってません」
「皆言ってないんじゃなーい?」
「じゃ全員でね、せーのっ」
「誕生日おめでとう!」


20120913 玄米


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