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「なまえーっち」
「りょーうちゃん」
「おはよっ」
「おはよ!」
「今日も好きッス」
「私は大好き」
「オレの方が好きッスよ!」
「私の方が好きー!」


“はいはい、お熱いこって”誰も言ってはないけど、このクラス全員の冷たい視線を浴びれば分かる。朝からどんよりした空気が教室に広まったのは私達がラブラブオーラを放つせいではない。…と、願いたい。


「あ、涼ちゃん寝癖ついてるよ?ダメじゃないモデルさんなのに」
「なまえっち直してっ」
「しょーがないなぁ…はい、直った!今日もカッコイイよ涼ちゃん」
「なまえっちは相変わらず可愛いッス!」
「やぁだも〜涼ちゃんったら」
「えーだって本当の事なんスもーん」


涼ちゃんこと黄瀬涼太と付き合い始めてからというもの、毎日こんなことをしていたら、学校公認の超仲良しバカップル。なんて呼ばれるようになっていた。ケンカもしたことなければ、泣かされたことも泣かせたこともない。毎日の電話とメールは日課。休みの日にはデートして記念日も忘れずお祝いして、お互いの親にも挨拶は済ませてるしこれでもかってくらい充実した恋愛を満喫してる。


「いやぁぁぁああ!!」
「お、おい違うんだって!」
「「!?」」


廊下から飛び込んできた女子生徒の次に顔面蒼白の男子生徒が続く。


「近付かないでよ変態!」
「だから違うんだって、それは借り物で…」
「ちょっと…どしたの?」
「なまえ!」


私達程ではないけど、この二人も仲が良いカップルだ。何度かケンカもあったみたいだけど直ぐに仲直りしてた。今回は一方的に彼女が避けている…ということは何かやらかしたのは彼か。


「いったい何したの?」
「みょうじ、オレはなんもしてないんだって!ただ友達から借りたDVD返そうと持ってきたらたまたま見つかって…」
「…それでなんで怒るの?」
「そのDVDがこれだからよ!」


床に叩きつけられたDVDパッケージに自然に目が行く。タイトルを確認しなくてもそれがどういう内容なのか理解した。これは…良い子には見せられない代物だ…!女性が所狭しと並ぶそのDVDから一歩後退る。


「で、でも、まぁ健全な男子学生なんだからこれくらいは…」
「なまえは許せるの?私は絶対嫌!気持ち悪い!」
「んだよ!だから、これはオレの趣味じゃないんだって!」
「じゃあこの気持ち悪い趣味してるの誰だっていうのよ!」
「ちょっ、落ち着きなよ。とりあえずこんなDVD、教室の床に置いとくもんじゃな…」
「黄瀬だよ黄瀬!」
「えっ」


会話を遠巻きに聞いていた涼ちゃんがビシッと指を差され、女の子みたいな可愛い声をあげた。固まったのは私だけではない。目の前の彼女も、クラスメートの女子も全員、同じ人物を見て固まっていた。


「キャアアアアアアアアアァァァ」


私は知った。
人間(女性)の声が集まれば地上三階の教室一つ揺らす事は簡単なのだと。


「涼ちゃん…?」
「えっ、いや、オレはあの」
「黄瀬が、これは一番のオススメだから絶対見とけって!」
「違うッスよなまえっち!こういうの1枚は持っておかないと話に入れないかと思って仕方なく…」
「“一番のオススメ”って言ってたように聞こえたけど?」
「う゛…いや…」
「サヨウナラ」
「なまえっちーーー!!」




――――――――

「なまえーっち」
「…」
「おはよっ」
「…」
「今日も好きッス」
「…」
「あ、寝癖出来てる。なまえっち直して?」
「…」
「…」


あれから三日。涼ちゃんとは全く口をきいていない。メールも無視。電話も無視。
そんな私を見て、クラスの男子は鬼だ…と冷や汗を流した。


「…ねぇ、なまえ」
「何?」
「事の発端である私が言うのも何だけどさ。黄瀬くん、もう許してあげたら?」
「………………やだ」
「はぁー、あんな上玉もう一生会えないよ!?」
「上玉?」
「モデルやる程容姿端麗!運動も文句なし日本一常連!自分をこれでもかと愛してくれる!他に何がいる!!何もいらない!!」
「う、うーん…」
「本当は許してるんじゃないの?仲直りの方法が分かんないだけで」


ぶにっと呆れ顔で私の頬を突いた友に返事の変わりに目をぱちくりとさせる。正に図星、ケンカなんてしたことない私にはどうすれば分からなかっただけだ。正しくは私が“いいよ”と言えば済む話なんだけど、どのタイミングで、どんな風に言えばいいのか迷って結局素直になれずに終わってしまう。


「バレバレだよ。ツンツンしてるの黄瀬くんの前でだけだし。私といる時絶対黄瀬くん目で追ってるし。メールとか電話無視するの辛そうだし?」
「えと、ごめん」
「謝らなくていいよ。その代わり、黄瀬くんと仲直りしな」
「うん…ありがとう!」
「おう!ところで、肝心の黄瀬くんは?」
「え、あれ?さっきまでいたのに…」
「大変だあああぁぁぁぁぁ」
「!?」


廊下から飛び込んできたのは3日前、こちらも事の発端である黄瀬くんにDVDを借りていた彼だ。息を切らし膝に手をついた彼にクラス中の目が集中する。彼はバッと顔をあげ、叫んだ。


「黄瀬が学校のマドンナに屋上へ呼び出された!告白するつもりらしいぞ!!」
「ええええええぇぇぇぇ!!!」


私は知った。
人間(女性に限らず)の声が集まれば地上三階の教室一つ揺らす事は簡単なのだと。


「ああああマドンナがあああああ」
「なまえと付き合ってんのに黄瀬くんどういうつもり!?」
「マドンナ性格重視じゃなかったのかよぉぉぉぉおおおおお」
「なんでよりによって今なの!?」


男女で目の付け所は違えども、平凡な昼休みに飛び込んで来た特大臨時ニュースに大騒ぎ。別のクラスからも野次馬が駆けつけ、噂は噂を呼び瞬く間に全校へと広まった。


 
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