1/2 「来たっ良ー!こっちこっち」 「みょうじさん!すいませんすいませんすいません遅刻とか本当にすいません!」 「遅刻って…まだ集合時間から一分だよ?」 「でも遅刻は遅刻です!すいません!」 「それより、デートの時は?」 「あ。えと、なまえ…ちゃん」 「ん、良しとしよう」
目の前でかぁっと耳まで赤く染めて私の名前を呼んだ良は、彼女である私なんかよりよっぽど可愛らしい。きゅんと胸を締め付けられて、たまらずよしよしと頭を撫でる。なんだろうこの小動物を愛でたくなるような可愛さは…!うつむいて照れる良の手を引いて、私達は休日で賑わう街へと繰り出す。映画やショッピングなど、一通りデートを楽しんだ私達は、晩御飯を食べにファミレスへに入った。
「へ?公園?」 「はい、ここから電車で三十分くらいのところにあるんです」
そこは丘の上にある公園で、雑誌にも載る有名なスポットだ。行った事はないけどとてもキレイな夜景が見れるらしい。これは良から聞いて初めて知ったけど、その公園には丘から自分の願いを叫ぶとそれが叶うというなんとも不思議なジンクスもあるそうだ。
「あの、良かったら行きませんか?」 「もちろん行く!」
電車を乗り継ぎ、公園へ向かうとさすがは有名スポット。数組のカップルが夜景を見学に来ていた。紛れもなく私達もその一組なわけだけど。思わず、眼前に広がる無数の無機質な灯りが、空から落ちてきた星みたいだな…なんてポエマーを発揮してしまった自分に苦笑いを浮かべた。
「私アレやろうかな!」 「アレって…もしかしてジンクスですか!?ででででも他の人もいるしここで叫ぶのは!」
大慌てで両手を空でさ迷わせ止めようするのを無視して大きく息を吸った。
「私からはありったけの元気をあげるから、あなたからは溢れるくらいの愛をくださーーーーーーいっ!!」 「ふぇっ、は、はいっ!すいません!」
これまたポエマーな私の願いの返事はまさかの謝罪で「なんで謝るの!」と、サラサラと夜風に揺れる栗色の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
「わわっ、すいません!謝ってばっかりですいません!すいません!」 「…」
逆効果。更に増えてしまった謝罪に頭を抱える私を見て、良はまた謝りかけて言葉を詰まらせ…を繰り返した。短く溜め息を吐いて人差し指を良の目の前にピッ立てる。
「お願いがもう一個増えた」 「え…もう一個ですか?」 「うん、良がすいませんの代わりに愛してるをいっぱい言ってくれること!」 「えええっ!?あ、あい…っ!?」
あと三文字を口にすることも出来ずにあわあわとする良の首に腕を回して、小首をかしげて精一杯甘い声を作る。
「私は愛してるよ。良は違うの?」 「ええっ!すすすすい…」
先を読んで、あからさまにしかめっ面を向けると良はハッとしてゴクリと喉を鳴らし私をユラユラと揺れる大きな瞳で見つめた。
「オレも、なまえちゃんのこと愛してる…!」
きゅ〜っと胸元から頭まで真っ赤になって、仕舞いにはボンッと噴火するんじゃないかと思った。私はあんまり照れたりしないから、目の前の純粋無垢な彼が私の分までそういうのを担当してくれて良かったなと思う。
桜は純情
(桜井、青峰はどないしたんや?) (青峰さん練習誘ったんですけどどっか行っちゃって…すいま、あ、いや愛してます!あ、違う) (桜井!?急にどないしたんや…) (え。あ、つつつつい癖で…すいません!!)
→あとがき |