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尻餅をついたままの私に目線を合わせるようにしゃがんで、赤司くんはそのキレイな親指を私の唇に這わせた。


「血が出ている」


グッと拭われて小さな痛みが走った。


「立てるか?」
「うん」


腕を握って立たせてくれた赤司くんが私の体をケガしてないかチェックしてくれて、大丈夫だよ。と呟いたら、優しく、大事なものを包むみたいにそっと抱き締めて頭を撫でてくれた。


「すまない、怖い思いをさせたな」
「う、うぅ…赤司くっ」


予想外の行動に戸惑ったけど撫でてくれる手に凄く安心して、まるで溜まってた水が溢れるみたいに次々と涙がこぼれた。怖かったのもあるけど


「悔しい…」
「?」
「あんなやつが皆が血ヘドはくほど頑張っても手が届かないスタメンだったなんて…悔しいよ…涼太も、やっと本気になれるモノが見つかったのにあんなやつに…!」
「自分のことはいいのか?」
「っ…へ?」


赤司くんが抱き締めた腕を離して、涙を拭ってくれる。


「殴られたことはいいのか?」
「…良くはないけど、ほっといても治るし、いいや」


若干忘れてた、と付け加えると赤司くんはクスクスと笑った。


「あっやばっごめん!」
「どうした?」
「ジャケット!涙の後出来てる…!ほんとごめんっ明日洗って返す!」
「あぁ、別にこれくらい構わない」
「しみになったら赤司くんファンに殺される!」
「…そんなのがいるのか」
「えっ、赤司くん気付いてなかったの!?あんだけ見られてるのに」
「俺は自分が興味のない奴はどうでもいい」
「さ、さすが赤司様…」
「様…?」
「ああ何でもないです!」


少し強引に赤司くんに上着を脱がせてシワにならないように畳んでカバンにしまう。そろそろ皆が帰ってくるころだ。


「桐原、今日は帰っていいぞ」
「え、なんで…」
「傷も出来ているし、休んだ方がいんじゃないか?」
「家に帰っても部活のこと気になると思うし…それに傷はほんとたいしたことないから、大丈夫!」
「ならいいが…無理するんじゃないぞ」


笑顔で頭にポンポンと手を置かれて、思わず見とれてしまった。


「なんだ?」
「ねぇ、赤司くんって皆にこんな優しいの?」
「?さっきも言ったが俺は興味ない奴には一切関与しない」
「ふーん…そんな風に優しくされたら勘違いしそうになるな…」
「しても構わないよ」
「そっかー………っえ?」


聞こえないようにポソリと言ったはずが赤司くんの耳にはきっちり届いていたようです。


「都遥、先に体育館に行っててくれ」
「はーい…」


部室のドアに手をかけ、気づいた。


「都遥!?」
「ダメか?皆そう呼んでるようだし便乗してみたんだが」
「いや、いいんだけどさ…」
「着替えるぞ」
「わあああああ!!」


慌てて外に出てドアをパタンと閉めた。あああ赤司くんってあんなタイプだったっけ!?


「あ、皆戻ってきてる!」


部室棟から、皆が体育館に入ろうとしているのが見えて走り出した。





―――――


「灰崎が強制退部!?しかも都遥を殴った!?」
「ちょっ、大輝声大きい!」


唇のケガに気づいた大輝にしつこく理由を聞かれ、秘密にするという条件で正直に話したら体育館中に響き渡る声で広められた。もちろん、大輝の叫びは一番聞かれたくなかったあいつにも聞こえていたわけで。


「都遥っちぃぃぃぃいいい!!!!殴られたってマジなんスか!?あぁ、可愛い唇に傷が…!なんでそんな展開になったんスか!?他はケガしてないっスか!?大丈夫っスか!?痛くないッスか!?血出てるのに痛くないわけないッスよね!?ちょっと!頬腫れてんじゃないスか!!冷やしたんスか!?なんでシップとか貼ってないんスか!!唇はちゃんと消毒したんスか!?まさかしてないんスか!?じゃあ俺が今すぐ消毒して…」
「スかスかスかスかうるさいわぁぁぁぁ!!そして何どさくさに紛れてキスしようとしてるんだ貴様はぁ!」
「キスじゃないッス!消毒ッス!」
「どっちでもいいわ!」


全力でダッシュしてきて数回私の周りをグルグル回ったあと、私の頬に両手をあて顔を近づけてきた涼太の肩を全力で押す。てか190近い男の全力疾走がこんなに怖いのかと思い知らされた。あっくんとかいったいどうなるんだ。


「黄瀬てめぇ何してんだしばくぞ!」
「うぐっ!青峰っち、また邪魔するんスか!?」
「あぁん?てめぇは床とキスしてろ!」
「ふげぇ!!」


大輝は涼太の首根っこを掴んで私からひっぺがし、そのまま床に叩きつけた。急にかけられてた力がなくなってバランスを崩した私を抱き止める。


「つかお前本当に大丈夫なのか?」
「うん、全然痛くないし。なんか泣いたらスッキリした」
「…泣いたのか」
「あ、違うよ!?灰崎くんのせいでじゃないよ!?いやそうだけど…違うから!とにかく大丈夫だから怒んないで」
「…はぁ、都遥に怒ってるわけじゃねーよ…バーカ」
「お、おぅ…?」
「…お前の事心配したんだろ、そんくらい言わなくても察しろよ」
「すいません…ありがとう」


そっぽ向いた大輝の横顔はいつもの表情に戻ってて、安心する。


「ああ!俺を差し置いてイチャイチャするなんて!」
「してないし!!」
「してねぇし!!」


また抱き着いてきた涼太の重みにうっ…と小さく声をもらす。仕方ない…最終手段だ。


「涼太いいの?」
「何がッスか」
「さっき灰崎くんも倒すって決めたのに」
「あ。いやでもあれはこの状況じゃ無効でしょ!?」
「自分で決めたのに破るの?黄瀬くん」
「都遥っちお願い、黄瀬くん呼びはやめて、マジやめて!」
「おいお前ら、ふざけてないでさっさと練習始めるぞ」
「あれキャプテン!?今日は委員会で遅れるんじゃ…てかいつから!?」
「仕方ない…最終手段だ。から」
「それ私の心の声!」
「なんの話ッスか?」
「いいから早くしろ」
「ひぃっスマセンッス!!都遥っちこの話はまた後で!」


練習着に着替えた赤司くんはすっかりアップも終わらせたようで、部員に全体練習のメニューの指示を出した。


「そうだ都遥。黄瀬が君と付き合うための青峰と灰崎を倒すという条件、灰崎の代わりを俺が務めてやってもいいよ。もっとも、そうなると一生黄瀬の夢は叶わないかもしれないが」
「な…なんでそれ知ってるの!?」
「なんでだろうな?」
「えええ!?」


不敵な笑みを浮かべ、練習に混ざる赤司くんを、ただ立ち尽くして見つめるしかなかった。





→あとがき


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