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「珍しいお客さんだ。こんな早く学校来るなんて…降るのは槍ですか、それとも雪ですか、大輝くん」
「うっせ」
「で、どうしたの?」
「や、最近話してねーしたまにはって思ったんだけどよ…お前ら仲良かったのか?」
「んー私が一方的に赤司くんにちょっかいかけてる感じ」
「んだそりゃ」


大輝は笑いながら私の隣の席のイスを引いてドカッと座った。赤司くんは私達を交互に見て、何か探るような目をしている。


「嫌々話してる訳じゃない」
「それは良かったー」
「お前達はどういう関係だ?」
「腐れ縁、かな。小学校が一緒でね、同級生でバスケ話せるの大輝とさつきくらいだったからついつい喋る機会多くなっちゃって。気がついたら仲良く中学まで一緒になってた」


ねー?と同意を求めるように大輝に言うと「お前友達いねーもんな」と鼻で笑われた。…このガングロクロスケ…!


「だーからバスケやれっつったろ?したらいくらでも語れるじゃねぇか」
「前も言ったでしょ、しない」
「…じゃあ、マネは」


少しだけ不機嫌そうに大輝が聞いてくる。皆はデカイし黒いしすぐキレるから怖いなんて言うけど、口が悪いだけで、接してみれば結構純粋で単純なただのバスケバカなんだよなこれが。


「もー…このやりとり入学してから何回やったと思ってんの?マネもやらない!」
「だから何でだよ!」
「だから毎回説明してるでしょ!」
「気になるな」
「「え?」」


大輝とおでこがつきそうな位置で睨み合ってると横から落ち着いた声が割って入った。


「俺も桐原はバスケに関わるべきだと思うが。話を聞く限りではバスケをよく知っているようだし、試合もただ見学しているだけではないようだ。正直、男子バスケ部のマネージャーを頼みたいと考えたよ」
「だよな!」
「黙れ」
「なんでだよ!」


頬を引っ張ってきた大輝の頬も引っ張り返してやりながら、赤司くんに返答する。


「頭いい赤司くんになら分かってもらえると思うんだけど」
「おい、俺がバカだってか」
「知識を持ってるのと、知識を生かせるのは違うでしょ?」
「無視!?」
「…一理あるが…」


不貞腐れている大輝は空気だと思うことにした。赤司くんは納得しきらない様子だったけど大輝とは違って私が伝えたかった事を理解はしてくれたみたいだ。


「まぁ、そういう訳で理想があっても体現出来ないし、理想を的確に言葉に変換して伝える脳みそも持っていないのです。だから私は見てるだけでいいの」


頬杖をつき、窓からグラウンドを覗くとサッカー部が朝練しているのが見えた。お、あの11番上手くなったなぁ。


「…まぁやりたくないのなら無理に勧めないが」
「はぁ!?赤司まで何言ってんだよ!絶対もったいねぇよ、こいつそこらの体育教師よかバスケ詳しいんだぜ?それに選手の微妙な変化とかそういうの鋭いし…」
「ちょ、大輝ハードルあげるのやめて」
「本当のことだろーが」
「いやいやいやいやいや…」


もうやめろとばかりに両手をあたふたさせて横目で赤司くんを見ると、興味深いね…と口角をあげた。


「あああああ赤司くん、私本当にそんなハイスペックな人間じゃないから!…じゃあ大輝にも分かりやすいように説明してみよう」
「おう、してみろよ」


されても俺は諦めねーと付け加え、偉そうに足を組みながら小指で耳につっこんだ。


「あのね、私が料理教室やってるとするでしょ。大輝は生徒として教室に来る。私は細かく分量とか手順を覚えててそれを伝えるために実際に作りますとお手本で料理したら超不味いものが完成。そんな料理教室二度と行かないでしょ?」


