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「だーいきーってばー」
「うっせー黙ってろ」
「行くって返事したくせに!」
「だからしてねえっつってんだろうが」
「いいやしたね!」


一週間前、試合終わりで疲れて帰ってきた大輝はご飯も食べずにベッドへ直行した。私はその背中に向かって「クリスマスは二人で出掛けようねー?」と声をかけた。返答はなく、代わりにバタン!と音がして寝室を覗くと、本棚が倒れたのかと間違えるくらいまっすぐにベッドにダイブした大輝がいびきをかいていた。本棚、と例えたのは寝相が最っっっ悪な大輝がまっすぐ寝ていたことの驚きを表すための比喩であって、ご飯せっかく作ったのにとか話聞けよとか私寝るとこないじゃんとかの鬱憤を肌の色が本棚に似ていたから皮肉って例えた訳ではある。あ、つい本音が。

本題に戻そう。私はそのいびきをかく本だ…大輝に近づいてもう一度同じことを言った。するとどうだろう、ふといびきが止まって「んー…?」と眉を寄せたのだ。皆さんにお聞きしたい。これはれっきとした肯定の返事ではないかと!!


「どこがだよ」
「えー」
「えじゃねえ。完全にお前の早とちりだ。つか何でこんな寒ぃのにわざわざ外出なきゃなんねんだよ」


ぱら、と写真集を捲る大輝はダルいモードMAXハイパワー。休日なのをいいことに着替えもせず朝からずっとこの調子だ。私は大輝が起きる前から服を迷いに迷ってばっちり化粧して出掛ける準備も万端だというのに。これだから出不精は困る。


「なまえだって出掛けるぞっつったら今日はムリ!とかよく言うだろ」
「急だからでしょ!家用の髪にまとめた後とか化粧落とした後に出掛けるとか言われても女の子は無理なの!」
「別に適当でいいじゃねえか」
「めんどくさいの!大輝だってバスケして帰宅、お風呂も入ってあとは寝るだけって時にバスケしよーぜ!なんて言われたらめんどくせって思うでしょ?」
「…思わねぇな」
「くっ…!バスケを引き合いに出すんじゃなかった…」
「ばーか」
「きぃぃ…腹立つ…!!」


今更だけど彼女の前でどうどうとマイちゃんの写真集なんか見てんじゃないわよこのぅ…!そして写真の中の胸と私の胸を見比べるな。ぶん殴っちゃいますよエロ魔神め。


「…分かった。じゃあ一人で行ってくる」
「なんでだよ」
「はぁ?」
「オレを置いてくのか?」
「はぁぁぁ?」


なーにを言っとるんだこやつは。自分から出掛けないとか言っときながら置いてくってなに?人を悪者みたいに言わないでよね!というかそういうセリフは甘え上手な可愛い系男子が服の裾掴みながら上目遣いでポソッと呟くものでしょうが(個人の見解)。そこにきゅぅぅんとするんでしょうが!大輝がやっても全く効果なし!!生気の感じられない半目をくりっくりの潤んだ瞳に変えて出直して来やがれ!…それは実に気持ち悪いな…おえ。


「お前…さすがのオレもキレるぞ」
「こっちはもうキレてるんですよ!血管何本持ってかれたことか…」
「おーおーバカな頭が少しは良くなるんじゃねえの?良かったな」
「…また一本弾けとんだわ」私が漫画家なら、ここのコマは頭から血が噴出している私の絵を迷わずに描いていただろう。それにしても…壁の時計を見上げると短い針が6を差していた。このままだと晩御飯を外食にすることすら叶わないかもしれない。こんなこともあろうかとお店の予約は取らなかった私を褒めてほしい。そして目の前の男が動くように尻をぶっ叩いてほしい。
その願いは儚く散って、時間だけが刻々と進んでいた。今日はもうダメだな、諦めの溜め息を吐いて、ずっと抱えていた鞄をおろした。


「なまえ、晩御飯何」
「知らない。食べたきゃ自分で作れば」
「…怒ってんのか?」
「別に」
「まったく。怒ったり怒ったり忙しいな」
「誰のせいだと思ってんだ!」


一瞬振り返ったがぷいっと顔を反らして体育座りで頭を抱える。ちぇ、なんだよ。さっこもひーちゃんも彼氏とあれこれ予定たててうっきうきのワックワクだったのに、私はベッドでグラビアの写真集見てる人のお守りですか。パラパラと紙が擦れる音が虚しさを助長させる。塞ぎ込んでいるからか、思考もマイナスにしか働かない。仕舞いには涙が滲んできて鼻をすすった。


「な!泣いてんのか!?」
「…泣いてない!ずび」
「そんなに出掛けたかったのか」
「…違うし!汗だし!」


袖で乱暴に目と鼻を擦る。こんなことで泣くとかありえない!絶対うざいって思われた…。最悪だ。大輝ってそういうの嫌がるもん。束縛とか嫌いだし予定たてるのもいやがるし、未だって若干好かれてるのか怪しい扱い(グラビアの事とか)受けてるのに。どうしよう、別れるとか言われたら…!


「はいストーップ」
「ふぇ…っ?」
「うわっお前袖びしょびしょじゃねぇか。どんだけ泣いたんだよ…」
「汗だってば」
「あーそうだったな」


ひたすらゴシゴシやってたら肩と背中がずしりと重くなって、涙を拭っていた手を顔から離された。開けた視界で確認すると、大輝が私を抱えるように真後ろで体育座りしていた。なんだろう…状態的にはマトリョーシカみたいな。


「ツリーでもなんでも見に行ってやるから、泣くな」
「ほんと?」
「あぁ」
「…あんなに拒んでたのに」
「アレはお前と出掛けるのが嫌とかそういうのじゃなくて…あー…」
「なに?」
「…なんか、お前はりきってオシャレとかしてるし…嫌だったんだよ。他の男になまえを見られんのが」
「お、おぉ…?」
「なんだその返し」


肩に頭を乗せている大輝を見るとほんの少し頬を赤く染め、私を見上げてきた。…なんだよちくしょう。大輝のクセにきゅぅぅんとしてしまったじゃないか。


「つうかお前酷すぎ。うざいと思われるとか好かれてないとか」
「うっ…アレはその場の勢いというか…」
「ほう。なまえは勢いだけであんなにオレを貶せんのか」
「すいません」
「ま、お前がどう思ってようが勝手だけどな」
「何それ、冷たいー」
「冷たいかもな。お前がオレを嫌いになっても、一生離してやる気はねえし」
「やばい…!今日の大輝半端ない…!これがプレゼントですか」
「あ?何言ってんだよ…おら、行くぞ」
「うん!」


クリスマスの時間は残り少ないけれど、人生で一番楽しいクリスマスを過ごせる、そんな気がした。










右ストレート入ります


(いつも気になってたんだけど、なんで私の心読めるの?)
(全部口に出てるぞ)
(嘘!?)



→あとがき

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