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「どうして日本に?」
「父親がこっちに出張だって言うからついてきたんだ。都遥の家にも寄って行こうとは思ってたけど、まさかこんなところで会えるなんてね。運命かな?」
「キャーそうだとしたらどうしよ!」
「ははは」
今までずっと観客の歓声で埋まっていた広場がしんと静まりかえって、二人もコートを確認する。
「す…ごいな、これは…!アメリカでもこんな選手いないよ」
「ですよね!でも…赤司くんまで本気なんて珍しいな。輪になって話すなんて決勝までなかったのに…なんの指示だったんだろ」
「オレが本気にさせちゃった…かな?」
「辰也さんが?」
見上げると辰也さんは意味ありげに口角をあげた。
大輝のフォームレスシュート
涼太の技のコピー
真ちゃんのハーフコート3P
テっちゃんのミスディレクション
赤司くんの動きが視える眼
全員がポジションを変えるというだけですぐ対応出来ないのに、加えて急にとんでもない技が飛び出しまくる。会場にいる誰もが息を飲んでコートを見つめた。
「…都遥はこんな選手達と一緒にいるのか」
「はい。頼もしくて、皆とバスケに関われることが私の唯一の自慢です」
「唯一の自慢…」
「?…はい」
辰也さんが眉間にシワを寄せおうむ返しした言葉に違和感を覚えた。その正体が分かるのはもう少し先だ。
『ここで試合終了のブザーが鳴り響く!!結果は、ひゃ…112対32でチーム帝光の圧勝だー!!第2Q帝光は永平寺に1点も許していない!優勝したチーム帝光にはメダルが送られます!』
ファンファーレが高らかに鳴り響いて大会主催者が皆の首にメダルをかけた。
「都遥っちー!」
「涼太おつかれ、スゴかったねー!」
「見てたッスか!?オレのターンオーバーからのフェイダウェイジャンパー!」
「もちろん!完全にDF置き去りにしてたねー」
「えっへへへ」
コートから両手を広げ向かってきた涼太に自分も近寄ってハイタッチをした。
「キモイ笑いしてんじゃねぇよ黄瀬」
「大輝も見てたよ!」
「どうだった」
「サイッコー!!」
言葉と共に拳を突き出したら大輝が拳を合わせてくれた。そのまま大輝と涼太が合わせたかの如く、辰也さんにキュッと体を向けた。
「年上だかなんだか知らねーが」
「都遥っちに近づく奴は」
「「全力でぶっ潰す!!」」
「潰っ…!?」
「いいね、その気迫。まぁ選ぶのは都遥だから」
「「…」」
何を選ぶんだ私は…?
本人をさておき、険悪なムードの3人を見ていると辰也さんが手招きして私を呼んだ。
大輝と涼太の制止の声も聞かず軽快な足取りで辰也さんの前に立つ。
「都遥、そろそろ飛行機の時間だから帰らなくちゃいけないだ」
「えぇっもう?」
「向こうに着いたらまたメール送る。…それから、オレがこっちに来るまで誰のものにもならないでね?」
私の前髪をあげて、辰也さんはおでこにキスを落とした。
「じゃーね、都遥」
「あいつ今都遥に…!」
「うわあーーー!!都遥っち顔赤らめないでぇぇっ」
挨拶を返す余裕もなく、辰也さんは人混みに紛れていった。私は恥ずかしさと嬉しさで溶けてしまいそうだ。
「ふにゃぁ〜」
「都遥っちしっかりー!!」
涼太がガックンガックン肩を揺らすのを見たのを最後に、私は気を失った。
「ん…」
「都遥、気がついたか」
「赤司…くん?」
「調子はどうだ」
「ご迷惑をおかけしました。もうすっかり良くなりました」
「なら良かった。青峰、黄瀬、入っていいぞ」
「え?」
「うるさいから追い出してたんだ」
赤司くんにお礼を言うと、どういたしまして、とキレイに笑った。
目が覚めると合宿所のベッドの上で、赤司くんは隣に椅子を出して本を読んでいた。押し合うように部屋に入ってきた二人を見て笑いそうになる。
「都遥っち心配したッス〜」
「ごめんねー、まさか自分でもでこちゅーで気絶するとは思わなかったハハハ」
「笑い事じゃねー!お前いつもあんなんされてんのか」
「んーおでこは初めてかな?手とかほっぺにはよくされるよ。アメリカンだよねー」
「ねーっておまっ…ハァ。結局あいつなんなんだよ」
大輝が何か言おうとしたみたいだけど視線を反らし無造作に頭をかいて、また私に視線を戻した。
「氷室辰也さん、一つの上の学年でアメリカに住んでる。辰也さんもバスケやってて、私が大輝やさつきと出会う前はよく遊んでたんだけど、お父さんの仕事の都合で引っ越しちゃって…それからメールでやり取りしたり長期の休みになると遊んだりしてるの」
「なるほど。で、なんで都遥っちはアイツにベタ惚れなんスか!」
「だって〜紳士で落ち着いたしゃべり方で、でも心はホットなところとか〜優しくて王子様みたいなところとか〜、でも漂ってる大人な香りも魅力?みたいなーうはー自分で言っててにやけちゃうー!!」
片手で顔を覆ってもう片手で布団をバシバシ叩く。
「エロさならオレも負けないぜ」
「あんたのは下品」
キリッと目を細めた大輝にズバッと言ってやる。それを聞いた涼太が腹を抱えて笑い出して大輝がキレる。お前ら暴れるなら出てけよ。
「彼を好きな理由を聞いて安心した」
急に発した赤司くんに、二人が動きを止めた。
「どうやらその氷室さんに一番に近いのはオレみたいだからね。アメリカなんかにいる奴に、今目の前にいるオレが負けるわけがない」
「…」
はい、皆で一緒に!
赤司様まじ赤司様…!!
「まさかお前も…!?」
「嘘ッスよね、赤司っちお願い嘘って言って!」
大騒ぎする二人に赤司くんはニヤリと笑って、
「お前らがどう受けとるかは任せよう」
固まる二人。私は情報処理速度が追い付かずまた目眩がした。
合宿の疲れよりも、オフだった今日の方が疲れた気がするのはきっと気のせいなんだと信じている。
20120830 玄米