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「うーみだぁぁぁぁ!!」


両手を広げ、全身に潮風を浴びる。
この匂い、開放感、たまりませんなぁ!!


「桐原、バカンスに来たのではないのだよ」
「分かってるって!合宿ってだけでも楽しみすぎるのに海でなんて…帝光ばんざーーーい!!」
「…なんの宗教だ。全く、お前はほんと理解に苦しむ」
「いいじゃないか真ちゃん」
「その呼び方はやめろ!」
「へいへーい、じゃ練習頑張ってね真ちゃーん」
「また…!」


正直、今日が楽しみすぎて一睡も出来なかった。さつきからもらったスケジュール表には朝から晩までぎっちり仕事内容が書かれていて、全く海を満喫する暇もなさそうだ。


「え、一軍の御飯私一人で作るんですか…?」
「都遥ちゃんほんとごめん!マネの割り振りもっとちゃんと考えるべきだった!」


先輩マネージャーから伝えられた残酷な指令にサラサラと粉になって飛んでいきそうになる。


「だって、よく考えてみて。一軍の食事にさつきちゃんの料理を出すとどうなると思う?」
「…全員病院送りですね」
「でしょ?私達も手伝いたいけど自分達の担当で手が一杯で…その代わりに料理以外の仕事はさつきちゃんに任せといて大丈夫だから!洗濯やドリンク作りは軍関係ないからなんとかなると思うし、ね、だからお願い!じゃ!」
「あ、先輩!」


都遥ちゃんはキッチンを先に案内するから、と何故か私だけ体育館からどんどん離された時から違和感は感じていた。キッチンに着いたら器具や調味料、献立の説明をされ今に至る。食べ盛りの中学生、しかも大事な一軍選手のご飯を私一人?失敗したら、確実に殺られる…!正直、さつきには一回病院送りにされてるし…もうやるしかない!私はガタガタと震える手で献立を手に取った。


「ハァ…ハァ、なんとか…間に合った…!」


額の汗を拭いながら、目の前に並べた料理を見渡す。


「ハルちーん、ご飯出来てるー?」
「あっくん、一番乗りだね。練習は?」
「今終わったとこ。すぐ皆来ると思うよー」
「お疲れさまー。じゃあセルフサービスってことになってるから好きなだけよそって席ついちゃって!」
「はーい」


来てすぐに作り始めたのに練習終了ギリギリに完成ってことは、皆が食べ終えた食器片付けたらまたすぐ作らないといけないな…。果たして私は合宿中バスケを見れるのだろうか。


「あー疲れたッスー」
「メシー」


ガヤガヤと騒がしくなって入口を見ると、一軍陣が続々と入ってくる。全員食事の準備が整い一斉に箸をつける。…とりあえず苦しみ出す人はいないようで一安心。私も食べようと、よそってキッチンの奥にある台におぼんを置いた。


「都遥さん?」
「ん、テっちゃん。どしたの?」
「先にトイレに行っていたので少し遅れました。都遥さん、ここで一人で食べるんですか?」
「うん、さすがにマネが一軍の選手に肩並べてご飯はねー恐れ多くて」
「…そんなことないと思いますけど。僕がそこで一緒に食べたら邪魔ですか?」
「そんなわけないじゃん!」
「じゃあ、失礼します」
「え、本当に!?皆テーブルで食べてるのに…いいの?こんなキッチンの端にある材料置きの台で」
「場所は関係ないです。僕が都遥さんと食べたいから、いいんです」
「…テっちゃんってナチュラルたらしだよね」
「ナチュ…?」
「キセキで唯一の癒しって話」
「はぁ…」


テっちゃんはおぼんを持ってきて私の隣に置いた。


「ご飯とても美味しいです。桃井さんは体育館にいたから都遥さん一人で作ったんですよね。ありがとうございます」
「ほんと?良かったー…ちょっと心配だったんだ。一度にこんな量を作ったことなかったし」
「本当に美味しいです。晩御飯も楽しみにしてます」
「そう言ってくれるとやる気でるよ!ありがとう!」
「都遥そんなとこでメシ食ってんのか…ってテツ!?お前来ねぇと思ったら都遥と食ってたのかよ!」
「すいません」


早くもおかわりに来た大輝が奥にいた私達を覗き込んでいる。


「私が一人で食べるって言ったら一緒に食べようって言ってくれたの」
「…ふーん。じゃ俺もそこで食うわ」
「はっ!?なんで!?」
「なになにー?」
「騒々しいのだよ。メシくらい静かに静かに食えんのか」
「あー都遥っちが黒子っちと浮気してる!」
「黄瀬、都遥と付き合ってるわけじゃないだろ」


わらわらとおかわりに来たキセキの皆さんが大輝に俺こっちで食うわと言われ何を考えたのか、俺も俺もと狭いキッチンに次々に流れてきた。


「皆ここで食べるの!?」


テっちゃんと二人で丁度いいくらいだった台にデカイ男が並んで肩をぶつけながら箸を進める。


「ちょっ緑間っちさっきから肘当たりすぎ!左利きなんスから気をつけてくださいよ!」
「黄瀬が左手で食べればすむのだよ」
「いや無理ッスから!」
「だからテーブルで食べなって言ったのに…」
「都遥ちんそれちょーだい」
「あ!おかわりあるんだから入れてきなよ」
「んー都遥ちんのが食べたかったの」
「あっ…くん、そんな見つめられると照れます」
「紫原は午後のフットワーク2倍したいのか?」
「赤ちん怖ー」


騒がしいし狭いしで全然食事に集中出来なかったのに、楽しくてずっとこの時間が続けばいいと思った。

食べ終わってキッチンを出ていく皆の背中を寂しく思いながら眺めていたら最後尾にいた赤司くんが振り返る。


「都遥、次からは僕たちのテーブルにおいで」
「…うん!」


憂鬱だった晩御飯の支度が楽しくて仕方なかった。




20120829 玄米


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