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「部長、今日のパート練ので不安なところがあって…」
「どこどこ?あーここは」
「会長ー来年度予算の書類どこだー?」
「生徒会室!後で取ってくるね!」
「委員長、担任が呼んでるよ」
「えぇ!今可愛い後輩にアドバイスしようと…」
「私は大丈夫です、自分で頑張ってみます」
「ごめんね、書類も一緒に取ってくるー!」
「おー」


「なまえって働きすぎだよね」
「どうしましょう、いつか過労なんてことになって倒れでもしたら」
「やだ、やめてよ…ありえそうで怖い」
「俺達がなまえに頼りすぎなんだよ」
「じゃあ…副委員長…?」
「いや、それはちょっと…」


洛山高校での二回目の冬。生徒会長と学級委員の兼任。加えて吹奏楽部部長でもある。昔からこういう役職みたいなのに就くことは多かった。その多くの場合ホームルームの多数決投票なわけだけど、不思議な事に毎度毎度黒板の候補者には私の名前が挙がる。たかが学生の係決めだけど、候補者の中から一人を選ぶ時、経験者のあるなしは選考基準になる。「前もやってたんならこの人でいいや」そんな感じで決める子もいるんじゃないだろうか。それが続きに続いてベテランと呼ばれるまでになってしまった。仕事は大変だけど嫌いではない。寧ろ好きなくらいだ。皆が私を頼って仕事を任せてくれる、それが嬉しい。友達は「ドM…?」とか言ってたけど私は皆の役に立てるのが嬉しいだけだからそういうのではないと自負している。


「書類お待たせ!」
「さんきゅな」
「担任なんだって?」
「文化祭の出し物とか決めていろいろやっとけって」
「げ、またなまえ任せ?体育祭とかもそうだったよね」
「まあまあ私も楽しんでやってるから大丈夫!」
「なまえ部活行くよー」
「あ、はーい!」


どっさりの書類をクラスメートの机に置いて息つく間もなく部活へと意識を切り替えた。毎日こんな様子で自分でも忙しないなと思う。だけどそれはとても充実していると感じていたし、何よりこれが青春だ!そう感じていた。


「赤司くん。今日のホームルームで3学期の球技大会の選手決めしたいんだけど大丈夫?」
「構わないよ。僕は何をすればいいのかな?」
「何も。副委員長として前に並んでもらうから一応言っとかなきゃと思って。赤司くん部活大変でしょ?クラスのことは任せて!」
「…」


終業式は近づいているというのに、やらなければならないことは山積みで。来期すぐの球技大会は今期の内に全て準備を終わらせないとだし、後輩への生徒会職務の引き継ぎ、卒業式の送辞も考えなければならない。更にコンクールに向けて部の練習も詰めて行く時期だ。皆が待ち遠しいとそわそわする冬休みは、私にとって連日の一日練習で部員が屍になる地獄絵図を見なければならない地獄でしかないだろう。そしてその想像は外れる事なく、地獄の冬休み、クリスマスを過ごすこととなった。


「なまえ…、わたひたちなんれこんなことひてるんだっけ…?」
「上手くなるためでしょ!」
「もう無理…マジ無理…指はかじかんで動かないし吹きすぎてもう唇お化けだよ…」
「腫れぼったい唇素敵!だからもうちょい頑張ろう。このあと昼休憩取るから皆も頑張って!」


“あ゙ーぃ…”とゾンビみたいな返事があちこちから聞こえて某ホラーゲームを想像した。宣言通り取った休憩では楽器を見るのも嫌とばかりに皆音楽室から散っていく。


「ちょっと生徒会室行ってくるね」
「なんで?」
「各部の今年の活動内容が書いた用紙が届いてるはずだからそれのチェック」
「はー…よくお働きになるこって…」
「ダラダラしない!後輩がマネするでしょ?頼んだよ副部長!」
「へーへー」
「もー」


ついでに吹奏楽部の用紙も持って生徒会室へ向かう。音楽室から棟を変え階段を上がる。上がりきった時にマラソンの後みたいに心拍が早かったことに疑問を抱いたけど、体力なくなってるのかな?くらいににしか思わず、廊下を進む。前方から名前を呼ばれてそれが赤司くんだと気付いた。


「あ、もしかして用紙持って来てくれたの?」
「あぁ」
「丁度いいや、ここでもらっ、ちゃ…っ」
「なまえ…!?」


ぐにゃりと視界が歪んで、手足から力が抜けた。私に駆け寄った赤司くんの顔がいくつも広がる。オッドアイがまるで万華鏡のように揺れてとても綺麗だと思った。


 

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