甘党に捧ぐノウハウ [ 1/4 ]


「却下だ、君の意見には理論的根拠が欠けている。それにスターティングメンバーの選出はオレではなく、当然ながら監督だ。意見があるならまず監督の所へ行け」
「…くっ」


声を荒げた男子生徒は教室から逃げるように立ち去る。特有の重苦しい空気とクラスメートのざわつき。はぁ、とだるそうなため息を吐いた赤司くんは窓の外に視線をやった。


「最近多いね、部員の人」
「もうすぐ最後の大会だからな。気が立っているんだろう」
「ふーん」


スポーツの事は詳しくないけれど、さっきの人が言いたかった事は分かる。
誰だって何かに対する努力には見返りを求めてしまうものだ。人間は充実感を得られないものの為にひたすら努力を捧げることは出来ない。


「そりゃ三年近く死ぬ気で努力してきたのに、ポッと出の奴にスタメンの座を奪われたたまま幕を閉じるってのは気分良くないよね」
「なんだ、名はさっきの奴の肩を持つのか?」
「そういうわけじゃないけど、残酷な世の中だなと思っただけ」
「赤司っちー!練習のことなんスけど」
「ほらほら来たよ、原因の種が」
「え、なに?オレの話してたんッスか?」
「名、余計な事を言うな」
「はーい」
「えーっ二人だけの秘密ッスか!?」
「アンタ以外皆分かってるけどね」
「えっ」
「名」
「黙りまーす」


黄瀬くんが辺りを見渡すと、クラスメートはさっと目を逸らした。…いや、巻き込もうとしたわけじゃないんだけどついポロッと…皆ごめん。静かに手を合わせ椅子に座り直す。
なんなんスか!?を連呼する黄瀬くんに無視を決め込んでたら「話はなんだ」と赤司くんが助け船らしきものを出してくれたので助かった。会話になんとなく聞き耳を立ててると、モデルの仕事がどうのこうので練習に出れない日があるとか。ペラペラと饒舌な黄瀬くんに対し赤司くんは「分かった」と短く答え、黄瀬くんは「じゃ、よろしくッス〜」とキラキラした笑顔を振り撒き帰っていった。
赤司くんが頼りになるのは言うまでもないけど、本来監督が請け負うような事まで赤司くんが面倒をみてると思う。私なら息が詰まって放り投げてるな。


「黄瀬くん休むって?」
「どうしても外せない撮影があるそうだ」
「撮影なら赤司くんも出来そうだよね。整った童顔なんだからちょっとこうにこーっとすればさ」
「戯言は程々にしろ。もう授業が始まる、前を向け」


…まだ開始まで2、3分あるのに。チャイムが鳴ってから準備したって間に合うのにこんな前から黒板見つめてもやることなんてない。でも“童顔”という単語に反応して目付きが鋭くなった赤司くんに逆らう程命知らずではないので黙って従う。

後方からのペンを動かす音は、赤司くんが復習か予習をしているとみて間違いないだろう。休み時間にまで勉強とは…とんだ物好きだ。


「日曜日空いているか?」
「へ?あ、うん」
「そうか」
「そうですね」
「午前練習だから午後から家に来ないか?」
「赤司くんがしんどくないなら」


たまにこんな風に誘われるのでもう驚きはしないけれど、赤司くんは前もって必ず予定を組むので、実は約束の日までそわそわドキドキして仕方ない、とかそういうのは可愛い子のセリフなので私は秘めておこう。


 


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