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合宿も終わりだんだんと夏が近づいてきた。もうすぐ3年生にとっては最後の大会が始まるし、気合い入れなくちゃ!帰りのホームルームを聞き流し、一人で拳に力を込める。号令がかかって目にも止まらぬ早さで頭を下げ通学カバンをひっ掴んで教室から飛び出そうとしたら、まだ席についたままの赤司くんに腕を掴まれた。


「どこに行くんだ」
「どこって体育館に…」
「体育館で、何をするんだ」
「?もちろん部活のマネージメントを…」
「部活はないはずだが」
「え」
「寝ぼけているのか?今日からテスト一週間前だ」
「…完っ全に忘れてた…!」


だろうね、とため息を吐かれた。


「その様子だと、この後予定もなくなって暇だろ?」
「テストって分かったからには勉強するよー」
「なら好都合だ」







―――――


「で、赤司くん…この状況は?」
「青峰には都遥が、黄瀬には緑間、紫原には黒子が勉強を教えている」
「赤司くんは」
「勉強をしている」
「はい、それおかしくない!?」


訳も分からず再び席に着くよう言われた私が仕方なく座ると、続々とお馴染みのメンバーが教室に集まってきた。さつきに聞いたら定期テストの度に集まってやってるらしい。理由は、赤点を取ると出される大量の課題…そして再テスト。これを受けることになると全教科平均以上がとれるまでテストが繰り返され、その間学校側から問答無用で部活動禁止にされる。1年の中間テストで大輝は赤点を取り続け、3週間部活を休むはめになり、それからそんなことがないよういつも赤点スレスレの3人を皆で面倒見ているそうだ。なるほど、確かにここにいるメンツがこの時期からいないとなると大会にも支障が出るし納得。だけどさ、この中で一番成績がいい赤司くんが自分の勉強してるのおかしくない!?知っているぞ!上位50位までが張り出される掲示板の1位にいつも赤司くんが君臨していることを…!


「どう考えても赤司くんが教えるべきでしょ!しかも涼太自分で勉強もまぁオッケーとか言ってなかった!?」
「自分的にはドベじゃなきゃオッケーに入るんスよ〜」
「バカ決定!真ちゃんに徹底的に叩き込んでもらいな!」
「やだぁぁぁぁぁ!!!都遥っちがいい」
「早く解け!お前が終わらなければオレは帰れないのだよ!」
「うぅ…」


真ちゃん…可哀想に…。もし自分が教えた相手が赤点だった場合、連帯責任として教えた側にも赤司くんから地獄の練習ペナルティが課される、と聞いた。


「良かったー選手じゃなくて」
「そんな余裕でいいのかな」
「は?」
「青峰が赤点の場合は都遥にもペナルティだよ」
「なん…だと…!ち、ちなみに内容は…」
「なんだろうね」
「絶対赤点取らせない。(大輝が)死んでも取らせない」


悪魔のような笑み(私ビジョン)を浮かべた赤司くんが怖すぎて汗が吹き出た。ガクガク震える足に一生懸命力を込め、ハリセンを強く握った。教えたそばから抜け落ちていく知識。1つ覚えては1つ忘れるとはこれか。いくら答えあわせをしても私の赤ペンは全く円を描けない。あまりの絶望感に、現実逃避しないとやってられないと思い始めた。
あ、また間違えた。おもむろに立ち上がり、大輝の後ろでハリセンを構える。


「1問間違える毎にハリセン1フルスイングだから」
「お前正気か!?オレを殺す気かよ!」


そして、冒頭のセリフへと繋がる。


「どうしたらいいの…もう逆にいったい何を覚えてるの…!」


机に両手を着いて肩を落とす。


「まぁそう落ち込むなよ」
「誰のせいだ誰の!!!」
「やる気出ねぇんだよなーなんか賞品とかねぇのかよ」
「御自分の立場理解なさってます?」


バカもここまでこじらすと涙すら出てこない。でもそのバカがやる気になるのなら…ボールやバッシュ…はもう大量に持ってるからいらないだろうしな。んー…バスケ以外脳がないこのバカへの賞品…あ。


「…成績上位だったら私と一日デートってどう?」


真剣な顔で言ってはみたものの、我ながらないなこれは。


「…なーんてねー、用意出来る範囲なら賞品用意するから何がいいか言っ…」
「いい」


大輝がバスケ中に見せる鋭い視線を私に飛ばした。


「オレが成績良かったらデートするんだな?」
「まぁ…大輝がそれでいいんなら…」
「後でやっぱやめたはなしだぜ」
「え」
「絶対上位に入ってやる、お前はデートの服でも考えとけ!」


大輝はビシッとペンを私に向けると、さっきまでのやる気のなさは嘘みたいに机に向かい始めた。


「よく分かんないけど真剣に勉強始めたみたいだし、私も自分の勉強しようかな」


うおおおお!!と雄叫びをあげものすごいスピードで問題を解く大輝からそっと離れ、涼太の隣に座った。


「どうした桐原、青峰に教えないのか」
「もしかして青峰っちがレベル低すぎて諦めたんスか?」
「それが…賞品出すことになったら急にやる気出たみたいで」
「賞品?」
「うん、成績上位に入ったら私とデート」
「へーデートね、デー…………デートォォ!?」
「うん」


ボキィッと涼太がシャーペンをへし折った。


「オレもやる!オレも上位入ったらその賞品欲しい!いいッスよね!ね、都遥っち!?」
「う、うん…」
「っしゃぁあああ!!」


それはまるで、数分前の大輝を見てるようだった。


「桐原、助かった」
「いえいえ。助かったついでに緑間先生、ちょっと私にご教授願えませんでしょうか」
「…それがここに来た理由か。いいだろう」
「良かった。数学の問題なんだけどね」
「あぁ、これはひっかけだ。こっちの公式を当てはめると出来る」
「おぉーーー!!ほんとだ!」


こうして、めったに見られないであろう帝光バスケ部2年レギュラー陣の本格的な勉強が始まった。


「成績上位なら都遥とデート…ね」


机に頬杖をつき、教科書をパラパラめくりそうつぶやいた赤司くんの言葉は、教室を吹き抜けた爽やかな風に混ざって消えた。


 


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