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「なまえちゃん!25日なんだけどよ、映画行く?そ、それとも…オレん家に…する…?」
「赤くなるな頬を両手で包むな腰をくねくねするなチラチラ見るな息をするな」
「注文が多いなー、真ちゃんでもわがまま3つまでなのに。でもそんな欲張りななまえちゃんがス・キ!」
「黙れ前髪触覚男」


師走。三週目の金曜日である今日、秀徳高校は終業式を迎えた。通知表にさほど驚く結果はなく凡庸そのもの。お決まりの担任による年内最後のホームルーム挨拶を真面目に聞いている者は一人もいなかった。かく言う私もクラスメートの観察に興を咲かせていたため、何一つ頭に残ってはいないが。その長い話も終わって、チャイムが鳴った。我先にと教室を飛び出すクラスメートを見て騒がしいのが得意でない私は、落ち着いた頃にひっそり帰ろうと自席に座り直した。そこに現れたのが隣のクラスの高尾くん。バスケ部で唯一緑間くんと一年レギュラーをはる天才らしい。クラスも一緒で、常に離れず変人と噂の緑間くんと談笑する姿に、二人は付き合ってる、なんて馬鹿げた話があるとかないとか。だがそれは本当に馬鹿げた話だ。この高尾という男は、ある日突然私に告白してきたのだから。


「この触覚はなまえちゃんを見つけるレーダー、なんつってな!」
「二度と見つからないように切り落としていい?」
「切った髪をなまえちゃんが持ち歩いてくれるならいくらでも差し出しまっす!」
「…」


き、キモチワルーーー!!!何考えてんのこの人。誰が他人の髪の毛なんか持ち歩くんだよ。いるとしたら黒魔術とかやるような人かカツラ職人だけだろ。向日葵のような華やかな笑顔にそぐわない変態発言にドン引いたのは言うまでもない。そして私は激しく後悔した。告白に対していい返事をしてしまったことを。だがアレは流れ上仕方なかったというか。勘違いした高尾くんに説明し直すのが面倒で付き合うことにしただけで、冷たくしていれば別れを告げてくるだろうと思ったのだ。それが高尾くんにとっては逆効果になってしまった。この一件については経緯から話さねばならない。

話は一ヶ月前、学校の先輩に告白されたことから始まる。丁重にお断りさせていただいたのだが、先輩は私に付きまとうようになった。と言っても当初は休み時間に教室に来られる程度。それがある朝玄関を出たら家の前に先輩が立っていた。どうやって家を知ったか知らないが、それからは登下校も共に過ごすことになった。だが先輩には悪気はないらしく、彼氏がいないなら俺にもチャンスあるよな!というなんとも健気な恋心が先輩を突き動かしていたようだ。でもそんなことをされても気持ちは変わらないし、なんとか諦めさせたい。そんな時に高尾くんに告白されて、校舎の影から聞き耳をたてていた先輩に気づいてつい付き合うと言ってしまった。
高尾くんには悪いことをしたと思ってる。おかげで先輩は一切姿を見せなくなったし感謝もしている。でも好きでもないのにこの関係を続けるのは高尾くんの貴重な学生生活を潰すことになるし、高尾くんみたいな天真爛漫でモテる男子にはもっとふさわしい女子がいくらでもいると思う。直接「嫌いになった別れよう」と言える強い心臓は生憎持ち合わせていないので、この冷たくして嫌われる方法を選んだ。けれども高尾くんは私にはない強い心臓、そして計りきれないコミュニケーション能力を装備していた。何を言っても笑顔で受け止め想像もつかない返しをしてくる。次第に私の口はどんどん極悪非道になり、今の言葉の暴力と言えるまでのレベルに到達してしまった。


「そうだ、映画行ってからオレん家来いよ!そうすれば一石二鳥!」
「…分かった」
「よっしゃ、決ーまり!そろそろ帰ろうぜ」
「一緒には帰らない」
「そうだよな。一緒に帰るのは将来二人で同じ家に住む時だもんな!今はなまえちゃん家まで行くが正しいもんな!」


誰か高尾くんが驚いて返す言葉が見つからずあたふたする言葉を知る方はいらっしゃいませんでしょうか。いれば是非ともご教授願いたい。私には手に負えない、彼のペースは独特でこちらが主導権を握っていると思っていてもいつの間にか引き込まれてしまうのだ。ハッと気付いた時にはもう遅い。だから決着をつけることにした。25日、別れを切り出そうと思う。


 

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