08 [ 3/4 ]


「都遥!?何だよその格好!」
「びしょびしょじゃないスか!」
「ちょっと…………手を洗おうとしたら蛇口が壊れてこう、バーっと…」
「「ダウト」」
「…すいません」


とにかく戻るしかないと、恐る恐る控え室の扉を開けるとお馴染みのレギュラー陣が各々準備を進めていた。


「はい!これ使ってないッスから」
「ありがとう」


涼太が大きめのタオルを頭からふわっとかけて頭を拭いてくれる。


「涼太の匂いがする」
「都遥っち…!」


涼太が片手で口を押さえもう片方で私の肩を掴む。


「破壊力ヤバすぎッス…」
「?」


こいつはまたわけの分からんことを…。


「都遥ちーん、おいでー」


あっくんに呼ばれ近づくとジャージを渡された。


「オレ替え持ってきてたから貸したげるー」
「え、いいの?」
「うん、まだあるし」


むっくんが見せるように広げてたカバンを見ると大量に着替えが入っていた。まぁそこにはあまり深くつっこまないことにして、お礼を言って着替えてきたけど…。


「ちょっ都遥っち…!」
「今度は何?」
「萌え袖の威力が…!もう今すぐ結婚しよ!?毎日都遥っちの萌え袖見たい!」
「いやまず法律的に無理でしょ」


208pのそこそこ筋肉質な彼が着るジャージは上着だけでもワンピースとして着用出来る大きさで、あらゆるところがだるんだるんに余っていた。


「時間だ」


赤司くんの声を合図に皆が立ち上がる。


「緑間、皆を連れて先に行っていろ」
「あぁ」
「都遥、話がある。来い」
「う、ん」


ベンチで腕と足を組んで座る赤司くんと二人きりになる。
いつになく厳しい表情の赤司くんに目線も合わせられず、ただただ控え室の隅で突っ立っている。


「都遥」
「はっはいぃ!!」


大げさに肩が飛び上がる。


「怯えなくていい。オレの隣に座れ」
「は、はい…」


自分の隣にトンと手を置いた赤司くんからは少し距離を置いて座る。


「聞こえなかったか?と な り に す わ れ」
「ひぃぃすすすすいません!!」


今度はしっかりと隣に座る。
膝を掴んで目線を赤司くんとは逆の方に逸らし、口をぎゅっと閉じる。私何した!?なんか怒られることしたっけ!?スコア…はミスなくつけたし、ドリンク…も問題ないはずだし、何したんだ私ーーー!!


「はぁ…怒っているわけじゃない」
「ご、ごめ」
「謝れとも言ってない」
「う、すい」


ません、と言いかけて口を押さえる。赤司くんはもう一度ため息をついて私を抱き締めた。


「あ、赤司くんダメだよ。私まだ髪とか濡れてるし」
「謝るのはオレの方だ」


理解出来ずに体を離して赤司くんを見ると珍しく困ったような、傷ついたようなそんな表情だった。そしてまた私の頭を自分の胸にポスンと当てて抱き締めた。


「つらかっただろ、すまない」


頭を撫でる赤司くんの手が優しい。


「前も、こんなことあったね」
「そうだったか?」
「忘れてくれたんならいいや」
「灰崎の一件では大号泣だったな」
「…覚えてんじゃん!」


赤司くんは、ふっと微笑んだ。


「でも私大丈夫だよ、もう泣かないって決めたし」
「…そうか」
「変わるの。帝光のマネである以上甘い考えは捨てる」


トイレでの出来事を思い返して、強く言葉にする。“百戦百勝”を掲げているんだ、いちいち負けたチームになんか気を配ってられない。帝光の勝利のために、ただそのことだけを考えていく。


「オレは、都遥にはそのままでいてほしい」
「…え?」


つい数分前に固まった決意を簡単に揺るがされた気がした。


「いずれ今の関係は必ず崩れる。その時、必ず都遥は必要な存在になる。つらい時はオレたちを頼ればいい。だから、都遥は変わらずにそのままでいてほしい」


相変わらず頭のいい赤司くんの考えることなんて全く分からなかったけど、その赤司くんが真剣にそう言ってるんだ。きっと正しいんだろう、そう思った。

私が私のまま変わらない?どういうことだろう。


「試合が始まる。行くぞ」
「うん」


赤司くんはどんな未来を見て、どんな私を見て、あんな言い方をしたのか。今は分からないままでいいのかもしれない。そんな鈍感で単純な私のままで。黒く染まったモヤモヤは粉々に砕け散って、跡形も残らず消えた。



→あとがき


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -