meine Liebe [ 2/5 ]


「それで?これはいったいどういう状況なんですかお兄さん」
「皆で飲み物を飲んでいる」
「頭いいくせに何その頭悪そうな回答!?」


まず、席順に異議を申し立てたい。私の目の前にいたはずの黒子先輩は今、何故か私から一番離れた斜め前の席に移動させられている。その横に青峰先輩、更に兄さん、兄さんの向かいには私、緑間先輩、黄瀬先輩の並びだ。

青峰先輩は黒子先輩と雑談を始めたし、黄瀬先輩はファンらしき女の子の相手を。緑間先輩は隣で爪を磨きだした。もう訳がわからない誰か分かりやすく50文字以内で説明してくれ。

バニラシェイクのカップから、ズコッという音が聞こえた。構わず啜っていると緑間先輩が行儀が悪い!と私からカップを取り上げた。


「緑間先輩、妹が片想いの相手をやっとの思いでデートに誘って浮かれ気分な所に現れる兄って行儀が悪いとは思いませんか」
「…気の毒だな」
「そう思うなら今すぐこの人達連れて帰ってくださいよ!」
「悪いが、ここに集まることで赤司から明日のラッキーアイテムを譲り受ける約束をしているのだよ。赤司のコレは今に始まったことでもないだろう、諦めろ」
「何かをこんなに諦めたくないのは人生で初めてです…」


厳格な家庭で、跡取りとして英才教育を受けてきた兄とは違い私は結構気ままな生活を送っていた。かたっくるしいマナーとかが大嫌いで、親の前でだけはちゃんとしてるつもりだったけどそれも通じなかったようで。コイツはダメだとでも思われたのか、いつからかそういう事も口うるさく言われなくなった。

そんな我が道を行く私のせいで、兄に更なる負担をかけてしまっているのではないか、と少しだけ考えたり。赤司家の期待を兄一人に押し付けている事実に、罪悪感というか何というか…そんなものを感じていたりする。だけど兄さんは私を嫌うどころか、こうやって、暇さえあれば(暇なんてないはずなのに)会いに来たりするほど可愛がってくれているのだ。

兄を邪険に仕切れないのは、兄は自分を悪く思っていないという安心を得たいだけじゃないのか。


本当に兄妹離れ出来ていないのは、果たしてどちらだろう。


「兄さん」
「なんだい?名」
「先輩達も揃ってて丁度いい機会だし、決着をつけよう」
「決着?」
「そう、私達兄妹の都合でいろんな人を振り回すのは終わりにするってことだよ」
「…」


私達の真剣な空気を感じ取ったのか、瞬く間に薄い緊張感がテーブルを包んだ。


「ずっとしかった質問をしてもいい?」
「何かな」
「どうして兄さんは、私を嫌いにならないの?」
「僕が?名を?好きになる理由は数あれど、嫌いになる要素なんて一つも見つけられないよ」
「でも、私はわがままで…赤司家の掟みたいのは全部丸投げして自由に生きてるのに…兄さんが私の分まで背負ってがんじがらめになるのは嫌で、でも縛られるのは嫌だし…えと、つまり…」
「名は勘違いをしているよ」
「…え?」
「両親が名に教養を無理強いさせなくなったのは僕がそうするよう頼んだからだよ」
「ど、どういうこと…?」
「名が一般家庭では馴染みのない礼儀作法などを苦手としているのは勘づいていた。だから僕が赤司家全ての責任を負う代わりに、名には好きにさせてやってほしいという交換条件を出したんだ」


饒舌に語られるドラマのシナリオのような話に、私の小さい脳みそは爆発寸前だ。自分の知らないところで兄は私の想像を遥かに超えた行動をとっていて、加え、あの堅物な両親を言葉の契約だけで従わせた兄の将来性、信頼性を改めて思い知った。


「なんでそこまでして…」
「…僕は僕が赤司の人間として教育され、そう生きていく事は変えられない事実として受け入れていた。けれど名は違う。自分らしく生きるにはどうすればいいか、自問自答していた。名が赤司家で名らしく生きることが苦しいなら、今を当たり前として受け入れている僕が少し手を広げるだけで状況が変わる。いつだって生きることを楽しもうとする名を僕は尊敬しているしそんな風にいられる妹をもったことが誇らしいよ」


“誇らしい”なんて私のような人間に本来向けられる事のない言葉に、正直どう反応すればいいのか分からなかった。兄は私が考えるより何歩も前を進み、私を導いてくれていた。嬉しいとか申し訳ないとか、一つしか歳がかわらないのにどこまでも大人な兄に心底驚くしかない自分が恨めしい。


「あ…れ?でもなんでそこまで私の事を考えてくれてるのに同級生脅したり先輩達に見張りみたいなことさせてるの?」
「それとこれとは話が別だ。僕がここまで大事にしてきた名をどこの馬の骨とも知れない男に引っ掛けられるなんて考えただけで悪寒がする」
「結局そこ!?てかこの年になってダメンズに引っ掛かったりしないから!」
「何を言っているんだ。僕がそばにいてやれないんだからボディーガードをつけるのは当然だろう」
「あ、やっぱボディーガードなんだ。…じゃない!それじゃ困るの!」
「何が困るんだ?」
「何がって…私は黒子先輩が好きなの!黒子先輩とだけ一緒にいたいの!…まぁこれは…黒子先輩にも好きになってもらわなきゃ成立しないけどさ…」


青峰先輩と黄瀬先輩から「おぉっ!」と感嘆の声がもれる。対照的に、緑間先輩は顔を赤くして辺りをキョロキョロと見回した。純情な先輩を視界の端で感じながら、私の目線は真っ直ぐ兄へと向いている。


 


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