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全体練習後の個人練習の時間、一軍が使う体育館には、ピリピリとした空気が漂っていた。


「あ゛あ゛?今なんつったリョータァ…?」
「だからースタメンの座を賭けて勝負してくれっつったんスよ」
「ついこないだ入った奴が寝ぼけてんじゃねーよ。そもそも練習中だってオレに勝てねーのにどーゆーつもりだ?」
「だから今勝つつもりってことスよ。他の4人ならまだしも…ショウゴ君ぐらいならそろそろいけるっしょ」
「はっナメられたもんだぜオレも。練習なんてテキトーに流してるに決まってんだろ。
いいぜ…じゃあちょっと本気で相手してやるよ」
「あいつ何考えてんの!?いいの?赤司くん」
「許す、やらせてみよう」
「ちょっとちょっと…」


結果は、涼太の惨敗。涼太はコートに手をついたたまま、立ち上がれない。


「あーらら」
「あっくん…ずいぶん軽いね」


KUMAと書かれたティーシャツを着たあっくんこと紫原くんは興味なさげにお菓子をポケットから取り出した。そのお菓子を没収する。


「まぁさすがに…まだ早すぎたな」
「そう思うんなら止めてよ大輝」


頭をボリボリかきながら自主練を再開する大輝にそう言うと、お前も分かってんだろ、と一言。何も言い返せなかった私に真ちゃんの「成長速度は確かに驚異的だが…」との分析が聞こえた。隣にいた赤司くんはただざっと涼太を見ている。


「祥吾くーん、練習終わったあ?」
「おーワリワリ、今終わったわ」


体育館の入口から聞こえたこの場にふわしくない甘ったるい声に皆の視線が集まった。


「え?あれって…」
「最近出来た黄瀬の彼女じゃ…?」
「え、黄瀬って桐原と付き合ってんじゃねーの?」
「あれはただのスキンシップだろ」


部員達の噂は聞かなかったことにした。


「あれ?涼太君?」
「あーアイツなんか俺に勝負挑んできて負けたトコ」
「マジ?うわーなんかダサー」
「つーわけだ。じゃーな、リョウタ君」


涼太の背にそう笑いかけて、灰崎くんはその女と消えた。



「俺…ちょっと顔洗ってくるッス…」


フラフラと立ち上がり体育館横の水道に向かう涼太を、赤司くんの許しをもらって追いかけた。










03:しても構わないよ





 「ほい、涼太」
「都遥っち…」


蛇口を上に向けて頭から水をかぶっていた涼太が顔をあげたのに合わせてタオルを渡す。


「俺…かっこわるいッスね。青峰っち倒すとか言っといて、ショウゴ君相手にすらこんなザマで」
「でも、いつか強くなって倒すんでしょ?大輝倒しがてら灰崎くんもサクッと倒しちゃったらいいじゃん」


ね!と笑うと涼太は苦笑いを浮かべた。


「倒しがてらって、簡単に言ってくれちゃって…ま、青峰っち倒せるならショウゴ君なんか余裕で倒せるくらい強いってことだし、いいね。二人ともやってやるっスよ!」
「よし、そうこなくちゃ!…それより、涼太…彼女いたんだね」
「は?あ…いや、あれはあの女が勝手に俺に付きまとって…」
「酷い…私の事は遊びだったのね…!」
「都遥っち!?」
「もう黄瀬くん呼びに戻そう」
「そんなぁっ!嫌ッス!てかこんなに愛情表現してるのに伝わってないんスか!?」
「スキンシップなんでしょ?」
「違うッスよー!じゃあ俺が本気になったらどうなるか分からせてやるッス」
「うわっ!涼太ごめん、冗談!冗談だから力込めて抱き締めるのやめてぇ!」
「いーやっまだまだこんなもんじゃないっス、全部伝わるまで離さないッスよ!」
「ちょ、ギャーーー!!」





―――――


「なぁ〜都遥〜、今からどっか遊びに行かね?」
「今からって…部活は!」
「サボるに決まってんだろ、楽しませてやるからよ」
「ちょっ、やっ耳元で喋らないでよ気持ち悪い!それにこの前来てた子と付き合ってるんでしょ!」
「あんな奴遊びだ、次の日捨てた。今はお前一筋だから」
「…サイテー」


放課後、皆がランニングに行った間に部室でタオルやドリンクを用意していると灰崎くんが顔を見せ、肩に腕を回してきた。涼太と1on1をした次の日からやたら絡んでくる。


「おいおい連れねぇなぁ…お前だってどうせ男目当てでマネやってんだろ?」
「はぁっ!?」
「聞き捨てならないな」
「赤司…!」
「!?」


反論しようとしたら部室のドアが開いて、見ると制服のネクタイをゆるめながらスポーツバッグから練習着を取り出す赤司くんがいた。


「桐原は俺が入部させたんだ。俺がわざわざ役に立たない奴を入れると思うか?それと、部内で問題を起こすのは許さない」
「問題?何のことだよ。俺が都遥と遊びに行こーつってるだけだろ、なァ?」
「ひっつくな、離れろ!」
「…チッ、ブスのくせに生意気なんだよ!!」
「っ…!」


顔を近づけてきた灰崎くんを離そうとグイグイ押しやったのが気に入らなかったのか、急につき離され、頬に鈍い痛みを感じて床に倒れ込んだ。


「調子乗んな!お前みてぇのが誘われただけありがたいと思え!」
「灰崎」
「あ゙あ゙!?」
「バスケ部を辞めろ」
「赤司テメェ…今なんつった!?」
「赤司くん!」


標的を私から赤司くんに変えた灰崎くんが勢いよく赤司くんの胸ぐらを掴んだ。痛む体を起こしながら叫んだが、赤司くんは全く怯まず、眉一つ動かさない。


「バスケ部をやめろ、これは命令だ。むしろこれはお前を気づかってのことだ。素行は決してほめられたものではないが、今まで帝光の勝利に貢献してきた。だが、言ったはずだ。部内での問題は許さない、と」


赤司くんの突き刺すような険しい表情に全身に鳥肌が立って背中を一筋汗が流れた。


「もう一つ、お前は黄瀬には勝てない。近い将来スタメンの座を奪われるだろう。そうなればプライドの高いお前は結局いなくなる。早いか遅いか、どちらにせよ結果は変わらない」
「テメェ…!チッ」


灰崎くんは荒々しくドアを開け放って出ていった。ふぅ、と息を吐いた赤司くんに肩がすくむ。

赤司くん…あなたはいったい何者なの…?



 


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