meine Liebe [ 1/5 ]


「昔はあんなに可愛く征にい様、征にい様と僕の周りをついてまわっていたというのに…」
「そういうところが嫌いなんだよ」
「きら…い…?」
「名さんそれはちょっと言い過ぎなんじゃ…」
「いいえ。これぐらいビシッと言わないと自分が異常だって分からないんですよ」
「名が…僕を…き…いや、口にするのも憚られる」


向かいで机の一点を見つめボソボソと呟く赤い髪は、長期の休みでもないのに京都から急に東京へ帰ってきた兄。その横でバニラシェイク片手に眉を八の字に下げ、困り顔を浮かべているのは私の想い人である同じ高校の黒子先輩。

その黒子先輩とマジバで談笑していたところに「やぁ、僕も混ぜてくれるかい?」と京都にいるはずの兄が姿を現したのはつい数分前のこと。
なんでいるの?に対する答えは「そんなことより二人は何をしているんだ?」だった。私は知っている。にこやかな笑みの裏に隠された真実を。

この人は私と黒子先輩のデートを邪魔しにきたんだ。


「デートじゃない、おやつタイムだ」
「心を読むな!それを決めるのは兄さんじゃないから。てかおやつタイムとか幼稚園児か」
「名は今でも園児の時のように可愛いままだよ」
「サムッッッ…!すみませーん、ロリコンを店から追い出す殺虫剤ありませんか」
「ロリコンじゃない、シスコンだ」
「どれだけツッコミさせる気なのこの変態は!」
「変態じゃない、シスコ」
「ああああもう黙って頼むから!」


兄さんは、どれだけ渾身の貶しを浴びせてもひらりとかわして新たな爆弾をぶちこんでくる。喧嘩と呼ぶには一方的なこのやりとりは私が中学に入った頃に始まった。

私と遊んでくれていた男子が次々と声をかけてこなくなり不思議に思っていたけれど、話せば普通に話してくれるし、他の子といる方が楽しいのかな?程度に軽く考えていた。だが友達から無理矢理聞き出した衝撃的な真実に開いた口がふさがらなかったのを覚えている。


「名のお兄さんに“名に近づくって事はそれなりの覚悟があるんだよね?”って物凄い剣幕で脅…尋ねられたらしいよ」


“覚悟”って…。
…そんなものあるわけない。

私が中一の当時二つ上の兄は三年生で学業優秀、負けなしのバスケ部部長として名実共にナンバーワンの有名人であった。
そんな兄さんのせいで私に火の粉が降り注ぎいい迷惑ではあったけれど、京都の高校に進学すると聞いて舞い上がったのもつかの間。兄さんは関東の高校に進学した黒子先輩、青峰先輩、黄瀬先輩、緑間先輩に“仲良くしてやってくれ”という呪縛を残し去っていったのだ。

ガタイのいい男三人を従わせる女、という嘘も甚だしい話題は尾ひれをつけ、三股だのボディーガードを雇っていて私に話しかけると殺されるだのそれはもう散々ないわれようだった。

けれど前述した通り、変な噂がたったのは“三人の男”で黒子先輩といる時は変な緊張感もなく、至って普通に過ごすことが出来た。それは私ですら見失うほどの影の薄さも要因ではあるけれど、濃すぎる先輩達に周りを固められた中で唯一の“平凡”さに癒しを感じたのが一番大きい。そんな黒子先輩に出会わせてくれた点についてだけは兄に感謝している。


「はぁ。テツヤには名を頼むべきではなかった」
「黒子先輩がいなかったら今頃私は家出してるね」
「そうなったら衛星を飛ばしてでも名を見つけるよ」
「…逃げ場なしですか…」


衛星とか何言ってるんだと笑い飛ばしたいけど、兄さんならやりかねない。
まぁ黒子先輩はいいとして、他の三人を私につけるのはどうかしている。だって近いわけでもないのに中学時の部活のキャプテンの妹に放課後ついて回るって、普通じゃないでしょ。


「あのさぁ、もういい加減に…」
「スマセンッス!」
「遅れたのは緑間のせいだからな」
「貴様がぶつかってねじを溝に落としたのが原因なのだよ!」
「…一応聞きます。何故ここに?」
「赤司っちに呼び出されて」
「大勢の方が賑やかでいいじゃないか」
「良くない!しかもなんでこう男ばっかり…さつき先輩は!?」
「さつきは部活だぞ」
「…青峰先輩、それ自分で言ってておかしいと思いません?緑間先輩は人事尽くさなくていいんですか!?」
「今日はミーティングのみだ」
「くっ…黄瀬先輩は?」
「オレんとこテスト週間休みッスよ」
「勉強しろや!!」
「オレだけ風当たりキツくないスか!?」
「もうイヤ…なにこれ。今日は黒子先輩と二人でのんびりデートのはずだったのに…」
「違う、おやつタイ」
「それ引っ張らなくていいから!」
「お気持ち、お察しします」
「黒子先輩…!」


先輩の優しさに比べてなんだこの酷く濃いオールスターは。
実の兄にすら帰ってくれと思っている私の前に現れた例の“三人”は当たり前のように机をくっつけ、席についた。


 


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