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「あ〜なんていうか…ちょっといろいろあったと言うか、何もなかったと言うか…それより、なんで涼太がこんなとこにいるの」
「言ったでしょ!今日は撮影があるから遅れるって!つか、それよりじゃない!どう見ても都遥っちの状況のがなんで!?って感じでしょ!何考えてんスか!!」
「ご、ごめんなさい…!」
「!」


いつもならなんてことないのに、涼太の怒鳴り声に無意識に肩がビクッと跳ね上がって受け身の態勢を取ろうとした。そんな反応を見て何かを感じ取ったのか、私が顔を庇うようにあげていた手をそっと包んでおろし、目線を合わせて優しく言葉をかけてくれた。


「誰に、されたんスか?」
「あ、ご…ごめん、黄瀬くんが怖いわけじゃないんだけど体が勝手に、いや、えと質問…だから、そのここに来る途中に…なんか」


パニック状態の私の口は文章にするととてつもなく意味不明な言葉を吐き続けて、喋りたい事があるのに上手く紡げない言葉に苛立ちを感じる。なのに涼太はそれを聞き返しもせず、ただ私が全て話しきるまでひたすら真剣にうん、うん、と相づちを打って聞いてくれた。


「…事情は分かったッス。とりあえず、青峰っちの家に行こう」
「やっダメ!」
「なんでッスか、こんな状態で家まで帰れないでしょ」
「だって、皆驚くだろうし…それにこんな汚い…のに人様のお家にあがれないよ…」


うつ向き、そう言ってずっと握ってくれてた手を離した。涼太の手のひらに私の汚れが薄く移っていて、謝ったが、その時には再び今離したはずの手が握られていた。


「もう、なんで都遥っちはいつも人のことが最優先なんスか、もっとわがままになって欲しいのに!」
「え?」
「とにかく!!」
「わっ」


体が宙に浮いて、足の痛みがなくなったと同時にお姫様抱っこされていた。涼太はニッと笑って


「どんな姿だろうと、都遥っちを汚いなんて思う奴はオレ達の中にはいないッスよ!」


なんて恥ずかしくなることを言われた。涼太の顔越しに太陽がキラキラ光って、とても眩しかった。


「それに、この前ストバスの時には出来なかったお姫様抱っこ出来たからオレは万々歳ッス」
「バカ」


力なく涼太のおでこをぺちっと叩いた。


「おまっ!?…黄瀬ぇぇええてめぇ都遥に何しやがったーーー!!」
「ええっオレじゃないっスよォ!!」


へーい、とだるそうな返事をしながらドアをあけた大輝は、間抜け面でフリーズした後、私をガバッと雑に奪い取って涼太を蹴り飛ばした。玄関でうずくまる涼太に罪悪感を感じながら落ちないように大輝の首に手を回す。大輝は涼太を放置して自室へと駆け込んで「ついに黄瀬の野郎がヤりやがった!!」と、私を見て唖然とする皆に向かって叫んだ。大輝が私をベッドにおろした頃に涼太が部屋に入ってきて蹴られたお腹をさすっていた。


「酷いッスよ青峰っち、違うって言ってるのに〜」
「…これはどういう事なのか、詳しく説明してもらうぞ」
「は、はいッス…!」


ドスの聞いた赤司くんの声が部屋に広がって、空気が固まった。


「まとめると、近道しようと公園に入った途端男が出てきて急に『今日も待ってて良かった』と言われた。『オレも桐原が好きだって気付いたんだ』とか訳の分からない事を叫び出して都遥っちの『誰ですか』発言に驚愕。『何故覚えてないんだ、プレゼントまでくれたのに』と言われるが思い出せず、逃げようとしたら草むらに引きずり込まれて暴行を受けたまたま近くに人が通って、手が緩んだ隙に逃げだした、と」


あれから、風呂行ってこい、とバスタオルを叩きつけた大輝の優しさに甘えてシャワー浴びさせてもらい、ジャージを貸してもらって更に手当てまでしてもらった。


「マジで心当たりねぇのか」
「うん…」


大輝の質問に答えながらあの男の言葉を振り返る。


「気が動転してて、あやふやだけど…『キセキの世代に桐原まで奪われてたまるか』とか言ってたような…」
「なんだそりゃ」
「イケメンで天才でモテるオレらに嫉妬した犯行スかね」
「お前が言うとなんかムカつくからとりあえず黙れ」
「ヒドッ」


泣きついてきた涼太に今日だけは優しくしてあげようと、よしよしと頭を撫でた。


「赤司、なんか分かったか」


シャーペンの頭を顎に当て考えていた赤司くんに、大輝が尋ねる。赤司くんはくるりとシャーペンを指で一回転させて、ノートに置いた。


「…絞り込めた」
「おぉ!」


こんな話だけで絞れるとか赤司くんの目の黒い内は悪いこと出来ないな。


「まぁそいつは都遥に好意を持って近寄ったんだろうから黄瀬の見解はハズレだ」
「だよな」
「だが」


二人の言葉が矢になって涼太に突き刺さる。だけど次に赤司くんからニヤリと笑って放たれた言葉に全員顔を赤司くんに向けた。


「方向性としては悪くないかもな」


 


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