「高尾くん、だよね?私バスケ部のマネージャーすることになった同じクラスの中津っていいます。よろしくね!」
「おー。下の名前…は、美和だっけ?」
「なんで分かるの!?」
「自己紹介で言ってたろ」
「あの一回で!?記憶力いいんだねー」
「そっちも覚えてたじゃん」
「それはバスケ部って言ってたから。他の人はぜーんぜん分かんない。小学校の友達皆クラス離れちゃって不安極まりないよ」
「ふーん、じゃあオレが美和の中学友達第一号な!」
「美和…」
「イヤ?呼び捨て」
「ううん、男の子にそうやって呼ばれたことなかったから。嬉しいよ!」
「よし!オレは和成な、改めてよろしく」
「うん!よろしく和成!」










歯車










体を動かすのは好き。だから何かスポーツをやりたかった、でもどこを見学してもしっくりこなくてそれでも何かスポーツに関わりたいと、強いらしい男子バスケ部のマネージャーを選んだ。したいことが見つかるまでの繋ぎ、ぐらいにしか考えてなかったけれど、一ヶ月後にはどっぷりバスケの魅力にとりつかれてしまっていた。

スピード感溢れる攻防。重たいボールが床に跳ねる音と振動。シュート時に描かれる放物線。語り出すときりがないけど、私は自分でもバスケ中毒者なんじゃないかと思う。


「帝光中と試合!?」
「まぁまだ先だけどな」


和成の衝撃ニュース。帝光って言ったら中学タイトルを総なめしてしまう、名高い名門。しかも同学年には“キセキの世代”と呼ばれる怪物みたいのが5人いる。その5人は雑誌の見開きで一人一人特集が組まれたりして、アイドルかのような扱いの人達だ。そんな帝光とウチが試合?…だ、大丈夫かな。


「時間あるし試合までに今より上手くなって、アイツらの高く伸びた鼻をへし折ってやるぜ!な、美和!」
「う、うん…」


気合い十分、目を輝かせ笑う和成は試合までの間いつもより個人練習の時間を長くしてただただ必死にバスケに打ち込んでいた。
私だってマネージャーという肩書きは伊達じゃない。帝光の試合は二軍の練習試合しか生で見たことがないけれど、一目で分かった。格が違いすぎる…!帝光は掲げている絶対理念の“百戦百勝”のため二軍などの試合でも必ず一軍選手を数名連れていくと雑誌で読んだ。だがコートにはキセキの世代特集で見た人は一人もいない。ベンチにも姿はなかった。相手チームはこの辺じゃ名の知れた古豪。そこのレギュラー相手に帝光の二軍選手が余裕の試合運び。あの時の打ち震えた感覚は今でも鮮明に残っている。私は試合に集中出来ず、終始別のことを考えていた。
キセキの世代と戦えるチームなんて存在するのか…?


「監督、帝光と練習試合をするって本当ですか?」
「ああそうだ、あちらさんは二軍の調整だと仰ってたがね。まぁ胸を借りるくらいのつもりで…」


端から勝負は決まっている。勝つ気がない監督。ボロ負けして落ち込むのが嫌だと笑う先輩。誰もが勝ちを諦めきったその中で。和成だけ、和成だけが本気で帝光に勝とうとしていた。





―――――


「メンバーチェンジ」


第4Qの試合終盤、帝光中がメンバーチェンジを要求し、投入したのは雑誌で目にしたことがある彼、緑間真太郎。そして私達は戦慄した。試合再開直後、彼にボールが渡った瞬間DFに緊張が走る。ドライブかパスか、とDFが判断する前に彼は美しいシュートフォームで宙を舞い、体育館の誰もを魅了した。ハーフラインぎりぎりのところから放たれたボールは天井を突き破りそうな程高くあがって、ゴールに吸い込まれていった。テン、テン、と跳ねるボールにいち早く反応したのは和成で、その顔には驚きと不安と悔しさが入り交じっていた。

試合は一度もこちらがリードすることなく終了し、味わったことのない大敗にチームの皆は放心状態だ。私も負けたことに落ち込んでいる、悔しいとも感じる。けれどそれよりも、人間離れした技が頭から離れなくて心臓が早鐘を打って収まらない。皆には申し訳ないけれど、これまでバスケに関わってきた中で今が一番興奮している…!


「美和、ごめんな。勝つっつったのに」
「ねぇ和成帝光中ってどこにあるか知ってる?」
「は?あーまぁ一応…んなこと聞いてどうすんだよ」
「緑間くんに会いに行ってくる」
「はぁ!?」


渋る和成から無理矢理住所を聞き出して、私が帝光中に乗り込んだのは三日後のことだった。

20130102
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