そうだ。
見たことがあると思ったのは、緑間くんのこの格好だ。

私は胸ポケットから一枚の写真を取り出す。指紋や汚れがつかないようにラミネートされたそれに映るのは、私が撮った記念すべき一枚目の緑間くん。


「美和?」
「ウフフ、あの時も緑間くんは真っ赤になって尻餅ついてたな…」










誤想










写真越しに実物の緑間くんが見えるよう、腕を動かした。


「ワァーオ…完全に一致」
「なんだこれ?」
「初めて帝光に行った時撮った写真」


そう、あの時と同じで、目の前の緑間くんは尻餅をついて顔を真っ赤にしている。ただあの時より放心状態は長引いているようで、目を見開いたまま動かない様は人形を彷彿とさせた。

…緑間くんの等身大赤面尻餅人形…?やべぇ買うなこれは。足の間に入って座椅子代わりに使うこと間違いない。


「ところで和成、どうしたの?」
「は?どうしたって…美和はなんでそんな冷静なんだよ」
「冷静なんだよ、って…ああ!ビー玉散らばしたままだった!そりゃ冷静になってる場合じゃないよね、ごめん急いでかたしまっす!」
「そうじゃなくて!お前、真ちゃんに襲われてたんじゃ…」
「え、私を?私が、ならまだしも私を?緑間くんが?まっさか〜むしろこっちからお願いしたいですよはっはっはっ!」


不安げな和成の言葉に、あるわけが無いとジェスチャー付きで大笑いを返す。和成は珍しく混乱したのか、見るからに動揺しているようで「でも」とか「じゃあさっきのは…?」とかを繰り返している。とりあえず支えてくれていた和成に礼を言い、その場に立ち上がり誇りを払う。ぐるりと周りを見渡しあまりの惨状に顔を歪ませた。そこら中に広がるビー玉は、ベンチの下やロッカーの隙間にまで入り込んでいる。転んだ痛みを抱える身体で今からこれを片付けるだなんて…


「地獄だな」


と言いつつも、携帯のカメラで緑間くんを収めた。
それは無意識の行動で、本当に撮ろうとか考えたわけじゃなくて、ただそこに存在する緑間くんを本能的に撮影していたのだ。その時にやっと微動だにしない緑間くんに意識が向いた。


「あ!ごめん緑間くん放ったらかしにして!大丈夫!?怪我してない!?」
「………」
「あれ、緑間くん?おーい、おーーーい!」
「バカ近寄るな!…あっ」
「えっ、和成ちょっうわあああぐへっ!!」


私に駆け寄ろうとした和成がコントですかと聞きたいほど盛大につるりと滑って宙に浮いた。伸ばしていた手は丁度私の首辺りを引っ掛けてそのまま床へと私を叩きつけた。プロレス技を彷彿とさせるそれをモロにくらった私の左半身に和成の左半身が乗っかるという、なんとも不可思議な状況が出来上がってしまっている。


「〜〜っげほ、いったたた…和成さんマジ勘弁してくださいよぉ…」
「ってえー…ごめん美和、大丈夫か?」
「大丈夫…だけどまさかラリアット食らわされるなんて思わなかったよ」
「マジごめん」
「それにしても私、緑間くんに続き和成までビー玉の罠にかかるとは…」
「え」


涙目で咳き込む私から飛び退いた和成が私の手を引っ張って起こす。その時、和成の体が硬直した。


「ま、まさかさっき二人が倒れてたのは…!」
「?ビー玉踏んで転んだんだけど」
「マ、マジかよ」
「マジマジ。でも和成、来てくれたと思ったら鬼の形相で緑間くん突き飛ばすから何事かと思ってちょっと怖かったんだけど…」


恐る恐る聞いてみると和成は耳まで真っ赤にして「うわっ、オレだっさ!ヤベェよマジださい、ねぇよこれは!」と叫んで頭を抱え込んだ。
緑間くんはやっと放心状態から開放されたらしく、メガネの位置を正した彼に大丈夫かと声をかけたら目が合った。その瞬間緑間くんはシャツを肌蹴させたまま通学カバンを引っ掴んで凄い勢いで部室から走り去ってしまった。


「え、緑間くん!?」


その日、もう緑間くんは部室へ戻って来なかった。
ビー玉を片付ける私と和成を見た大坪さんに珍しく怒られたけれど、私の心の中は反省よりも、緑間くんの最後に見せた、歯を食いしばるような歪んだ表情が頭を支配していた。

20130207
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