甘党に捧ぐノウハウ [ 2/4 ]


「どうぞ」
「お邪魔します」


練習から帰宅した赤司くんと一緒に家へ上がらせてもらう。ご両親は出掛けているそうで、挨拶をしたことはあったけどやっぱ緊張するものなのでホッと胸を撫で下ろした。

けど、いつもは赤司くんの部屋に直行するけど今日はリビングへと案内され、ご両親がいないとはいえいつ帰ってきて鉢合わせるか分からない状況に私はまた身を固くする。くつろいでて、とキッチンへ行った赤司くんが戻る直前まで悩んで慌てて二人がけのソファにちょこんと浅く腰かけた。


「今日はやけにおとなしいね」
「そ、そう?気のせいじゃない?」
「手が震えてるぞ」
「ふぉぉ…」
「はは」


赤司くんが注いでくれた紅茶をカタカタ揺らしながらも溢さないように細心の注意を払って口へ運ぶ。鼻腔に広がる香りが少し緊張を和らげてくれた気がする。…とかそんなことはなく、依然としてガッチガチに緊張していますよ、ええ。


「そんなに緊張されるとこっちも肩の力が抜けないんだが」
「そ、そう言われてもなぁ…」
「仕方ない。端に寄って深く座って」


言われるままに、上質な柔らかいソファに腰を沈める。赤司くんが移動するそぶりを見て隣に座るのかと、広がったスカートを寄せたら「そのままでいいよ」と優しく腕を掴んで制止された。その手を肩の位置まであげられて、え?と思った時には、ずしりと太ももに重みを感じてソファがより深く沈んだ。


「あの…赤司くん?」
「ん?」
「ななな何をしてらっしゃるのでしょうか…」
「何って、膝枕だけど」
「知ってますけど」
「名の緊張が少しでも和らげばと思って」
「逆に増幅してますけど!?こんな…いつ誰が来るか分からない状況で膝枕とか、これでリラックス出来るのは相当な変わり者だよ!」
「ならリラックス出来るじゃないか、良かったな」
「変わり者だってか。さすがの私もそのレベルまではいけてないです」
「…いいだろ、オレがしたかったんだから。いやだと言っても退かない」


足を枕に仰向けに寝転んだ赤司くんが拗ねたようにそう言って、うつ向く私を睨む。怖いというよりはこどものわがままのようで、ちょっとだけキュンとしてしまった。
こども…赤司くんにも幼稚園の制服を着てた頃があったんだよね。…こんなふてぶてしい幼稚園児は可愛くないな。


「…何笑ってるんだ」
「あれ、笑ってた?」
「思いきり頬が緩んでいた」
「いひゃいれす」


更に眉根を寄せた赤司くんにほっぺたを引っ張られ目に涙が溜まる。痺れる頬をさすって見下ろすと微かにではあったけど、純粋な笑みを浮かべた気がした。普段ニヒルな笑顔が多いから、こんな爽やかな顔をされると戸惑う。

誰にも弱音をはかず、愚痴も言わない。自分のやるべきことを全てそつなくこなして先生からも信頼されている彼だって、私と同じただの学生だ。

そんな赤司くんにも甘えたい時はあるらしい。私にならそんな顔を見せてもいい、そう思ってくれたのならちょっと嬉しいかもしれない。


「5分だけね?」
「せめて1時間にしてくれ」
「ながっ」


どうしたの?とか何かあったの?とか聞いてもきっと「何でもないよ」って答えるだろうから、そんな赤司くんに私も何も言わず羞恥心を圧し殺して、長い1時間を耐え抜いてみせようと思う。










甘党に捧ぐノウハウ


(名…名、起きろ)
(…んぇ?)
(家族が帰ってきたらしい。玄関で物音が…)
(おわああああああ)
(ちょ、っ!)
(ふぐ…!?…ああああ違うんです!これは決して押し倒したわけではなくてですね!)


→あとがき


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