1/3


「辰也さあああん」
「なまえ!」
「会いたかったです会いたかったです会いたかったですー!!」
「ふふ、元気みたいで良かった」


日本とアメリカ、所謂遠距離。少なからずメールでのやり取りもしてたし、最近では無料のテレビ電話なんてものも普及して昔より寂しくなくなったけれど、やっぱり生の声、生の体は破壊力が違う。待ち合わせの駅で人混みから姿を見せた辰也さんはますます身長が伸びてるわ大人の色気は出てるわで、周りがじゃがいもに見えるくらい輝いていた。サンタさん太っ腹なプレゼントありがとう!
ほどよく鍛えられた身体に飛び込み背中に腕を回してしっかりホールドする。辰也さんも私に腕を回し、肩甲骨辺りで指を組んで応えてくれた。鼻腔に広がる辰也さんの香りが安心感とか懐かしさとかを一瞬で引き寄せて、なんだかよく分からない感情で胸が溢れかえる。それが悪い感情でないことだけは確かだ。


「それにしても、凄い人だなぁ…」
「クリスマスですからね。今日はいつにも増して多くて来るまでに酔いそうでした」
「オレも…でも、なまえに会えるんだと思ったら耐えられた。オレがなまえに酔っちゃってるからかな?」
「た、辰也さん…!」
「はは、クサすぎたね」
「他でもない辰也さんだからでしょうか、素敵にしか聞こえませんでした」
「なら良かった」


片目でにっこりと微笑んだ辰也さんのセリフは多分他の人だととんでもなく寒い。冬だというのに体の芯から冷え冷えとさせてくれたと思う。でも辰也さんだと、どうしようもなくキュンキュンしてしまうのだ。帰国子女って半端ない。いや、辰也さんって半端ない。

その半端ない辰也さんは、私が可愛げもなくぶちかましてしまったくしゃみに慌てて歩き出した。辰也さんが私の手を引いている事実が重大で、鼻がむずむずしただけだから大丈夫ですよ!と言い返すタイミングを失ってしまった。


「イルミネーション、綺麗だね」
「辰也さんの方が綺麗ですよ」
「そ、それはなんと言うか…あり、がとう…?」


…どうやら私が放った辰也さん的決め台詞は不発に終わったようだ。冷え冷えとさせたのは私でしたすいません。でも本当だから後悔はしていません美人ごちそう様です。苦笑いする辰也さんもふつくしい!なんて内心鼻血を垂らしていたら、辰也さんが予約してくれたレストランに到着していた。美人は三日で飽きるとか言うけれど、言葉を作った方に言いたい。人に寄るんじゃないですか?現に飽きない人がここにいます、と。


「でもいいんですか?こんな高そうなお店…」
「父さんの知り合いがここで働いててね、今回帰るって知らせたら格安でいいからおいでって誘われたらしい」
「Oh…さすが辰也さんのお父様。顔が広いんですね」


キラキラと光る銀の食器に生唾を飲み込む。平々凡々な庶民生活を送ってきた私は、ナイフやフォークがいくつもあるこんな店には来たことがない。というか…マナーが分からない…やばいやばいやばい!まさかファミリーが付かないレストランだとは思ってもみなかった…!!


「なまえ、緊張しなくていいよ。」
「ふぁいっ!」
「…とりあえず手が震えすぎてコップの水がこぼれそうだから置こうか」
「ひゃいっ!」


スマートな辰也さんとガチガチで目がぐるぐるな私。見合って無さすぎて泣けてくる…パニックで涙すら出ないけど。料理が運ばれてパニックが加速する私に辰也さんが一通り笑った後「オレの真似してみて」そう言われてこくりと頷いた。手元に注目すると、巧みに食器を使いこなして料理を口へと運んでいる。一連の動作が滑らかで、辰也さんの育ちの良さをうかがわせた。

震える手のせいで、カチャカチャと無様な音をたててはしまったものの、大きなミスもなく食事を終えることが出来た。普段せんべい一枚食べるだけでも机を食べかすまみれにする私にしてみれば上出来の食べ終わりだと思う。辰也さん様々だよほんと。辰也さんはナプキンできゅっと口元を拭うと私の視線に気づいて、ん?と笑顔で首を傾げた。


「ドストライク…!」
「え?」
「いえ、こっちの話です」


 

[back|TOP]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -