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赤司くんは超強豪である我が帝光バスケ部のレギュラーで、頭脳明晰、容姿端麗、おまけに年齢に相応しくない大人っぽい対応と冷静な性格、そんな訳で大変おモテになる。1年の時クラスが同じだった黄瀬くんの人気も相当だったけど、赤司くんも負けてないと思う。違うのは、黄瀬くんのファンはなんていうか…黄色い…いや、髪が黄色だからとかじゃなくて。キャピキャピキャッキャうふふしてて…激しい。黄瀬くんを見かける度に歓声をあげ、群がり、サインを要求、写メの嵐を巻き起こす。黄瀬くんは休憩時間、毎度のようにどこかに呼び出され、毎度聞く度に告白だったという。そんな積極的な黄瀬くんのファンとは対照的に、赤司くんのファンは静かだ。話しかけないし、近づかないし、歓声をあげたりもしない。その代わり遠くで見つめているのだ。扉のすきまからチラリ、窓ガラス越しにチラリ。教室の隅に集まったグループも頬を染めながら赤司くんを見ては小さく感嘆の声をもらしている。いつも追いかけ回してひっついてる黄瀬くんファンと、遠巻きに見つめては息を溢し悶えている赤司くんファン。二人の性格が丸ままファンに当てはまりそうな気がするのは私だけだろうか。

一番に登校する私がいつものように職員室に教室の鍵を取りに行くと目当ての物はなく、教室の扉を開けると赤司くんが席についていた。


「おはよ、赤司くんだったんだ。早いね」
「おはよう、急に朝練が中止になってね。生活リズムを変えるのも良くないからそのまま登校したんだ」
「へぇ、じゃあいつもこんな早いんだ。大変だねー」
「そう感じたことはないな。勝利する為の絶対条件の一つだ」


当然だろうと訴える赤司くんの顔は少し怖くて、ファンの子達が近づかないのも少しだけ分かった気がする。そんな10分ほど前の出来事。


「あ゛ーだめだーあづいー…ほんとなんで汗かいてないの。女子の私でもびっしょりなのに。もしかして汗腺ないの?」
「何故そうなる」


勝手に朝の回想を脳内で繰り広げていた間も、赤司くんは美しい態勢を保ちこちらを見ている。そんな彼を机に突っ伏しながら上目遣いで見返すと、じわりと首筋に汗が伝った。赤司くんは汗粒一つないのに。髪もさらっさらなのに。…なんで私は汗びっしょりなんだ。


「バスケ中も赤司くんだけなんかクールだよね」
「見たことがあるのか?」
「もちろん、練習は邪魔になるかなと思ってあんまりだけど、練習試合とか大会は欠かさずに見てるよ」
「…へぇ。まぁ、練習も桐原一人増えたところで変わらないが」
「それはそうか」


意外だったのか、赤司くんは一瞬大きく目を見開いた。
…あれが邪気眼ってやつか。


「何か言ったか」
「イエ、ナニモ」


バスケは昔から好きだった。バッシュのスキール音、大きなボールが床をつく心地いい振動、高いゴールにボールを吸い込ませるため産み出される様々なシュート。バスケをやっている中学生で知らない人はいないほど有名な帝光バスケ部は、練習でも試合でもなんせギャラリーが多い。春に黄瀬くんがバスケ部に入ってからなんてもう、もう本当にスキマもないぐらいで…バスケを見たい人には結構つらい状況だ。偵察に来る他校の生徒や取材クルー、OBらしきおじさん達も珍しくない。だから真剣にバスケを見に来てる人もいるんだけど、それよりも圧倒的にキャーキャー騒ぐだけのファンが大半を占めているのは何故か。イケメンばっかだからだよ!


「汗と言えばほら、この前の長宮西中の試合とか、床のどこ踏んでも滑るくらい皆汗凄かったのに赤司くんは涼しい顔でボール回しててさ」
「俺は最終Qのみの出場だったし、あれは二軍メインの試合で相手は特に強くもなかった」
「でも長宮西っていくつか記録残してるし強いと思うけど…。じゃあ4つ前の照英は!?文句なしの強豪じゃない。…でもあの時帝光側が全員スタメンで結構点差あったし…いや点差の問題じゃないか。ちなみに、あの試合どうだった?」
「実力は言うまでもないが…精神力は認めないこともない」
「あぁ、木吉さんか…確かに鉄心って呼ばれるだけはあるよね。味方全員諦めてたのに唯一最後まで全力でやってて…それにあんな大きいPG初めて見た!手も大きいから後出しの権利なんて上手いこと言うよね。誰が考えたんだろ?でも最後のは鳥肌たったな!ダンク態勢からのパス!木吉さん、バスケ嫌いになってなきゃいいけど…」
「…詳しいんだな」
「あ、」


自分から投げ掛けた赤司くんの汗腺の有無の話題をほったらかして私はいったい何を…!


「ごめん!関係ないヤツが何勝手に語ってんだって感じだよね。どうもバスケになると熱くなっちゃって」
「…………」
「赤司くん?」


苦笑いを浮かべながら謝ると、赤司くんは口に軽く握った拳をあて何か考え込んでいるようだった。反応がない赤司くんを待ちつつ、私も考えを巡らせる。
こんなに熱くバスケを語ったのはいつぶりだろう。周りはファッションや化粧品、黄瀬くんや芸能人や黄瀬くんの話ばっかりで、私はあんまりついていけない。入学してすぐのころ、バスケ部ってカッコイイ人多いよねという話題で皆が賛同して大盛りあがりしたことがあった。ここぞとばかりにバスケを語ったら話したいのはそういうのじゃないとバッサリ切られて撃沈。それ以来バスケを語るのはある友達の前だけの限定になった。だけどそいつは休みもなく毎日バスケに明け暮れ、一年で一軍スタメン抜擢という異例の事態になってからは廊下ですれ違った時に会話をする程度だ。


「…頑張ってんのかな」
「?」


私のつぶやきに反応を見せた赤司くんに答えようと開いた口と同時に、教室の扉も勢いよく開いた。


「都遥いるかー!」
「ん?あら、噂をすればなんとやら」


 


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