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「なまえ…渡したいものがあるんだ」


私の不可解なドストライク発言にも辰也さんは引くことなく、優雅な笑みで対応してくれた。そして思い出したようにカバンを探り始め、取り出したものを私の手にポンと乗せた。それは長方形でラッピングされていて、みるからに高級そうな代物だった。


「えっ、な、え!?」
「メリークリスマス」
「嘘…!プレゼント?あ、開けてもいいですか!?」
「もちろん」


もったいないけど、丁寧に施されたラッピングをほどいていく。包装紙をめくると白い箱が出てきてドキドキとうるさい心臓に落ち着けと指令を出しつつ、そっと箱を開けた。出てきたのはピンクパールのトップがついた可愛らしいネックレス。


「なまえのことを思いながら選んだんだ」
「可愛い…ありがとうございます!さっそくつけてみてもいいですか」
「待って、それはオレの仕事だから」


首に回そうとした手を辰也さんが掴んで、私の手からネックレスを取って立ち上がった。背後に立った辰也さんがネックレスをつけ、そっと髪の毛を輪から抜いてくれた。席に戻った辰也さんからじぃっと熱い視線を感じて恥ずかしい。


「うん!よく似合ってる」
「あ、あんま見ないでください」
「どうして?男にとって自分がプレゼントした物を身につけてくれるなんて最高に嬉しいことなのに」


きょとんとしている辰也さんに余計恥ずかしくなる。辰也さんの物言いはストレートで困るんだよ…。なのに繊細な日本人らしい部分も持ち合わせていて。神はこんなパーフェクト人間を作ってどうしようというんだ…!悶々と人類の謎に直面していた私を、辰也さんが控えめに名前を呼んで現実へと引き戻した。


「ありがとうございます、大切にします!」
「どういたしまして」
「あの…私、お返し出来るようなものがなくて…」
「あれ?マフラー編んでくれてるって聞いたけど」
「んぇ!?ななな何故それを!?」
「おばさんが電話で」


は、母上ェェェェ!!!あんた何してくれてんだよ!黙って編んでるって言ったじゃないですか…。しかもこんな高価なネックレスいただいといて、ド素人が編んだマフラーなんて渡せないよふざけんな!


「あ、あれは手違いで…自分用に編んだんです!だから持ってきてなくて…」
「そうか、それは残念」
「ごめんなさい」
「ううん」


本当はカバンの中にある。けど出せない。あんな地味でダサいマフラー、お店のゴージャスな雰囲気にも辰也さんにも、似合わない。かといって自分だけプレゼント貰いっぱなしは考えられない。どうしたもんか…。


「そろそろお店出ようか」
「あ、はい」


支払いをしようと財布を出したらボーイさんに、もう頂いております。と丁寧に頭を下げられた。私いつ払った!?まさか無意識の内に…?そんなバカな!


「辰也さんお金…」
「大丈夫だから財布しまって」
「そんなの悪いです、ネックレスもいただいたのに」
「なまえ、ダメだぞ。オレがせっかくカッコイイところ見せようとしてるのにそんなこと言ったら」
「でも…」
「お願い、オレのために。それともなまえはオレの行動を無にしたいのか?」
「そんなこと!」
「ありがとう。なまえが願いを聞いてくれて助かったよ」


…丸めこまれている、完全に。何故支払いをしてない私に辰也さんがお願いをして私がそれを了承した形になっているんだ?何が起きたこの数秒間で…。
暖房が効いた店内から外に出るとあまりの寒さに身震いしてしまった。マフラーを鼻まで引き上げて手をコートのポッケに突っ込む。おもむろに辰也さんを見上げると、首回りがえらくスッキリしていて、行きしにしていたマフラーがないことに気付いた。


「辰也さんマフラー早くしないと!風邪ひいちゃいますよ!」
「んーそうしたいんだけどどっかで無くしちゃったみたいで」
「えぇ!?…あ!席に忘れたのかも!店員さんに確認してきます」
「お店にはないよ」
「へ、でもお店入るまで持ってましたよね?」
「オレが探してるのは、何ヶ月も前から今日のために編まれた手編みのマフラーだから」
「それって…」


今日何度目かのにっこりを向けられて、もう私は昇天寸前だ。なんでこう辰也さんは惜しげもなく…。呆けている私に、なおも笑顔を絶やさない辰也さんが胡散臭く見えてきた。


「あぁ寒いなー。このままだと風邪ひきそうだ」
「わ、分かりましたから!」


わざとらしく腕をさすられて、仕方なくカバンから引っ張り出す。巻いてとばかりにかかんできた首に、ぐるぐると青紫のマフラー巻き付けた。


「ありがとう、暖かいよ」
「本当にいいんですか?こんなので」
「これ以上ないくらい嬉しいよ!」
「…割に合わない気が…」
「え?」
「だって私はネックレスも食事も出してもらったし」
「オレはなまえが今日を空けてくれて、マフラーももらったからおあいこだよ」
「えぇー…」


誰がどう見てもフェアじゃないこの状況。辰也さんは何度もマフラーを触って嬉しそうに感触を確かめていた。納得いかない私はどうにか口が達者なこの方に勝って何かプレゼントする方向に持っていけないかと思案したけれど、辰也さんは全くそんなことをさせる気はないらしい。


「それになまえがマフラーの糸を買いに行ってどれにしようか悩んだ時間も、マフラーを編んでた時間もオレのものだから。オレの方がこんなに良くしてもらっていいのかなって思うよ」


…口で勝とうなんてのが間違っていた。会話で私が辰也さんに勝てる訳がない。こういうところを好きになったんだから。

今日一番の笑顔を見せた辰也さんは頬と鼻が少し赤らんでいて、それがマフラーの色によく映えていた。










モルヒネ爆弾


(じゃあ私はマフラー取ろー)
(?風邪ひくよ)
(ネックレス、皆に見せつけてやりたいんで)
(…可愛いこと言ってくれるね)



→あとがき

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