ほぼ息継ぎもなしに捲し立てると大輝はちょっと考えるような素振りをする。


「まぁ…行かねぇな」
「でしょ?そういうこと!」
「それとお前がマネやるのになんの関係があるんだよ」
「…はい?」


今までの熱弁は何だったのか、と肩を落とす。赤司くんはどうやら頭を抱えてもうこいつダメだ状態なようです。。


「…赤司くん、バトンタッチ」
「断る」
「…わけわかんねー」
「だーかーらー私は皆の役に立てないの!アドバイス出来ないの!」
「…なんかよく分かんねぇけど、お前マネージャーに求めすぎなんじゃねーの?」
「?」
「監督やコーチじゃねんだからアドバイスなんか出来なくてもいいだろ。ドリンク作ったりとか…そういうのが本来のマネージャーの仕事だろ?」
「それもそうか…」
「赤司くん!?」


赤司くんの肯定的な表情に焦りが生まれる。こ、このままマネージャーになるなんて流れは避けたい!


「ねぇもう大輝ホントに…」
「それに。その分量や手順が正しいならそれを元にして俺が見た目も味も最高にいいもん作りゃいいだけの話だろ?」


あまりにも予想外の言葉で、ポカンと口をあけてしまった。赤司くんに顔を向けると、同じ感情を抱いていたみたいでバッチリ目があった。そのままどちらからともなく大輝に視線をやると、大輝は頭にハテナを浮かべながら、フッと耳に突っ込んでいた小指を抜いて息をかけた。赤司くんに視線を戻すとまた目があって、いろいろ考えすぎてた自分がおかしくなって笑いが込み上げた。


「あははっ、確かにそうだよね!あんた天才だもんね!言ったら出来ちゃうよねぇ」
「な、なんだよ!」
「青峰の言うことにも一理あるな」


辺りに気を配ればだいぶ時間が経っていたようで、壁の時計は授業開始5分前を指していた。


「俺そろそろ戻るわ」
「おー、寝るんじゃないぞ」
「るせー!…つか都遥、お前真剣に考えとけよな」
「はて?なんのことでしょう?」
「てめぇっ…」
「いだだだだだだだっギブギブ!冗談だから!」


ヘッドロックされた腕をバシバシ叩く。去り際、じゃーなと頭をぐしゃぐしゃに掻き回された大きな手にときめいたけど、そんなのは絶対言ってやんない。


「大輝」
「あ?」
「ありがとね」
「…おう」
「で?」


ボーっと大輝の背中を見ていたが、ハッとする。ひきつった笑顔を浮かべぎこちなく赤司くんを見ると笑っていた。それはもう満面の笑みで。


「入るだろ?」
「いったい…何の話で…」
「わざわざ言わせるのか?」
「もちろん男子バスケ部のマネに決まってますよねハハ」
「さすが。分かっているなら話が早い、実は今偶然入部届けを持っている」
「え」
「お前が青峰と話している間に必要事項は記入した。今日中に監督に提出しておく。遠慮するな、俺の推薦だ。今日から…はさすがに準備も出来ていないだろうから明日からだな、持ち物はジャージさえあればいい。後は明日他のマネージャーに直接聞いてくれ、以上」
「え……………………え?」


いろいろ突然すぎて、もう頭がパンクしそうであります。赤司くんはくるりと体を半回転させ前を向き、授業の準備を始めた。私の髪はまだ大輝に乱されたままで、直さなきゃと思う反面衝撃…いやむしろ笑劇で、体が上手く動かない。クラスメートが登校してきて、大輝がいた席に座る。


「あれ、あったかい…もしかして都遥の旦那が来てたのかぁ〜?」
「ダンナチガウ」
「またまた〜超仲良いくせにっこのこの!…てかツッこんでいい?」
「ドウゾ」
「何その髪型」
「イメチェンデス」
「…」


そんなふざけた会話を聞いて、赤司くんが密かに眉を寄せていたなんて、誰も気づいていなかった。



20120826 玄米


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