「一人一つですけどおにぎりあるんで、朝ごはん代わりにお腹空いた方はどうぞー」
「中津、いつもありがとな」
「宮地先輩…録音するんで今のもっかいいいですか。ちなみに中津じゃなくて美和でお願いします!」
「轢くぞ」
「ありがとうございます、いただきました」
「なんでもいいのかお前…」










留任










携帯からピロリーンと可愛らしい音が鳴り、録音の完了を確信した。

恒例になりつつある、朝練のおにぎり配布。最初は皆がランニングの間に部室の掃除とか、体育館のモップ掛けとか準備とかしてたけど、宮地先輩に一年の仕事奪うなと怒られた。それから試行錯誤の結果、おにぎりにたどり着いたのだ。これがなかなか好評で、具もないただの塩にぎりだけど喜んで食べてくれる。朝練だけでも相当しんどいってことなんだろうな、とおにぎりを頬張る皆を見てそう思った。


「中津、監督から職員室に来てくれとの伝言だ」
「え、監督からですか?分かりました」
「いよいよ美和も追い出されんじゃねえの〜?」
「和成…冗談に聞こえないんですけど。…それじゃあ行ってきます、大坪先輩、伝言…ありがとうございました…」
「あぁ」


少しの不安を抱えつつ、体育館から職員室へと小走りする。いつかいい加減にしろと言われるんじゃないかとは思ってたけど、ついに時がきてしまったか。


「もっと皆のこと見てたかったな」


私の声は誰に届く事もなく、空気に混ざって消えた。


「高尾、あんま中津いじめんなよ。見るからにテンション下がってたぞ」
「いや〜あいつ純粋だから面白くて。どうせ監督の言葉聞いたらすぐ機嫌直りますよ」
「まぁ…そうだな、余計な心配か」
「今にスキップしながら帰って来ますって」














「中津、正式にウチのマネージャーになるつもりはないか」
「すいませんごめんなさい邪魔だけはしないので許し…え、マネ…はい?」
「別にマネージャーになってもやることは変わらない。むしろ今のままでもマネージャーの仕事内容としては申し分ないと思っている。うん。ただ中津もマネージャーという立場の方が何かと動きやすいだろうし、オレも堂々とお前を使えて助かるんだが」
「監督…」


こんなに嬉しいことってあっていいのだろうか。
数秒前の自分と全く正反対の監督から申し出…嬉しいのと驚いたのと嬉しいのと嬉しいので頭がおかしくなって発狂するかと思った。レベルで表すと監督の手を取り舞い踊り出したいくらい、ようするに最高峰だ…でも。


「ありがとうございます、そう言っていただけるのは光栄です。マネージャーも願ってもないお話なんですが…すみません、お断りさせてください」
「ん〜一応理由は聞いておこうかな」
「私は好き勝手やってるだけで、秀徳のために何か出来ているわけではありません。今も監督を含め選手の皆に甘えているだけで…だから、もし許されるならこれからも一秀徳ファンとして皆のそばにいたいです」
「…ふむ、そうか…。うん、しょうがない。好きなようにしなさい」
「ありがとうございます!では、そろそろ基礎練始まる頃なんで行きますね!」
「頼んだよ」
「あ、監督」
「なんだ?」
「堂々と、いくらでもコキ使ってくださいね!」
「分かった」
「失礼します!」


一礼して職員室から出る。もうニヤニヤが止まらない。ひゃっほーうと叫んでプールにでも飛び込みたい!風邪引くから絶対しないけど!鼻歌混じりにスキップしてくるりと回ってみたりもする。プールに飛び込むのを諦めた代わりに体育館へと飛び込んだ。


「ひゃっほーーーーう!!和成、やったよ!秀徳LOVEシュートクラブが監督公認になった!」
「おーマジか!良かったな」
「…白々しいな、監督が中津気に入ってるって知ってたくせによ」
「ちょっ宮地さん!しーっ」
「ん?」

20121206
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -